第68話 デコピンは必殺技

「朱鷺、今日の鍛練はどうする?」


 爺ちゃんに聞かれて、ギルドに行く前に軽く型をしただけだから、鍛練して貰おうかな?

 ステータス獲得との差も知りたいし。


「爺ちゃんさえ良ければ、やりたい」


「なら、道場に行くか」


「俺も付き合おう」


 父さんも来るの?

 ダンジョンに行った日は、鍛練しないのに珍しいな。


「息子がスキルを得てから、初めての鍛練だからな。初めて歩いた時の様に、思い出に刻まないと」


 真面目に恥ずかしい事を言うなよ!

 絶対に面白がってるだけだろ?

 内心ではニヤニヤしてるハズだ!


「父さんが子供の初めては思い出に刻みたいって言ってると、姉ちゃんに言っておこ」


「おい朱鷺、それは卑怯だぞ!」


 前に姉ちゃんに、授業参観を拒否されたのを知ってるからね。


 思い出を刻むとか言ったら、成人式も拒否されちゃうよ?


 まぁ授業参観の拒否は、父さんが有名だから、皆が授業に集中出来ないって理由だけどね。


「父さんがキモい事を言うから」


 キモい…と落ち込むオッサンは放っておいて、道場に入る。


 わざわざ着替える事はしない。

 今の格好は、普通のスポーツ用のジャージだよ?


 よくある居合や剣道の道着なんかで、鍛練はしない。


 爺ちゃんは現実主義だから、そんな日常で着ない服装で練習してどうすると言ってる。

 だからジーンズや探索者の格好もOKだよ。


 ちなみに爺ちゃんは日常生活でも、だいたい道着だから、たまに外国人から勘違いされて、サムライになりたいとかって道場まで押し掛けられる。


 うちの道場は、基本的に実戦を想定に探索者向けにしかやってないんだ。

 地元では八女流探索者道場とか言われてるよ。


 剣術大会とかに出たい人は、お断りしている。


 ベルトだけ巻いて、模造刀を差したら準備は終わりだ。

 模造刀は刃がないだけで、本物の刀と同じ重さと長さの物を使っている。


 ベルトは特製だから、栗形と返り角に引っ掛けて鞘がずり落ちないように作られてる。


 ベルトがない時は、下げ緒で腰に巻いている。


 道場も実戦を想定してるから、靴をはいたまま出来るように土間だけの場所と、裸足でする板張りの室内と両方があるよ。


 後は庭で巻き藁を切ったり、裏山で障害物があっても抜刀する練習とか、悪路を走りながら素振りや打ち合いとかしてる。


 爺ちゃん達は悪路も砂利道も、裸足で走り回ってても平気だよ。

 足ツボ効果で健康になるぞとか言われても、遠慮したい鍛練方だよ…


 ステータスが上がれば、身体が丈夫になるんだから、そんな人に言われても説得力はない。


 今日は土間の方にしておく。


「まずは素振りからな。その指輪は外しておけ」


「ハイ」


 フィットし過ぎて、力の指輪を着けてるのを忘れてた。


 ふぅ。

 息を整えて、模造刀を構え振り下ろす。


 フッフッフッフッ…

 素振りに集中して暫くすると、自分の呼吸音しか聞こえなくなる。


「そこまで」


 爺ちゃんの声で止まる。


「どうじゃ?ステータス獲得する前と比べて」


「刀が少し軽く感じたよ。あと、いつもより疲れるのが遅い気がする」


「うむ。今度は一の型から三の型までを、どれだけ速く繋げるかやってみい」


 袈裟懸け、逆袈裟、水平切りを連続で繰り出す。


 まずは軽く、それから速く、力を込めて速く。


「いつもより速いし、速くしても思うように振れるよ」


「うむ。どうやら朱鷺は、全体的にステータスが上がったみたいだの」


「そんなの判るんだ?」


「刀が軽く感じるなら攻撃力が、疲れないなら体力が、速く振れるなら速力が上がったと言う事じゃな」


「あとは防御は殴るのが早いが…光に試して貰うかの?いつものじゃれ合い程度なら大丈夫じゃろ?」


「嫌だよ!姉ちゃんに頼んだら、喜んで手加減しないよ!」


「なら…朱鷺よ、絶対に動くなよ?」


「うえ?」


 爺ちゃんが近付いてくるから、思わず下がると、ガシリと父さんに押さえられる。


「大丈夫じゃ。ちょっと痛いだけじゃ」


 それ絶対痛い時に言うヤツ!

 爺ちゃんが顔に手を伸ばすのが見えて、思わず目を閉じる。


 バシッ。


「いった~!」


 額を押さえて呻く。


「どうじゃ?光にやられた時と比べて痛かったか?」


 そんなのわかるか!

 いや、姉ちゃんのパンチはこんなものじゃなかったかも?


「わかんないけど、姉ちゃんよりは痛くなかったかも」


「うむ。なら防御も少し上がっとるかもな」


 上手く手加減出来たわいって聞こえたのは気のせい?

 爺ちゃんが手加減間違えたら、額に穴が開く必殺技になるわ!


 こんな調べ方やめてほしい。

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