Sランク異能を手に入れた


「はぁっ……はぁっ……」


 拳を突き上げた瞬間、俺は地面に膝をついた。

 立ちあがろうとするが脚に力が入らない。

 限界を超えて身体強化を使ったのと、血がたくさん流れたからだろう。


「伊織っ!」


 アイリスたちがすぐさま駆け寄ってくる。


「シャーロット、すぐに伊織に治癒をかけてくれ!」

「かしこまりました」


 シャーロットは俺に手を翳し、治癒の異能を使って傷を治してくれる。

 アイリスも魔術を使い、回復魔術を俺にかけてくれる。

 温かい力のようなものが俺の身体に流れ込んでくる。


「キミは本当に無茶をして……ッ!!」


 アイリスは心配してくれていたのか、瞳に涙を浮かべていた。

 身体がいくらかマシになってきたところで、俺は治癒を止めるように言った。


「ちょっと治癒を止めてくれ」

「何を言ってるんだ。今すぐにこの傷を治さないと……」

「後の分はおっさんに使ってくれないか」


 俺は地面に倒れているおっさんを指差す。


「俺は動けるようになったから、おっさんをとりあえず動けるようにしてやってくれ」

「……お人好しだな。キミは」


 アイリスは呆れたようにため息をついて、シャーロットにスミスのおっさんを治癒するように言ってくれた。

 おっさんはシャーロットによって治癒される。


「……む」


 気絶していたおっさんが目を覚ました。

 そして辺りを見渡し……


「……そうか、私は負けたのだな」


 と状況を把握した。

 負けたというのに、おっさんは案外清々しい表情だった。


「意外そうな顔だな、少年」

「そりゃ、あれだけ負けるわけにはいかないって言ってたからな」

「悔いがないといえば嘘になるが、負けたときは潔く負けを認めるのが私の美学だ。それで、だ」


 おっさんは身体を起こす。

 鉄の鎧の残骸がボロボロと崩れ落ちた。

 おっさんは上体を起こすと、髪の毛を一本抜き取った。

 それを俺へと差し出した。


「少年、これをやろう」

「え、何これ……」


 いきなり髪の毛を差し出されて困惑していると、おっさんがははは、と笑って説明した。


「【異能無効】を君にやる」

「……え?」

「なんだと!?」


 俺よりも食いついたのはアイリスの方だった。


「Sランクの異能だぞ!? それを譲渡するのか!?」

「勝者の特権だ。この異能は強者にこそ相応しい」

「でも異能をもらえるなら俺は【磁力操作】の方が……いたぁっ!?」


 鉄の鎧がかっこよかったし、異能無効よりも磁力操作の方が俺的には欲しいんだけど、と言ったらアイリスに頭を叩かれた。


「バカかキミは! Sランクの異能なんて普通手に入るものじゃないんだ! 【磁力操作】よりもこっちの方が良いに決まってるだろう!!」

「確かにランク的にはそうだけどさ、男のロマン的には磁力操作の方が……」

「とにかく異能無効をもらっておけ! これは命令だ!」

「ははは、彼女の言う通りだ。【異能無効】の方が将来的に良い。こちらにしておけ」


 なんだか、目当てのおもちゃが欲しいけどこちらの方がいいと親に諭される子供の気分だ。


「……分かった」


 俺は渋々納得して、おっさんの髪の毛に手を伸ばそうとして。


「ただし、条件がある」


 おっさんが手を引っ込めた。


「なんだよ」

「私が負けたことにより、我々は君たちの軍門に降る。私のSランク異能と引き換えに、手厚い保護を求める」

「……なるほど、そういうことか」


 アイリスは納得したような声で腕を組む。


「最初から負けたときはこうするつもりだったのだな」

「いつでも最悪の事態を想定しておくべきだ。それに、この策だって君たちの良心に頼り切ったただの敗者の懇願でしかない。無様に相手に生殺与奪を委ねるだなんて、そんなことしたくもなかったさ」


 アイリスは顎に手を当ててしばし考え込んで、頷いた。


「キミたちの安全が目的か。確かにSランクの異能なら対価として十分だ。よかろう、キミたちの安全は保証するし、借金の肩代わりも保証しよう。もちろん、いつかは返してもらうがな」


 アイリスの言葉に、スミスのおっさんも婆娑羅会の手下たちもホッと安堵したような表情になった。


「話も纏ったみたいだし、じゃあ遠慮なくいただくぞ」


 俺はおっさんの手から髪の毛をもらい、食べる。

 もぐもぐ。

 ……髪の毛って食べにくいな。

 どうにかして飲み込むと、途端に自分の中に異能が新しく入ってきたことが分かった。


「おめでとう、伊織。これでキミは世界に数十人しかいいないと言われるSランク異能持ちだ」


 俺はアイリスの言葉にわーい、と喜ぶ。

 と、そこでさっきからイナバがいないことに気がついた。


「あれ、イナバは……?」


 辺りを見渡すと、俺たちから離れたところにイナバはいた。

 柱の影に隠れるようにこっちを見ている。

 俺はイナバに呼びかけた。


「何してるんだよイナバ。お前も今回の功労者なんだし、こっちにこいよ」

「……イナバは皆さんに合わせる顔がないでござる。裏切り者ですので」


 そういえばイナバは俺たちと婆娑羅会、どっちも裏切ってるんだったな。

 裏切った人間ばかりで気まずくて顔を合わせ辛いのだろう。


「俺は別にもう気にしてないから」

「ダメです。イナバは忍者としてあるまじき裏切り者なのです……」


 俺がため息をついて隣のアイリスに「どうにかしてくれ」という意味を込めて目を向ける。

 アイリスは俺の視線に気がつくと、ため息をついてイナバに呼びかけた。


「あー……イナバ。私ももう気にしていないから」

「……」


 しかしイナバは柱の影から動かない。


「……しょうがねえな」


 俺は立ち上がると、イナバの元まで歩いて行って、手を掴む。


「ひゃっ!? 主殿!?」

「いいから行くぞ」


 そして強引にアイリスの元まで引っ張っていく。


「あのなイナバ。悪いことしたらごめんなさいだ。アイリスだって謝れば大抵のことは許してくれるさ。ほら」


 イナバをアイリスの前に立たせる。


「あの……アイリス殿。裏切ってしまい本当に申し訳ございませんでした……っ!!」


 イナバはアイリスに謝罪する。

 腕を組んで仁王立ちしていたアイリスは……ぽす。

 アイリスの頭にチョップした。


「へ……? あの、アイリス殿……?」

「許す! これでチャラだ!」


 アイリスはニッと笑う。

 そんなアイリスにシャーロットは尋ねる。


「これからこの件はもう掘り返さない。これで良いんですね?」

「ああ、これで綺麗さっぱり清算した!」

「アイリス殿……っ! シャーロット殿……っ!」


 イナバは目元の涙を拭った。


「よし! これで一件落着したことだし、打ち上げに行くか!」

「行くって、どこにだよ」


 俺はアイリスに尋ねる。


「打ち上げといえば決まってるだろ、焼肉にだよ!」


 俺の問いかけに対して、アイリスはそう言った。





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