第12話 状況の人、冒険者になる2
龍海と洋子は、まずはレベッカの指示通りに、冒険者登録を行うため冒険者ギルドに赴いた。
ファンタジーものとしてはギルドの受付は巨乳美女率がかなり高いモノであるが、このギルドの受付は20代中盤の青年であった。またまた残念。
用向きを聞く受付に、龍海は自分と洋子の名を告げると受付の男は、
「お話は伺っております。早速ですが、こちらの登録申請書と登録証の名前欄にご署名いただきたく……」
と丁寧な言葉使いで話しつつ、既に準備されていたらしい申請書と登録証を棚の奥から取り出すと、二人に差し出した。
申請書にはおそらくレベッカらの指示と思われる建前上の住所や年齢等が既に記されており、あとは署名するだけになっていた。
二人は特に何も質問せず、言われた通りに署名した。
「ありがとうございます。ではこれからマスターの承認印を受けてまいりますので、しばらくお待ちください」
そう言うと受付係は奥の事務室らしい部屋に入っていった。
現地の会話もそうだが、異質の文字であるにもかかわらず二人とも読み書き共にスラスラと出来てしまった。
――標準パックでも入ってたらしいけど、読み書きスキルすげぇ……
代わりの受付(今度は女性、歳の頃30前後? お胸は並)が入り、他の冒険者の対応に当たったので、龍海らは少し離れて承認が降りるのを待った。
その間に龍海は、集っている冒険者の能力値を鑑定してみた。この世界の人間のステータスと今の自分とどれほど開きがあるか、それが知りたかった。
とりあえず細かい腕力やら器用さやら頑丈さとかは置いておいて、HPやMP、職業や称号等に注視して調べる。
ざっくり見てみるとHPの最大値は4桁らしいが、屈強そうな戦士でも1000に届いている者は少数のようだ。
実際に見まわしてみても、それに該当するのは今ギルド内にいる30人中2人程度しかいない。
現在依頼遂行中の者にも居るのかもしれないが、この中ではほぼほぼ3桁ばかりだ。
因みに龍海は約650と、ここにいる男性冒険者の平均よりちょっと多い程度。
洋子は400位で他の女性に比べても少なめ。体力錬成は必須だ。
後は上限値がどこまで伸びるのか? 勇者の素質からして、もしかして5桁も有り得るのか?
次に龍海が50,000,000も持っているMPに目を向けると、これがこちらも4桁であった。
魔導士と思しき連中をざっと探したが、最大値が3000、5000と持っている者はいるがその程度だ。
恐らくは攻撃魔法にしろ防御や回復系にしろ、様々な種類の技があるのだろうし、その消費量がそれぞれ如何ほどか、一流どころや伝説級の者となると最大値がどれほどなのか、その辺り、これから調べるべき事項であろう。
だが今、ギルド内に居る多種多様な冒険者達も、
そんな彼らと比べて、自分の、文字通り桁違いのMP値が如何に
つか、今までの連中は、どれだけ彼女に辛く当たっていたんだ?
「なんかすごい……」
ギルド内を見回しながら洋子がボソッと零した。
「なんだかVRでファンタジー映画でも観てるみたい……」
「そうだな……」
龍海は苦笑しながら答えた。
ここに来るまでの往来でも感じたことだが、集う人々の多くは龍海らと同じ
街角でも目を引いたケモ耳の獣人やエルフらしき種族など、メイクでもCGでもないリアルにそういう顔をした者たちが、戦闘等による傷や歪みのある、如何にも実戦で使い込まれていると言う現実感満点の防具や武器を身に着け、これまたギルドにありがちなリクエストボードで仕事を物色する風景、サロンで朝から水を飲むように酒を煽る奴まで、まさに異世界モノで定番の情景が二人の目に映り込んでくる。
自分たち日本人の体格に比べると一回りも二回りも大柄な、隆々とした筋肉を誇る戦士たち。
あるいは一般的とも言える華奢な外観ながら、踏んだ場数の多さを伺わせる厳つくも鋭い目をした女性魔導士など、その醸し出す威圧感と言うかオーラと言うか。洋子は彼らから滲み出るそんな雰囲気に息を飲んだ。
――この先、こういう連中の中で生きていかなければならない……
洋子は身震いを抑えられなかった。
「やっぱり怖いかい?」
龍海はそんな洋子に声を掛けた。
「そ、そりゃあ、まあ……あたし、学校じゃあ不良とかヤンキーとか、それどころか体育会系のノリとも無縁な生活だったし、こういう雰囲気は……」
「まあ当然かな。俺も自衛隊の経験や、鉄工所の荒っぽい連中との付き合いが無けりゃビビってたろうなぁ」
更に、近代銃火器による武装、このアドバンテージが大きいのは言うまでもない。
「でも君は、やがてこの連中や、きのう突撃してきた兵隊たちの先頭に立って、彼らを率いる事になるんだぜ? それほどの素質も持っているわけだし?」
「も~、冗談じゃないわよ。鬱だわ~」
「まあ、そう気負う事もないさ。もっと気楽に構えたって……」
「よう、タツミ!」
いきなり名前を呼ばれた。
声の方へ目を向けると、声の主は昨日この王都まで便乗させてくれたトレドとアックスであった。二人は手を振りながら近づいてきた。龍海も笑顔で応える。
「やあトレドさん、アックスさん、昨日はどうも」
「どうやら無事だったようだな?」
「無事?」
「いや、あんたと別れてからギルドに忘れ物したの思い出してな。ついでにサロンで一杯ひっかけてたら王室の親衛隊の連中が入って来てよ。『見慣れない風貌の男女を見なかったか?』とか聞きまわっててなぁ。若い娘と痴話喧嘩してたって言うんで『あいつとは違うよな?』とアックスが声に出しちまってなぁ。親衛隊の耳に入ったみたいで『詳しく教えろ!』と詰め寄られて、あんたの事を話しちまったんだよ」
まあ探す側としてはどんな些細な情報でも欲しかろうから突っ込むのもアリだろう。事実ビンゴなわけで。
「あんたは一人だったから違うとは思ったんだけど、連中が血相変えて聞くものだからつい、あんたの服装や人相とか話してしまったんだ。世話になったのに、何か迷惑かけたらヤバいな~と気にしてたんだがなぁ」
「ああ、昨日俺たち親衛隊に連行されちゃいましたよ」
「うわっ! やっぱりか、済まない!」
「え? いや、謝る事は無いですよ。結局人違いだって分かってもらえたし、それに不当に拘束したって事の見返りに、ここのギルドに登録させてもらえることになりましたから……却って助かってます」
「そ、そうかい? なら良かったけど……で、連れの女性は?」
「妹ですよ。洋子って言うんです」
妹? 洋子は眉間にしわを寄せて龍海を見た。それに軽くウインクして話を合わせるように求める龍海。
「なかなか帰って来ないから随分心配かけさせたもんで、いきなり往来で大喧嘩しちゃって。それで親衛隊に不審がられて目を着けられたんでしょうねぇ」
と後頭部ボリボリポーズ。
「そうだったのか。でも身内が見つかったのは良かった」
「ええ、身分証は俺が持ってたまま仕事に出たらしくて、探そうにも町から出る事も出来ずにいたから、街で俺がボーっと歩いてたのを見て、心配させた責任取れ! って怒られましてねぇ」
即興で出任せストーリーを作ってみたが、こっ恥かしく感じてしまうのは、真相を知っている自分だからであろうか?
――う~ん、却って怪しまれるか?
「そっか。記憶が曖昧だって言ってたから心配だったけど。なら自分の素性もわかったんだね?」
――あ、信じて貰えた……
「ええ、おれたちは北の町が根城だったみたいで」
「北と言うとアープの町かな?」
――北にそういう町があるのか……じゃあ、取り敢えずそっちを目指す格好で……
「はい。でも、こちらでも登録出来たことですし、妹の経験も兼ねて期限の緩い仕事でも請け負っておこうかなと……こちらだと、どんなのがありますかね?」
「そうだなあ。定番だが、やっぱり薬草や香草採取くらいだな。あの辺の素材は持ってくりゃいつでもどこでも引き取ってくれるし」
「タツミさん、ヨウコさん、お待たせしました」
さっきの受付係が名を呼んだ。手続きが済んだようだ。
「手続きが終わったようです。受け取ってきますよ」
「おう、俺たちもこれから東の仕事に行くんだ。縁があったらまた会おうぜ」
トレド達を見送り、龍海は受付へ向かった。
「登録証をどうぞ。こちらには宰相の印も透かしで入っておりますので、国内でしたらどの市町村でも無料で出入りできます」
「ありがとうございます」
「すぐにお発ちになりますので?」
「そのつもりです。北西の方を目指そうかと。あ、途中に開けた、そうですねぇ……荒野みたいなところはありますか?」
「荒野、ですか。田園地を越えた辺りからアープの町までの間にはそこそこあると思います。アープ行きの駅馬車に乗って、条件に合った場所があれば、そこで降ろしてもらうと言う段取りになりますが……野獣や魔獣の類もそれなりに現れますよ?」
「それくらいがちょうどいいですね」
「わかりました。では北西地区の地図をお渡ししておきましょう」
「ありがとうございます。あ、さっきトレドさんから聞きましたが期限の緩い依頼があるそうですが? 薬草とかの採取?」
「はい、薬草や香草はポーションの材料になりますので、その採取はどこのギルドでも随時承ってますよ」
「じゃあ、それを受けて発ったと。もしどこからか聞かれたら……」
「はい、そのようにお答えしておきます」
「ではこれより行ってきます。お世話になりました」
「お気をつけて。無事のご帰還をお待ちしております」
♦
受付係の助言通り、アープ行きの駅馬車に乗り込んだ龍海と洋子は、王都から30~40km離れた辺りの荒野で降りて国境付近を目指して西方向へ進んだ。
まずは洋子に銃器類の訓練を受けさせなければならない。
故に銃声が人里へはあまり届かない環境が必要であるので荒野を選んだわけであるが、街育ちの洋子にとっては整備されていない道や荒野をただ歩くだけでも十分訓練であった。
「ねぇ、まだ歩くのぉ~」
洋子がぼやくぼやく。
街道から外れて、既にかれこれ7~8kmは歩いただろう。
慣れない馬車に揺られ続けた疲れもそのままに、舗装されていない荒れ地を徒歩で行軍とか、かなり堪えているようだ。
駅馬車では荷物無しだと却って怪しまれるのでダミーの背嚢を背負っていたが、人目を気にしないで済む荒野ではすべて龍海が収納しておいているので今は出来る限りの軽装なわけだが。
「ああ、日没まではもうちょっとあるし、あと少し歩こうか」
「もう、脚が棒だよう」
「文句が言えるうちはまだ大丈夫さ。限界付近じゃ目が虚ろになって声も出せないからな」
「経験あるのぉ~?」
「夜間行軍の時は歩きながら夢見てたよ。大休止に入って飯食ってる夢だったな」
「夢と現実ごっちゃになるのぉ? やだやだ! もう歩きたくない!」
洋子は座り込んだ。
「おい……」
龍海は振り返ると、癇癪を起こして喚く洋子の目の前に屈み込んだ。目線が同じ高さになり、距離も近くなる。
怒られる! 洋子はそう思った。
だが意に添わぬ召喚に、背負い切れない国家的任務だけでもストレスMAXなところへ、砂や小石に足を取られながらの行軍訓練。噴き出る不満は止められない。
「ヤダったらヤダ! 脚痛い! 歩けないぃ!」
「……」
龍海はそんな洋子に手を向けた。
「何よ! 殴る気!?」
「違うよ。ほら」
龍海は向けた掌にペットボトルの水を再現して洋子に差し出した。
「え?」
駄々捏ねてるんじゃない! などと怒られる――そう思っていた洋子には、いささか意外な反応だった。
「あ、ありがと……」
洋子は水を受け取り、ボトル半分ほどを一気に飲んだ。程よく冷えており実に美味い。
「フゥ……水がこんなに美味しく感じるなんて初めて……」
「じゃあ、今日はここでキャンプ張るか。用意するから休んでな」
「いいの?」
「そうだな。俺の作業風景はよく見ておいてくれよな。そのうち君にもやってもらう事にもなるだろうし」
「そうじゃなくてさ……その、あたし、わがまま言ったようなもんだし……」
「まあ、いきなり限界付近まで攻めて体壊しちゃ本末転倒だしな。初日とすりゃまだ文句が言える辺りで切り上げで良いかなって思ってさ」
そういうと龍海は天幕や薪などを再現し、設営作業に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます