チェックメイト

 目的地である廃ショッピングモールの中へと入ってきた俺たち。

 走りながら、アイリスが確認をしてきた。


「作戦をもう一度確認するぞ。我々は今から、奴を誘き出しそしてこのC4を直撃させる」


 アイリスはそう言って、手に持っているC4を掲げた。


「そして奴の装甲が外れたところで、私たち全員の総攻撃をかけ、倒す。私の魔力も尽きた今、奴を倒すのはこの方法しかない。特に伊織、キミは超火力のDNバレットを持っている。キミが『狐』を倒す鍵だ」

「ああ」

「問題はここのどこで待ち伏せるかだが……」

「それは俺がいい場所を知ってる。ちょうど吹き抜けになって、戦うにはちょうどいい場所だ」

「採用だ、伊織、そこへ私たちを……案内、して……ゼェゼェ」


 妙な声がしたので隣を見てみれば、アイリスの姿がなかった。

 なので背後を確認すると、そこには息を切らして真っ青な顔でヘロヘロと歩いているアイリスの姿が。


「なにやってるんだよ、もうそこにスミスのおっさんが来てるんだぞ!?」

「そ、そうは言っても……ゼェ、体力が……」

「なんでこれだけ走っただけで体力がなくなるんだよ!」

「そう言われても、今まで、【勝利の鉄槌】の、身体強化で補ってきたし……」


 アイリスは力無く答えてくる。


「もうムリ……」

「お嬢様、もう少し頑張ってください」


 そしてアイリスがフラッと倒れそうになったところで、シャーロットがアイリスに手を当てた。

 するとシャーロットの手が淡く光った。


「おお……!?」


 今まで青い顔をしていたアイリスの目がシャキッと開いた。

 それだけでなく、元気そうにまた走り出す。


「はは! シャーロットの【治癒】は便利だな! 体力が全回復だ!」

「体力をつけないことを考えるとあまり良いことではありませんが、非常時です。仕方がありません」


 高笑いを上げるアイリスと、どこか憂鬱そうにため息をつくシャーロット。ただし、いつもの通りすまし顔だ。

 その時、俺たちが走ってきた方向から、ドォォォォォンッ!!! と音が聞こえてきた。


「なんだ!?」

「おそらく、奴が私たちの車を破壊した音だろう。つまり逃げる足ももうなくなった。ここが決戦場所だ。気を引き締めろ!」


 アイリスの声で、俺とイナバ、シャーロットの表情が引き締まった。

 そうして、俺たちは件の吹き抜けスペースへと辿りついた。


「全員配置に着け。奴がきたら私が教える。いいな。このインカムをつけて私からの連絡を待て」


 アイリスの言葉に頷いて、インカムを受け取ると俺たちは柱の影や、瓦礫の山の影へと散らばっていく。

 俺は円柱の影へと隠れ、インカムを装着する。

 そしてホルスターから銃を抜いた。

 一応、効くのか分からないが、リロードはしておくか。

 アイリスのやっていたのを見ようみまねでリロードする。

 あとはどうやって【勝利の鉄槌】のDNバレットを当てるかだが……。


『全員、配置についたか?』


 その時、インカムからアイリスの声が響いた。


『はい、お嬢様』


 シャーロットがそれに返事をする。


「ああ、俺も聞こえるぞ」


 俺もインカムに向かって話しかける。


『よし、イナバはどうだ。…………イナバ? どうした』


 アイリスがイナバに呼びかけるものの、どれだけ待ってもイナバからの返事が返ってこない。

 もしかして、インカムの付け方が分からないのだろうか。

 あり得る。だって、家のテレビですら操作方法が分からないくらい機械音痴だったし。


「俺がイナバの方を見にいく。もしスミスのおっさんが来たら教えてくれ」

『わかった』


 インカムにそう告げて、アイリスからの返事が返ってきたことを確認すると、俺はイナバがさっき走って良いった方へと向かった。


「イナバ、どこにいるんだ」


 そしてイナバへと声をかける。

 しかしイナバから返事が返ってこない。


 おかしい。イナバは機械音痴だが、忍者としての必須技能らしく耳は悪くない。それどころか非常に良いくらいだ。

 それに、俺が名前を呼ぶとすぐにイナバは飛んできた。


 つまり、近くにイナバはいない──


 パシュン。


 聞き覚えのある音がした。


「もう一つ、講義をしておこう」


 脇腹に衝撃が走る。


「私の『変身』だが、Bランクともなれば背景と同化することができる。こんなふうに」


 見れば、脇腹は血で染まっていた。

 同時に、焼けるような痛み。

 思わず俺は膝をついた。


「ぐっ……!?」

「見覚えがある光景だな。村雨少年」


 必死に背後に顔を向けると、そこにいたのは……。


「嘘だろ…………何でそんなところにいるんだよ、イナバ!!!」


 サプレッサー付きの銃を構えているスミスのおっさんの隣には、イナバが立っていた。

 イナバは俯いているせいで表情は分からない。


「簡単な話だ。彼女は私が差し向けたスパイだったのだよ」

「なっ……!?」

「一度もおかしいと感じなかったのか? あのタイミングで異能持ち二人がいきなり現れ、しかも片方は婆娑羅会のNo.2だった。その上、助けられた方は君達に助けを求める。ちょっと偶然でもできすぎやしないか、と」

「な、んだと……!」

「私に追いかけられている最中、彼女は君達をこの廃ショッピングモールに来るように誘導した、そうだろう?」

「っ……!!」


 確かに、俺たちにここへ逃げ込むのはどうかと提案したのはイナバだ。


「全ては私のシナリオだ。村雨少年」

「嘘だろ……嘘だよな、イナバ!!」


 俺はスミスのおっさんの隣に立つイナバに向かって叫ぶ。

 イナバは俺の声にびくりと肩を震わせる。


「……もうし訳、ございません」


 そして、絞り出すような声で俺に謝ってきた。


『伊織、まずい! 囲まれた!』


 インカムからアイリスの焦った声が流れ込んでくる。


「っ!!」


 いつの間にか二階、三階、四階部分には俺たちをぐるりと囲むように人がいて、全員が銃口をこちらへと向けていた。

 あの量で一斉に撃たれたら、俺もアイリスもシャーロットもひとたまりもない。

 二人とも物陰に隠れてはいるが、全ての射線を切ることは不可能だ。


「チェックメイトだ」


 おっさんは悠然とそう宣言した。

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