第3話 状況の人、女神さまと会う3

「他の人には見えませんが数値に変換された能力情報をHUDヘッドアップディスプレイのように表示する事が出来るスキルです。これはパックには入ってないのでオプションになりますけど……お付けしますか?」

「オプション? じゃあ対価とか、いるのかな?」

「対価としては今現在の魂の一部を頂戴します。それをスキルに変換して付与するわけです」

「なるほど。じゃあさっきの上級パックってのも?」

「はい、本来はオプションなんですけど、私の気持ち、と言うことで」

 女神様、軽~くウインク。

「他にもオプションはありますが……無限収納魔法アイテムボックスなんかは定番ですね」

 ――おお、アレか!

 異世界転移作品でも定番中の定番である無限収納、それは有難い。勝手の分からない異世界では慣れるまでにいろいろな武具や道具に頼りそうなのは想像に難くない。定住できるねぐらが決まるまで、担ぐ荷物は少ない方が良いのは考えるまでも有るまい。チョイス確定!

「それ欲しいです! あ、でも魂の一部ってどれくらい取られますか?」

「そうですね。ステータスパッドと収納で……小指一本分くらいですねぇ」

 女神さまはゆっくり微笑みながら自分の顔の前で左手小指を、そっとお立てになった。

 ――エンコ詰めかい!

「で、でもそれだと肉体の小指はどうなるんです?」

「しばらく動かなくなります。いずれ魔素を吸収して動かせるようにはなりますが、指なら何もしない状態だと1~2か月でなんとか復帰出来ます。あ、東雲さんはまだ盲腸切ってませんね? それを使えば小指は第二関節まででOKですよ?」

「でも盲腸って腸内細菌のバランスとか取ってるらしいって聞きましたけど?」

「必要なのは魂です。復帰するまではパックに入っている耐細菌機能が働いてくれますからお勧めなんですよね~」

 なんかローンで支払いみたい……仕舞いにゃ角膜や腎臓取られそうな……

「う……じ、じゃあそれで」

「あと上級パックには選択スキル分が一つ有りますので選んでください」

「え? 選ぶと言われても……」

「魔法の中でも攻撃や防御を強化多様化するスキルなどもありますし、創作系だと土とか鉱物から素材を抽出して道具を生み出したり、今まで触れたものを再現したり……」

 ピーン!

「その、触れた物を再現、について詳しく!」

「あ、はい。再現リプロダクションと言うのは今までに触れたものなら魔力によって魔素からその複製品を作る事が出来るというスキルです。基本、生き物はダメですけどね」

「例えば触ったことのある服とか工具とか?」

「出来ますね」

「今度行く世界のモノだけですか? それとも地球で使ってたモノも出せるとか?」

「出せます。魂が記憶していればいいんです」

「家とか車とか?」

「出来ない事は無いですが……そこまで大きいと魔力をかなり使いますので……魔力枯渇で死んじゃう、なんてことも……」

「え? でも今度の体は魔素の塊なんでしょ? 枯渇するんですか?」

「う~ん、糖新生に例えると分かり易いでしょうか? 血糖値が急激に下がった時になんらかの理由で脂肪等からの新生が間に合わなければ、いくら脂肪や筋肉が有っても命の危険もありますよね? まるっきり同じではありませんがそんな感じで」

「ふ~む……そしたらまたここへ?」

「いえ、成仏になると思います。今回はあくまで監視猫の不具合に誘引された死ですので」

「なるほど…………じゃあ最後に……」

「はい?」

「銃……とか、も?」

「出来ます」

 ――キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

「そ、それでお願いします!」

「そぉですね~。東雲さんの趣味からすると、ピッタリのスキルですよね~。ね? だから生前のおさらいは必要なんですよぉ?」

 女神さま、ちょっとドヤ顔。

「近代兵器を持ちたがる方はそれなりにいらっしゃいますが、映画やドラマ程度の知識で扱うと狙い方もいい加減で無関係な人を傷つけたり、銃を暴発させて自分の足を撃ち抜いたりしちゃう人も多くて付与していいものか悩みどころでもあるんですが……その点、東雲さんは扱い方もよくわかってらっしゃるようですから安心ですね」

 趣味で没頭した銃火器類を持ててウキウキワクワク! と言う訳では無いが右も左もわからない上に、刀剣や弓矢、それに加えて魔法が跋扈ばっこする世界で生きていくには、龍海が欲している火器類は性能・使い勝手も良く分かっている頼もしいアイテムになるのは間違いない。

 もちろん火器類とて万能では無いので魔法との併用はちゃんと学ばなければならないだろう。

 とは言え他の付与される魔法等をチェックしてみたが、龍海はRPGゲームとかはそれほどやり込んでいた訳では無いので、それぞれの魔法の特性等はあまりよく分からなかったりするのだが。

 聞けば魔法やアイテムのヘルプ機能もオプションで付けられるそうでそれも選んでおく。いずれは不要になるかもしれないが、初期の段階での情報は多い方が良いと考えた。

 他にも鑑定や索敵を強化するバージョンなどを上乗せして、最終的な代価は左手の小指・薬指と盲腸になった。

 ホントは中指第一関節までなのだが女神さまがオマケしてくれた。龍海が転移をすんなり了承してくれた事がそれほどに嬉しかったのだろう。

 てか他の連中はみな、そんなに悪態をついている連中ばかりだったのだろうか?

「はい、分かりました。それでは準備しますので少々お待ちください」

 女神は何やらタブレットを操作し始めた。

 様々な入力が終わり、女神が実行をタッチすると画面が光り始め、やがて光の中から直径は1cm程度、長さ5cmくらいの細長い結晶石らしき物体が浮かび上がって来た。

 女神はその石を指でつまみ取ると、龍海の後方に移動した。

「は~い、じっとしててくださいね~。ちょっとチクっとしますよ~」

 などと注射する時のナースみたいに話しかけながら、女神は龍海の腰辺りにその石をねじ込んだ。

 ――ぎっ!

 同時に、龍海の頸椎辺りに激痛が走りだした。しかもかなり激しい痛みが!

 ――おご! あ、が、が!

 触れるだけでも痛む虫歯に、更に釘でもねじ込まれるような、重度のギックリ腰で見られる腰をギロチンで切断されるような痛覚神経直撃の凄まじい激痛!

 悲鳴を上げる余裕さえ奪われる、そんな大激痛である!

 ――ちょ! 俺は今、幽体だろ!? 何でこんな痛みが!?

「ちょっとの間、我慢してくださいねぇ~。魂が馴染めば痛みはすぐに引きますから~、えい!」

 女神は残りの結晶石を一気に挿入、更に掌でグイグイと押し込む。

 ――ぐぎゃあああぁぁ~!

 魂は泣き叫ぶも声すら出せず。襲い掛かるそんな激痛は龍海の腰から全身に向けて、じゅばばばば~っと、広まっていった。

 やがて痛みが手足の指先まで達するとその後は急激に、引いて行く潮さながらに弱くなり始めた。

 ――ハァ、ハァ、ハァ……

 龍海は肺も心臓も無いクセに肩で息をしていた。自分が今現在、肉体の無い魂、幽体であることを思いっきり疑いたくなったほど。

「お疲れ様です。これでスキルはすべて付与されました!」

「な、なんで、魂の、状態で、痛み、が……」

「そういうものなんです」

 ケロッと。

 まあ、異世界で生きて行く上で頼りになりそうなスキルだし、痛みも既にほぼ無くなっているし、代償がこの程度で済めば……龍海はポジティブに考えることにした。とは言え、二度と味わいたくない大激痛であった。

「これで手続きはすべて完了です。間もなく転移が始まります」

「え? もう?」

「転移先は街や集落より離れた森の中になります。人通りの多い中でいきなり現れては大騒ぎになりますしね」

「まあ、そうでしょうね~」

 街中で人の目の多い中で無からいきなり現れてはバケモノ呼ばわりされたりとか、いろいろ面倒臭い事になるのは簡単に想像できる。

 ――て事は、瞬間移動の様な魔法技は無いのかな……?

 しかし、森の中と言う事は……

「いきなり魔物や魔獣と遭遇……なんてこともあります。意識が戻ったらすぐに周りを警戒してくださいね?」

「そうですね、気を付けます」

 龍海の足元が光り始めた。やがて全身がその光に包まれていく。

 ――始まったか……

「この度の天界の不始末、重ねてお詫び申し上げます。東雲さんが新しい世界で、良き人生が送れますように祈っておりますわ」

「ありがとうございます。女神さまもお元気で。お世話になりました」

 部屋全体に広がる輝きの中で龍海はまた、死の瞬間の時と同様に気が遠くなっていった。

 次に意識を取り戻すのは魔法や魔獣が渦巻く異世界だ。

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