第4話 ギルドはロマンじゃなくお役所

 ダンジョンが現れてから30年が経った日本の某所。


 何でも30周年と書かれたイベントも落ち着き、と言うかネタ切れに近いよなと思いながら、少し肌寒さが感じられるようになった秋晴れの中、八女やめ朱鷺ときは15歳になった者が参加出来る人生最大のイベントに向けてギルドへとやってきたところだった。


 ギルドとは正式には日本ダンジョン探索者協会となるのだが、日本の古きよきオタク文化に則りギルドと呼ばれている。


 本当は探索者じゃなく冒険者が良いと言う意見もあったが、お国の決める事なのでロマンは含まれないのである。


 そもそもダンジョンも、どっちかと言うと迷宮ラビリンスの方が実態に近いと思うのに、新しいシステムがインストールされた際に一般的なイメージが強い言葉が選ばれた様で、日本人の常識ではダンジョンなのだった。


 不思議な事に、日本人がダンジョンと言えば他国の人にも通じるし、外国人がラビリンスと言えば日本人にはダンジョンの事なのだと解るのだ。


 ちなみに世界ダンジョン探索者協会は世界ギルドまたはWorld Dungeon Searcher Associationの頭文字でWDSAとか呼ばれている。


 モンスターハザードもスタンピードでも通じるし、ダンジョン関連においてはイメージ翻訳とでも言うしかない様な現象が起こるが、ダンジョン自体が不思議現象ファンタジーなため今更である。


 そして民間ダンジョン探索者協会と言うのも存在し、民間人のパーティーが複数集まって立ち上げた組織なのだが、国の探索者協会とまぎらわしいので、大体はクランと呼ばれる。


 国から認可を受けたクランはギルドの下部組織のようになり、依頼を受けたりパーティーメンバーの斡旋あっせんや、アイテムの買取販売から確定申告の代行などもしてもらえるので、クランに所属する探索者は多い。


 一部の冒険者ギルドを名乗りたいロマンチスト達によるクランも存在するが、認可も受けてない個人経営であり、ぶっちゃけ商標登録だのに引っ掛からない限り名乗り方は自由なのである。


 冒険者と言う名称は危険をおかす者とも取れるので、国の方は冒険者と言う名称を公的には認めない方針なのだ。


 そして今回、八女朱鷺がやってきたのは日本ダンジョン探索者協会の各都道府県に設置された支部である。


 日本では15歳になればステータスの獲得が出来るため、昨日が誕生日であった朱鷺は土曜日の今日すぐにやってきたのだ。


 中学校を休んで来るのは禁止されているので、放課後か休日しか来れないため、昨日の今日で獲得出来るのは幸運な方である。


 ギルドは年中無休ではあるが、ステータス獲得は月~金は9時~17時まで土曜日は9時~15時までで日祝は受付ないと言う、まさにお役所的な対応なのである。


 最初は土日祝が休みと言う体制だったのが、仕事で来れない人や学校を休んでまで来る中学生が続出したため、ギルドへの批判が殺到し、やっと土曜日も時短ではあるが対応する事になったのだ。


 15歳だけにしてもギルドに毎週ステータス獲得に中学生がやって来たら込み合うので、予約制となっている。


 スキルには迂闊に使えば危険なものや犯罪に使えるものがあるため、ステータス獲得者は必ず申告する義務がある。


 各国でスキルの検証や対策方法などが情報として世界ダンジョン探索者協会へと蓄積され、今では危険なスキル=即拘束などはなくなった。


 まぁ国によっては秘匿している可能性もゼロではないけれども。


 余りにも危険なスキルは魔道具マジックアイテムや封印魔法等で使用に制限をかける事も出来るらしい。


 じゃなきゃ犯罪者を捕まえても逃げられたり抵抗されて反撃されちゃう様な事態になってしまうだろう。


 ダンジョンが出来てからの数年は、高レベル探索者による犯罪者討伐なんて依頼もあったらしいけど。


 依頼と言うか、初期の高レベル探索者ってほとんどが警察官や自衛官だから、実質は命令だよね。


 う~即封印とかになる危険なスキルじゃありませんように、祈りながらギルド正面の自動ドアをくぐり抜けた。

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