第8話 グラサン欲しい

 カウンターを出てエレベーターホールの裏側に当たる壁になった方へ進むと、関係者以外立入禁止のプレートが付いたドアを開ける。


「こちらへどうぞ」


 早良さんがドアを押さえたまま促す。


 ドアを開ける仕草までイケメンだよこの人。


 お姉さんズの視線が背中に刺さるのを感じて、そそくさとドアをくぐる。


 ドアの先は少し長めの通路になっていて、どうやら別の建物に続いているようだ。


「通常のご利用者は一旦外に出て表から回って頂いて、ダンジョンへ行かれるのですが、ステータス獲得の場合のみ、こちらからご案内しております」


 ドアを閉めた早良さんが先導するために追い越しながら説明してくれる。


 日本のギルドは基本的にダンジョンの近くに建設されている。


 それにはステータスプレートがダンジョンの入り口に設置されているので、今回の様にステータス獲得の手続きを円滑に出来る意味もある。


 だが最大の理由は、人気があるダンジョンの近くにギルドがある事で、効率よく利益が得られるからである。


 ぶっちゃけ街中の交通の便が良くてランクが低めな割にドロップが良いダンジョンが人気になるし、探索者が集まれば経済も活性化するし、街中にダンジョンがあってもギルドが近くにあるなら住民も安心と一石二鳥どころでないお得なシステムなのだ。


 一時期下落したダンジョン周辺の地価は高騰中で、ダンジョン出現前と同じくらいに戻ったそうだ。


 その代わり山中や田舎の不便な場所や低ランクでも売れない収得物のダンジョンは不人気だし、高ランクのダンジョンは国に管理されてて探索者は許可なく入れない。


 中には、田舎にあるけど人気のダンジョンは探索者が集まるので、いつの間にやら町が出来てギルド支部も設置された事例もあるけれど。


 日本のダンジョンは約200ヵ所あり、都道府県の平均で4~5ヵ所ある計算になる。


 もちろん本当に平均的にある訳じゃなく、どうやら人口密度に比例して出現していると研究が進むにつれて判明した。


 なのでダンジョンが2~3ヵ所しかない県もあれば東京など10ヵ所近くあるのだ。


 そのためダンジョンが多い都道府県はギルドの支部も複数あると言う訳だ。


 余り探索者が来ないダンジョンはギルドの出張所があり、モンスターハザードが起きないよう定期的に特別依頼を出したりして攻略してもらっているのだとか。


 また、どうしても場所的に不都合なダンジョンは消滅させてしまう事もある。


 有名なのは初期の頃にあった都庁のダンジョン消滅作戦だ。


 ダンジョンは消滅しても新たに違う場所に出るため、どこに出るのかわからないものを消滅させるのは賛否両論あったのだが、さすがに都庁が使えないのは問題視されて実行された。


 都庁はランクCダンジョンで、この頃はまだ全体的に探索者のレベルが高くなかったが、それでも最高レベルの自衛隊の精鋭を投入するも多数の被害を出し、なんとか消滅に至るも更なる批判を浴びる事に。


 新たなダンジョンは新宿御苑に出現し、庭園内なら都庁に比べて被害が少ないと見なされたのと、攻略するための被害も大きいこと、次は皇居に現れたらどうすると言う意見が出た事で再消滅に至らなかった。


 ちなみに消滅した跡はダンジョン出現前の状態に戻るという謎仕様で、元の所有者が消滅させて返せと騒ぐ事もあるが、国の許可なく消滅させることは法律で禁止されている。


 まぁ学校でダンジョンの授業が義務化された近年では、この辺りは常識になっているのだが。


 早良さんは説明まで下手な先生より解りやすくて、知ってる事でもウンチクも添えて話すので退屈しない。


 もう早良さんの属性が多くてお腹一杯です。


 ギルドがダンジョンの近くとは言ったが、万が一のモンスターハザードに備えて、真横にあるって程の近くではない。


 通路は途中で何ヵ所か曲がったりしたので体感では300メートルくらい歩いたかな。


 緊急時の避難等に使われる通路と兼ねているので、壁も分厚く途中にもドアがあって別の場所にも出るのだろう。


 突き当たりに金庫に使われていそうな分厚い扉があって、どうやらこの先がダンジョンなのだろう。


 今は扉が開いているのだが、扉の向こうには鉄格子があり、更に向こうにコンクリートの壁が見える。


「この扉いつも開けてあるんですか」


 何か無用心に思って聞いてみる。


「ふふ、よく皆さん心配されますが、実はこの鉄格子は魔道具になってて何も通さないし、なかなか壊せないから大丈夫ですよ」


 早良さんが鉄格子の橫に付いたパネルに掌をかざすと、ピピッと鳴った後にガチャンと鍵が開いた様な音がしたと思ったら鉄格子が消えていた。


「えっ!消えた?!何これすげぇ!」


 驚いて叫んだら、クスクスと早良さんが目潰しイケメンスマイルしてくる。


 くっ眩しい。


 思わず目をすがめて遠くを見る。


「申し訳ございません。初めての方は皆さん驚かれますが、これも魔道具の効果なんですよ」


 早良さんの説明によると、鉄格子に見えてたのは本当は透明な障壁しょうへきで、何もないと開いてると思ってぶつかる人がいるので、鉄格子に見える様にしているのだとか。


 金庫みたいな分厚い扉は、モンスターハザードが起きた時などに使われる強力な魔道具で、普段は魔力を節約するために開けてあるそうな。


 Cランクダンジョンのモンスターでも壊すのは難しい程の耐久力なんで、安心して避難して下さいと、またもや目潰しイケメンスマイル


 やめて~俺のライフはもう0よ~。

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