第59話 サワラーギルド

 ギルドの外に出たら、夕焼け色の雲が見えた。


 秋の日は釣瓶つるべ落としと言うけど、4時前なのに、もう夕方って感じるよね。


 ついこの間まで5時でも明るかったのに。


 ちょっと肌寒さを感じる空気に、さっさと家に帰ろうと駅に向かう。


「あれ、朱鷺?」


 不意にかけられた声に振り向くと、従姉妹の尚音ますねがいた。

 後ろに2人連れている。


「マスねえじゃん。こんなとこで奇遇だね」


「私はギルドカードの更新だよ」


 じゃじゃん♪と言いながら等級のところを見せてくれた。


「お~!?C級になったの?おめでとう!」


「へへ、ありがと!ところで朱鷺こそ何してたの?」


「俺も15歳になったから、ステータス獲得したんだよ」


 じゃじゃん♪と同じように見せたけど、名前だけカードに表示する。

 色々見られるとヤバいから。


「あっ、そっか今月が誕生日だったね。おめでとう!」


 サンキューと言ってカードをしまう。


 それよりも気になる事を聞いてみる。


「でもマス姉の所属してるギルド支部ホームって、ここじゃないよね?」


「それがねぇ。今日はこっちにいると思って、わざわざ来たんだけど、結局会えなかったんだよね」


 ん?誰に?

 後ろのお姉さん達も残念そうに頷いているけど…


「朱鷺は知らないだろうけど、スッゴいイケメンがギルドにいるんだよ!」


 ドキッ。

 何かメチャクチャ心当たりあるよ?


「早良さんって言うんだけど、もうホントに王子様みたいなんだよ!ギルド本部の人らしくて、あちこちのギルドに行ってるみたいなんだけど、今日はここって情報があったから、更新の手続きしてもらえるかと思って来たのに、居なかったんだよ~」


 やっぱりワールドアナウンスがあったから、その対応とかで違う場所に行ったのかも、何で今日に限ってと、早口で悔しそうに話すマス姉には悪いけど、それきっと俺のせいだね。


 マス姉がサワラーとは知らなかったよ。

 そして後ろの2人も、あわよくば付き添いを理由に、近くで見ようと付いて来たんだね?


 俺が、へぇ~そうなんだ~と気の抜けた返事をすると、3人のサワラー魂に火をつけたのか、どんなイケメンぶりなのかを喋り出す。


 曰く、エスコートがスマートで、ドアを然り気無く開けてくれた。

 うん、俺もされたよ。


 曰く、自分だけに微笑んでカードを渡してくれた。

 うん、普通はそうじゃないかな。


 曰く、隠し撮りしたファンにも優しく、画像を消すだけで許してくれた。

 うん、しっかり画像は消されるんだね。


 曰く、次に会った時に名前を覚えてくれている。

 うん、営業の人とか名前を覚えるの得意な人いるよね。


 曰く、落としたハンカチを膝を突いて渡してくれた。

 うん、それは何か話を盛ってるよね?


 曰く、道路に飛び出した子供を怪我1つなく助けた。

 うん、A級探索者だもん、他の探索者でも出来ると思うよ?


 曰く、風で飛んだ風船を空を駆けて取ってくれた。

 うん、A級探索者…以下同文。


 曰く、微笑みだけで、周りの女性が失神した。

 うん、ありそう。


 写真はないけど、兎に角イケメン王子なんだと、ものすごい熱量だね。

 それ伝説とか言っちゃう?って話まで入ってるけど…


 そしてサワラーの情報網が怖いわ。


 それと早良さんの写真がないって、隠し撮りの阻止率100%なの?


 その隠し撮りしたファンへの対応から、ファンクラブサワラーギルドの間では隠し撮り禁止令が出てるんだって。


 ネットで見つけたら、御注進削除申請がされるんだとか。

 組織ぐるみで削除してまわってるの?


 朱鷺も早良さんの事を見たら私に連絡してねって、凄い勢いで頼まれたよ。


 サワラー凄いね…何か怖いわ!

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