第15話 属性てんこ盛りおかわり

 コンコンコン。


 ドアから音が聞こえて慌てて身体を起こす。


「失礼します。お待たせして申し訳ございません」


 トレーにグラスを乗せた早良さんが入って来ると、後ろから五十代くらいの厳つい男性が付いて来る。


「ああ、そのまま座ってて」


 慌てて立とうとしたのを制して男が手を上げながら、俺の向かいに座る。


 早良さんはそのまま俺の隣に来ると、スッとコースターとグラスとストローを置いて、どうぞとすすめてきた。


 喉が渇いていた俺は、ストローを使わずに一気に半分ほど飲んだ。


 その間に早良さんは男の隣に行くと、同じ様に男と自分の分も置いてからトレーを隅にあった小机に置いた。


 その流れる様な動きは秘書属性かそれとも執事属性か…ついつい癖でしょうもない事を考えてしまう。


「八女様、こちらは副支部長の大牟田おおむたです」


 男の隣に立った早良さんが、紹介するのを聞いて驚く。


 えっ副支部長サブギルマス?!

 なんでそんな偉い人が来るんだよ!


「申し訳ございません。本来ならステータス課の課長が来る予定だったのですが、大牟田がどうしても同席したいと申しまして」


 あれ?出きる男エリートな早良さんの口調がなんだか怖いんですが…のアクセントが力強いです。


 きっと中坊にはわからない職場の上下関係パワーバランスがあるんだろう。


「いや、ほら、八女君とは知らない仲じゃないし、今回は特例じゃないか」


 ん?八女君?俺こんなオッサン知らないけど。

 こんな厳ついオッサンの知り合いいなぃ…いや知り合いに厳ついオッサンはいるけど、でもその中にサブギルマスなんていないと思うけど。


「ほら、八女様が困惑してますよ。"邪魔をしない"と言うから同席を了承しましたが、大人しく出来ないなら課長と交代してきて下さい」


 おおぅ早良さんが黒い。

 でも黒い笑みもイケメン。


 腹黒属性まで追加されました~。


 サブギルマスは慌てて邪魔なんてしないよ、君のお父さんとはパーティー組んでた事もあるんだよ、君にも会った事あるし覚えてないかな?と情けなく眉毛を下げて弁解する。


 八女君て父さんの事かよ。

 父さんのパーティーにこんなオッサンいたかな?


 ううんと悩む俺に、オッサンが10年くらい前だから覚えてないかな?って5歳児の記憶力なめんな!


 と思った所で眉毛の下がり方に記憶に引っ掛かるものが…


 ああぁ~あの禿野郎ツルピーか?!

 ツルツルの頭を見て勝手にツルピーとか呼んでたんだったわ。


 あれ?今はフサフサしてる。


 じっと頭を見てると、オッサンは思い出してくれた?と小首をかしげる。


 う~わ~思い出した。

 ツルピーは厳つい外見のくせに、やたらと可愛らしい仕草と八の字眉毛の困り顔が近所の犬にソックリで、俺は懐いていたんだった。


 ちなみに近所の犬の名前はカキピーで、ツルピーのピーはカキピーから取った事も思い出したが、あれは若気の至り5歳児のセンスだから。


「思い出しました。サブギルマスの髪型が違うから気付きませんでした」


 ツルピー呼びも怒らないくらい優しい人だけど、髪型以上に八の字眉毛の方を覚えていたことは内緒にしておこう。


「良かった覚えててくれて。髪はダンジョン攻略中は風呂に入れないから、短い方が楽で剃ってたんだよ」


 今はフサフサの髪をかきあげながら照れたように、いつも子供には泣かれちゃうから、あの頃は朱鷺君が懐いてくれてたの嬉しかったよ、と頬を染めるオッサンって誰得だよ!


 俺の心の叫びに気付かず。


「さっき八女君から朱鷺君がステータス獲得に来てるって連絡があってね。とりあえず状況を確認したら、B会議室で説明って言うから久々に朱鷺君に会いたくて同席する事にしたんだ」


 ポロっと公私混同している事を暴露しちゃったよこの人サブギルマス


 あれ?でもメッセージ送れなかったのに、さっき連絡あったの?

 我が父ながらその直感力タイミングが怖い。


「副支部長…邪魔しないんじゃなかったのですか」


「はいっ、黙って座ってます!」


 ビシッと敬礼でもしそうな勢いでサブギルマスは背筋を伸ばす。


 隣の腹黒属性エリートには、副支部長サブギルマスの権力も効果がないらしい。


 空気も凍りつくようなヒンヤリした視線に、やたらと喉が渇く日だ。

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