第76話 イケメン不在

 ステータス課の前にも人がいたので、番号が呼ばれるまで椅子に座って待つ。


 今カウンター内で対応しているのは早良さんじゃなくて、昨日は横のカウンターにいたお姉さんだ。


 勝負で負けると感じたのに不在とは、不戦勝は対象外なのか?

 いや、お姉さんのスマイルに負けるのが、フツメンなんだね。


 職業と称号の申告は、2階に特設カウンターを設置して対応してますと、総合案内のお兄さんが説明していた。


 1階は通常業務の受付を2ヵ所にまとめてるから、職員の人数が少ない。

 他の職員は2階に行っているのだろう。


 今ここにいるのは講習を受ける人や、カードの紛失届とか、すでに申告を終えて依頼を受ける人や、アイテムの買取り査定に来ている人だろう。


 まぁ初心者ダンジョンは元々利用者が少ないから、これで対応が出来るのだろう。

 利用者の多いギルドはもっと大変だろうね。


 とは言え普段は利用してなくても、近隣から申告に来る人はいるから、ここも満車だったんだけど。


「あれ?八女君?」


 名前を呼ばれて振り返ると、どこかで見た事のある女子がいた。

 たぶん1年の時に同じクラスだったと思うが、名前なんだっけ?


「ああ、久しぶり」


 名前が出てこない時の応対その1、"名前を呼ばないで済ませる"を発動だ。


「八女君も講習?」


「そうだよ」


「アタシもなんだ!先週ステータス獲得したんだけど、予約が出来るのが今日しかなかったから」


「そうなんだ」


 イケメンが手続きしたから、予約状況は知らなかったよ。


「八女君も誕生日が近いんだね?アタシは4日なんだけど、八女君は?」


「11日だよ」


「それじゃあ昨日ステータス獲得したの?」


「まぁね」


 うう、いつまで話すんだよ。

 他に知り合いがいないからか、同じクラスの時でも話した事はほとんど無いはずなのに、グイグイ来るな。


「あ、じゃあさ…」


「23番の番号札の方~」


「あ、呼ばれたから行くね」


 ナイスタイミングだよお姉さん!

 さすが本物のお姉さんだね。


「番号札をお願いします」


 カウンターに行くと、番号札を渡す。


「ギルドカードを出して下さい」


 やはり早良さんとは笑顔が違うな。

 今日はベテランは2階の方なんだろう。

 しかし初々しさを感じる笑顔は、これはこれで良いね。


 負け惜しみじゃないよ?

 なんかグイグイ来る女子に絡まれた心を、解してくれたからだよ?


「はい。講習の予約確認が取れました。こちらの名札を見える場所に着けて頂いて、あちらの部屋で座学を受けて下さい」


 カウンターに向かって左側にあるドアの前に、F級講習会場と書かれた立看板があるのが見える。


 昨日通った通路の手前にあるドアだ。


「ありがとうございます」


 ペコリと頭を下げて部屋へ向かう。


「24番の番号札の方~」


 元クラスメイトが呼ばれたようだ。

 これで話しかけられなくて済む。

 名前を思い出せなくてゴメンね。


 名札は番号が23と書いてあるだけの、シンプルな物だった。


 クリップと安全ピンが付いてるから、ライダースジャケットの胸ポケットにクリップで着ける。


 このライダースジャケットは、母さんがくれた誕生日プレゼントで、ドロップ品だから多少の攻撃は防いでくれるって言ってた。


 どこのダンジョン産かは教えてくれなかったけど。


 部屋に入ると既に座っている人で埋まってるから、空いている席は前の方か座ってる誰かの間になる。


 割って入るのもアレなんで、前の方でも端っこの空席に座る。


 15歳で講習を受ける人ばかりの中に、少し年上の人がチラホラいて、極少数の三十歳を越えてるような人がいる。


 成人しないと親が許さない人もいるし、オリンピックやプロスポーツを目指すならステータス獲得は不可だから、引退してから来る人もいるためだ。


 オリンピックも年々、ステータス獲得した人でやる競技も採用しようとか言われてるけど、各スポーツ団体が猛反発してる。


 でもスポンサーも年々、ダンジョン関連企業が増えてるから、探索者の方が宣伝効果があるとかで、そっちからの圧力が凄いらしいけどね。


 俺はやっぱり、その競技に必死で取り組んでいる人を応援したいよ。


 探索者になりたくて、ステータスを獲得した俺が言う事でもないけど、スキルに頼らず心身と技術を磨いている人は凄いと思うよ。


 探索者なら訓練なしで世界記録も出せるだろうけど、そんなの見ても面白くないからね。

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