第2話 状況の人、女神さまと会う2

「どうなります?」

「発狂します」

 一瞬、げ! と呻く龍海。だが、現世でも自分の存在意義に悩んで自死する人もいるわけで、死ぬ――成仏する事も出来ない状況では狂うしかないのか? と変に納得してしまった。

ことわりから外れるとなると、どこかでその帳尻を合わせる事になるんですよね~」

「な、なんだか俺の頭じゃ追いつかないけど、なんて言うか、世界ってうまく回ってるんですねぇ」

「そりゃ、私たちも日夜働いてますし。大体は流れが乱れないかチェックするだけなんですけど、地球だけでも年間5千万人以上が死んだり産まれてきたりですからとにかく目が離せなくて。で、稀に東雲さんの様な事象が発生しまして、それに対処するのも私たちの部署の仕事なんですよ」

「ふ~む。つまりこういう役職があるってことは、今回みたいな事例はそれなりに有る訳で?」

「ええ。まあ頻繁に、と言うほどではありませんが、とても珍しい事例って訳でもありません」

「で、俺の場合はとにかく転移するしかないと?」

「時折、どこかの世界から召喚要請なども来るのですが……その時、東雲さんのような境遇の魂と希望の能力特性が合致すれば応じるのですけど……ん~、つい先ほどまで、そういう案件があったのですが現在は要請受託済みとなってまして」

 女神さまが、左手に抱えているタブレットみたいな端末の画面を確認しながら現状を説明してくれた。

「へぇ~。異世界召喚てそんな風な段取りを踏むんですか?」

「いえ、これが曲者でしてね。天界に要請してくる真面目な召喚は実は少数なんです。大抵はこちらの都合もお構いなしに別世界から引っこ抜いたりするもんでそれが結構、歪みの原因になったりするんですよ。困ったもんです」

「大変なんですねぇ」

「でも、今回は非はこちらにあるのに、この現状を快く受け入れていただき、東雲さんには大変感謝しております。実際、前世に心残りのある方だと、こう言った現状に納得したがらない方も多く……」

「でしょうねぇ。頭にきてタメ口や恫喝まがいの口調で罵ってくる手合いとか居そうですねぇ?」

「そおなんですよぉ!」

 女神さまはいきなり涙目になられた。

「『何で自分がこんな目に!』とか、『四の五の言わずにすぐに生き返らせろ』とかぁ、もう罵詈雑言の嵐なんですよぉ。でも、そういうケースに限ってこちらの過失が大半なもので強くは出られなくてぇ。もう相手の気の済むまで耐えてこちらの提案を承諾して頂くよう、ひたすらお願いするしか……だからここって不人気職で、転属願いを申請してもなかなか受理されなくてぇ」

「な、なんかブラックっぽいですね……」

「いつぞやなんか、『身体で責任取ってもらおうか』とか言いながら無理やり胸やお尻を触られたりしたし、応じる代わりに『お前、一緒に来い』とか無茶振りされましてぇ」

「でも神様なんだし魔法や神通力とかで黙らせるとか出来るんじゃ?」

「そりゃ出来ますけど、こちらの非を棚に上げてそういう事をするのは天界規定にも反しますし、新たな歪みの元にもなりますしぃ」

「いや、お疲れ様です。じゃあ話を戻して俺の今後は?」

 女神の愚痴の吹き出し方に半端無さを感じた龍海は話を自分の身の上に持って行った。放っておけば止め処なく愚痴が出てきそうだったので。

「あ、すみません、つい。えっと、現在転移予定の世界は魔法がある分、東雲さんの世界の様な科学技術は発達しておらず、そうですねぇ……地球で言えば中世の欧州付近の様相を想像していただければ……」

 ――ナーロッパってヤツか……定番だな~

「と言う事は治安は悪いし、インフラも整ってなくて、衛生面とかも期待出来そうにないですね~」

「お、応じていただけるんですよ、ね?」

 女神さま恐る恐る。

「まあ、逝くことも引く事も出来ないんじゃ是非もないですよ」

「あ、ありがとうございます! 嬉しい! こんなにすんなり承諾してくれた方なんて一体いつ振りだか! お返しと言ってはなんですけど、もう私の権限目一杯の魔法付与、おまけさせて頂きますね!」

 ぱあっと顔が明るくなる女神さま。

 しかし明るくなったのは彼女だけではなく龍海も同様であった。

「え、やっぱり特殊なスキルとか魔法とか貰えるんですか? 俺にも魔法が!?」

「当然ですよ? 魔素マナで身体を組成しますから言ってしまえばあなたの身体は魔力の塊みたいな感じになるんです。それにあなたの魂が結びあえば……まあ、こちらではきっかけを付与するだけが精一杯で本来の力を引き出すには順次経験が必要になってきますが」

「初っ端から魔力全開! なんてチートズルは無しか……」

「使い勝手もわからないうちに、いきなり最高出力の魔法を出して山を吹っ飛ばしたり、湖を干上がらせたりとかしちゃうとマズいじゃないですかぁ」

 いや、ごもっとも。

「魔獣や盗賊相手に経験を積み重ねてコツを掴んで行けば、威力に合わせた制御が出来るようになりますよ」

「やっぱ魔物やら魔獣とかいるので?」

「日本で野獣に出くわすよりかは頻繁に……ですから選べるスキルは慎重に選んでくださいね?」

「戦闘不可避か~」

 ホント、まるまるラノベファンタジーの世界のようだ。

 しかし魔力の塊といった身体となる訳で、やりようによってはチートに準ずる能力を駆使できる可能性もあるだろう。

「まあ、現地の人より魔力は強いですからレベルアップも早いと思いますよ?」

「なるほど……ところでどんなスキルや魔法を頂けるんで?」

「え~、『転移・転生用標準スキルパック』てのがありましてぇ。基本的な火起こしや飲料程度の水や換気レベルの風を起こせる魔法、会話や読み書き、耐細菌・抗ウィルスなど生きていくのに必需となる魔法のパックなんですけど、東雲さんには防御系や鑑定とかの魔法も含まれる上級パックを付与させていただきますね! 魔法発動への訓練もそこそこで、すぐに冒険者や兵隊くらいは目指せますよ!」

 ――ス、スキルパック? 標準? 上級? 

 パック旅行のオプションじゃあるまいに……などとも思うが、女神様が殊のほか上機嫌の様で龍海としては幸運であろう。得られる能力は、多いに越した事は無い。

「そ、それは有難いですね。でも自分の実力がどれほどなのか分からないと不便だな。自分や他の人の状態を可視化できれば便利だけど……でもゲームや漫画じゃあるまいしステイタスオープン! なんて真似は……」

 ゲームやラノベの世界だけだよね~、と思っていると、

「出来ますよ?」

――出来るんか~い!

女神さまのしれっとした何気無い返答に龍海はコケかけた。

 ファンタジーものゆえの御都合設定だと思っていたのに、まさかまんまとは……てな思いの龍海である。

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