第99話 可愛いは最強

「ピュル~」


 鳴き声と共に俺の胸に衝撃が走る。


 黒い影が、ものすごい勢いで飛び付いて来たからだ。


「ぐっふ」


 油断した。


「ピュルルル~ピ~ピ~」


 何て言ってるか解らん。

 人語は得意じゃなかったのか?


『産まれたばかりだから~上手く喋れないよ~?』


 俺の胸にすがり付いてるクリスタルドラゴンの子供は、ヒヨコみたいな羽毛は白くて、フワモコぬいぐるみの様に可愛い。


 コーチャンも目を光らせて確認してるみたい。


 抱き締めるのに丁度良い大きさで、翼も小さくてフワモコなのに、どうやって飛んで来たんだ?


『竜種は~魔法で飛ぶんだよ~』


 なるほど魔法ね。


「どうやらクリスタルドラゴンの子供で間違いないよ。小さいドラゴン代表のベビードラゴンなら見た事あるけど、ドラゴンの子供とは別物だね」


「そうなんだ?」


「ベビードラゴンはあれで成体みたいで、若干の個体差はあるけど大きさはほとんど変わらないんだよ。ドラゴンの子供は成長して大きくなるみたいだね」


 ベビーなのにアダルトなんだね。


「ピュルル、ピュイピュイ」


 おお、何か一生懸命訴えてるのが可愛い。


『お腹すいた~って言ってるよ~オヤツにしよ~』


 ガチャミはオヤツ食べただろ!

 しかし魔石は売ってしまって持ってないからな…


「これをあげなよ」


 コーチャンが魔石を出してくれる。


「いいの?」


 講習中に出たドロップは、講師の裁量で使っていいんだって。


 何もドロップが出ない受講生のために、ドロップしたフリをしたりするとか。


 そんな裏事情は知りたくない。


「ピャ~ピャァ」


 地面に降ろそうとすると、嫌がるように引っ付いてくるが、ダメだと言い聞かせる。


「お座り」


「ピュル」


 ちょこんとお座りする。

 賢い可愛い。


「お手」


 と言いながら、右の前足を手で持ち上げる。

 爪も小さくて可愛い。


「おかわり」


 今度は左前足を持ち上げる。


「食べてよし」


 躾は最初が肝心だからな。

 手の平に魔石を乗せて出す。


「ピュルルル」


 器用に魔石を前足で掴むと、口に入れる。


「美味いか?」


 ポリポリと固そうな魔石を簡単に噛み砕くあたりは、流石ドラゴン。


「ピュイッ」


 可愛い、ナデナデ。


「名前を決めなきゃな」


「クレステッドアイビス」


「そのネタから離れろよ!」


「ピャア!」


 ほら嫌がってるだろって、人の名前にそれも失礼だな?


 白いからシロは安直だし、スノーとか雪もありがちだし。


 じっと俺を見てるドラゴンを見た。


 目の色は緑…いや紫に色が変わった?

 赤や青もあるから虹色か?


 虹は確かアルコイリスとかアルカンシエルって言うんだっけ?


 う~ん…イリスかアリス…いや、アイリスか…アシエルは男っぽいし、何かの名前だった気がするから、ルカ…いや、シエルかな。


 どれが良いか、本竜に決めさせるか。


「イリスかアイリスかシエルのどれがいい?」


「ピュルピュル」


 うん、わからん。ガチャ●もん~。


『シエルが良いって~』


「そうか、ならシエルだな。よろしくシエル」


「ピュルルル!ピュイ!」


 喜んでるのは判るが、言葉が解らない。


『よろしく朱鷺だって~』


「良かったねトキ。何かあったら相談してね」


「ちゃんと最後まで面倒を見るんだぞ?」


「ありがとうコーチャン。わかってるよ父さん」


「ピュルル、ピャアピャア」


『まだ足りないって言ってるよ~』


「じゃあ、丁度いいから【オヤツ】スキルを試してみよう」


「え?マジで?」


「マジで!」


 う~ん、オヤツを使うぞと思ってみる。

 材料が必要みたいだな。


 コーチャンに言うと、材料は何か聞かれたけど、魔力があれば何でもいいみたい。


「なら、魔力の実がいいかな?」


 渡された魔力の実をジッと見ると、なんとなく出来ると感じた。


 もう一度オヤツを使うと念じる。

 そうすると魔力の実が光だす。


 キラキラした後に、ふわっと光ると、手の中に透き通った紫色の飴のような物が現れた。


「ピュルルルル!ピュイ!」


 お、シエルも喜んでる可愛い。


 コーチャンが目を光らせて見ているから、オアズケをさせる。


「へぇ、マジックキャンディだって。食べるとMPが回復するみたいだね。ストレージで確認出来たら、回復量もわかるのにな」


『朱鷺のスキルで作ったアイテムなら入るよ~?』


 な、なんだって~!?


 ガチャミにストレージに入れて貰って確認する。


 マジックキャンディ1個で分類が…オヤツ?

 まぁいい、ランクはEだった。


 詳細は次の通りだ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

名前:マジックキャンディ(アップル)

品質:良

備考:舐めればMPを5回復する。

   アップル味で甘い。

   舐めてる間はMPが少しずつ

   回復する。

   魔力の実を特殊加工したもの。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 魔力の実が3回復だったから、回復量がアップしてるな。


 オアズケで涎を垂らしながら、お座りして待っているシエルに、お手とおかわりをさせて与える。


 ホッペを膨らませながら、口の中でコロコロ転がして食べるのも可愛い。


 コーチャンが追加で魔力の実をくれたので、1個はサンプルでコーチャンに渡して、2個をストレージに保管しておく。


 ガチャミがメチャ食べたいアピールしてたが、もちろん無視しておく。


 ヒール草でも作ってみたら出来た。

 材料と薬草味になっただけで内容は同じ。

 でも少し苦いって出てるから、シエルは食べるかな?


 魔石で試したら、他に材料が必要って感じて、魔力の実もヒール草も違ってたから保留になった。


 シエルが舐め終わったようで、俺に飛び付いて来た。

 ナデナデしてフワモコを堪能する。


 名残惜しいが、オーブに戻してストレージに入れる。

 オーブに戻すのは、戻れって思えば出来た。

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