第3話 学友
【side:ノクス】
大講堂よりぞろぞろと出てくる新入生達。入学式は無事(?)終了し、今は割り振られた教室へ各々移動を始めている。
その中には当然ノクス・オリビア・ゼノン・ミリア達の姿もあった。
「にしても、色々濃い入学式だったな~」
「そうね。こんな愉快な学園だとは思ってもみなかったわ」
「それはそうだろう。何せ貴族も通う学園だからな」
「あの、その……えっと……そう、ですね」
いや、本当に濃かった。はじめの新入生代表が普通というか、ちゃんとしていた分、後の生徒会長や理事長のキャラクターが濃いのなんの。想像もしてなかったよ。筋肉マッチョ生徒会長にゴスロリ理事長って、「これ何てラノベ?」って感じだった。
ただ本当に驚いたのは、あの生徒会長貴族じゃないっぽいんだよね。名前に“フォン”が入っていなかったから。貴族も通うこの学校で平民組が生徒会長に成れるなんて、この学校の生徒会長の権限が低いのか、それともあの人が凄いのかいまいちわからなかった。
「なぁオリビア」
「なに?」
「あの生徒会長。どんくらい強い?」
「ぷっ……ちょっと! 思い出しちゃったじゃない…………ふぅ。それで、強さだっけ?」
「そう」
「んー……そうね。大分強い……と思うわ」
「そうか……」
やはりあの見た目は、伊達ではないのか……。俺はいまいち戦士系の強さって分からないんだよね。そういう意味では剣聖であるオリビアの勘は頼りになる。
「えと、オリビア……さんは、分かる、ん……ですか?」
「ええ、まあね。といっても勘だから正確には分からいけど」
そう言って肩を竦めるオリビア。一方その話を聞いたミリアとゼノンは感心した様子だった。
「そう言えばオリビアさん達はどんなクラスなんだ? ちなみに僕のクラスは【
「私? 私は【
「す、すごい……ですね。その名前、は私でも、聞いたこと……あります、よ」
「たしか……剣聖オリヴェイラ、だったかな。僕も昔話で聞いたことがある」
「あれ?……名前も、似てます、ね」
「ええ。父が私のクラスを聞いて、あやかった名前にしたそうよ」
この世界では【クラス】は生まれながらにして持っているものだ。そして自分のクラスは内に意識を向ける事で思い浮かぶようにして分かるもんだ。理屈は知らん。
因みに、第三者がクラスを知る方法は二つ。一つは自己申告。そしてもう一つは【支援系下位クラス】の一つ【
【
そして少し話は変わるが、地球とは違い医療技術が未熟なこの世界での乳幼児の死亡率は高かったりする。少なくとも日本よりは遥かに。その為3歳になるまでは生まれた順番で仮の名前を付けるそうだ。その後無事3歳の誕生日を迎えると祝いに【
因みにこれが貴族や金持ちの平民になるとまた違ってくるそうな……。
「ちな俺は【
「なっ!……またしてもビッグネームじゃないか」
「お二人とも、凄い……ですね」
「そんな事ないわ。所詮生まれながらにして持つものだもの。私が自分の力で手に入れた訳ではないわ」
二人の賞賛にあっけらかんと言い放つオリビア。
「……凄いな、オリビアさんは。僕にはそんな考え方は出来ない。どうしても驕ってしまうよ」
「別にそんなもんじゃね? 普通は。コイツがストイックなだけだよ」
別段ゼノンの考え方が間違っているとも思わないけどな。人は誰しも一つや二つ、自慢したいものがあってもいいだろう。とはいえなぜクラスには【高位クラス】と呼ばれるような明らかに性能の違うものがあるのだろうか?
昔、村の翁は【クラス】の事を天賦だと言っていた。だが俺はそう思わなかった。前世で病院生活を送っていた俺は運動なんて出来なかった。だから読書をよくしていたが、少しばかり歴史の本を読み漁っていた時期があった。人生経験の足りない俺が言うのも変だが、天才ってのはそんなに代えが利くものなのだろうか? と疑問に思った事がある。
さらに言えば、真の意味での天才ってのは評価出来ない存在の事ではないだろうか? 少なくとも俺はそういう風に考えている。
【クラス】の凄さは分かりやすいし、代えも利く。それを踏まえて、俺は【クラス】とはその人の適正を指しているのではないかと思っていたりする……。
「それにこんなこと言ってるけど、最初の頃は酷かったぞ」
「ちょっ、馬鹿! 言うな!」
「痛ったっ。蹴るな」
「うるさい馬鹿っ」
そんな俺らの痴話げんかをゼノンが慌てて仲裁する。……ミリアはオドオドしていた。この程度、ただのじゃれ合いだからそこまで困る必要はないのだが……。
「ふぅ……。あと聞いてないのは……ミリアか」
「そう言えば僕も知らないな」
「あっ、えと……そのぉ……」
「どうしたの?」
「ひぅっ!」
何故かクラスを聞いたら急に怯え始めたミリア。まるで初めて会った時のよう……だ?
「どうしたのかしら?」
「さぁ、僕にもさっぱりだ」
そんなミリアの様子に困り、顔を合わせる二人。なんとなしに足を止めてしまう俺達。俺達の事を不思議そうに眺める他の生徒達。俺達は邪魔にならないように通路の端に移動する。
「どうしたの? 大丈夫よ」
あれこれと手を尽くすオリビア。そんな様子を見ながら、俺は一つ思いついた事があった。俺はそっと近づきオリビアにも聞こえない小さな声でミリアに尋ねる。
「(もしかして、クラスのことで虐められていたのか?)」
「ひゃう!」
驚いて大きな声を出すミリア。そして目立ってないかと周囲を見渡した。二人は急に声を出したミリアを不思議がっていたが、ここは俺に任せるのか聞いてはこなかった。
「(ど、どうして、それを!)」
「(俺らの村にもクラスが原因で虐められていた奴が居たからな……)」
俺の【
ベルフォード村に【
ちなみに、当時クラスを知ってイキっていたオリビアに、いじめっ子たちは成敗されたのでした……めでたしめでたし。
「(う、うぅー。はい……)」
「(気にするな。俺も、オリビアもクラスで差別したりしない。ゼノンは……どうなんだろうな?)」
「うぅー……」
唸り続けるミリアを一旦放置して、今度は二人に向き直る。
「お前らて別にクラス差別したりしないよな?」
「ちょっ、なに、を!?」
慌てるミリアを無視して二人の返事を待つ。
「どうしたの、今更?……ってそういう事なのね」
「? よくわからないんだが……」
どうやらオリビアはミリアの抱える問題に気が付いたようだった。対してゼノンの方はあまりピンときていないようだ。
「つまりね……――」
そんなゼノンに説明をするオリビア。俺は二人の様子を見守り、ミリアはあわあわ、おどおどしていた。
「――なるほど。勿論、クラスで君を責めたりしないと誓おう」
「当然私もだわ」
しっかりと頷くゼノンに、ミリアに優しく微笑みかけるオリビア。俺も二人に合わせる。
そうしてミリアは意を決したようにしゃべりだした。
「えと、私の……クラス、は……。【
「えと……何? それ」
「僕も聞いた事ないが……」
戸惑う二人。当然俺もそんなクラスは聞いた事が無かった。
しかし、語感から察するにあまり良いイメージの湧くクラスではないのだろう。
「うーん。もしかして弱体化に特化した【支援系クラス】なのだろうか?」
「!……えと、凄い、ですね。そんな……感じです」
「相変わらず、何で分かるのかしら?」
「ノクスはいつもそうなのか?」
「ええ。知らない事を知っていたり、無駄に頭がよかったり……」
「おいこら、無駄とはなんだ」
「村に来た商人が驚くほど賢いって、何なのよ全く……」
失敬な! いくら俺が学校に通っていない引きこもりだからといっても、勉強はしていたぞ………………最初の方は。
「えと、その……怖い、とは、思わないん……ですか?」
恐る恐るといった感じでミリアはそんなことを聞いて来た。
「何が?」
「だって……呪うんです、よ……」
「別に。呪われる方が悪い」
「え?」
そう言い切る俺に、理解できないモノを見たといった様子のミリア。脳が停止している様子だ。
「はぁ。ノクスのはどうかと思うけど……、少なくとも私は《呪われるかもしれない》ってだけで貴方を拒絶したりしないわ」
そう言ってミリアの手を握るオリビア。相変わらずのイケメンっぷりだ。そんなんだから姉御って言われるんだぞ。――ひいっ、背中に寒気が!!
「ゼノン君はどう?」
「ふむ、そうだな……」
眼鏡をクイッとしつつ考えるゼノン。――いいな眼鏡クイッ。何か知的だ……。
そんなシリアスぶっ壊しの感動を覚えていると……
「(グフッ)」
俺の思考を読んだのかオリビアがこっそり脇腹を抓ってきた。ごめんなさい、大人しくしています。
「オリビアさんの言う通りだな。それを言ってしまえば僕の魔法だって簡単に人を傷つけられるし、それを隠す事だって出来るかもしれない。だから僕もそういったクラスを持っているだけで、どうこうとは思わない」
「!!――ありがとう、ございます」
ミリアは涙目になりながらそう言ったのだった。
ミリアが落ち着くのを俺達は待った。が、少し時間が経ちすぎている気がする。
「少し長話が過ぎたな。そろそろ教室に急ごう」
「あうっ、ごめんなさい」
「こーら、そんな言い方しない」
そう言って俺の頭を叩くオリビア。ごめんって、悪気は無かったんや。
「たしかに今のはどうかと思うが、……ノクスの言う事も尤もだ」
「ゼノン、それはフォローになってないぞ。……あ! 因みにだが皆は何組? 俺A」
「私もAよ」
「そうか……僕はBだな」
「えと、私も……B、です」
「なる。じゃあ、ゼノン。ミリアを任せてもいいか?」
「ああ」
「少し心配だけど……まぁ、これから話す機会は作れるでしょうから」
確かに組は違くとも、休み時間や放課後、話したり遊んだりする時間を作ればいいだけのことだ。それにそういう青春っぽいのは是非とも体験してみたい。
時間も心配になってきたため、ここからは歩きながら話すことになった。
「さっそく今日の放課後は……っといっても僕は無理なんだが」
「あ、わりっ。俺らも用事あるわ」
「そうね、色々店を周らないとだわ」
「あう、ごめんなさい。私も、無理、です」
「タイミング合わなかったかー」
「しょうがないわ。また今度ってことで」
そうこうしている内にA組の教室前に着いてしまった。
「じゃあ、またな」
「またね、二人とも」
「ああ、また」
「えと、また……今度、です」
そう言って俺達は教室前で別れた。そして俺とオリビアが教室に入ると、言い争いをしている声が聞こえて来たのだった……。
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