四つの異能持ちはチート

「なんだあれ、映画の撮影か?」

「すげー、ロボットじゃん」


 公道に出るや否や、俺たちを見てそんな感想を述べている一般人の横を通り抜けていく。

 俺は変わらず撃ち続けているが、効果はほとんどない。

 なぜならおっさんの異能『磁力操作』によって纏っている鉄の鎧に銃弾が弾かれるからだ。

 俺が歯噛みをしていると、鉄の兜の下からおっさんの声が聞こえてきた。


『待ちたまえ村雨少年! ハグをしようじゃないか!!』

「アホか!! あんたにハグされたら俺がぐちゃぐちゃになるわ!!」

「伊織! 手榴弾行くぞ!!」


 その時、アイリスが大声でそう言って、手榴弾のピンを抜き、スミスのおっさんに向かって投擲した。


「こんなドンパチやっていいのかよ……っ!!」

「異能機関の隠蔽力を舐めるな! 政府に働き掛ければこんな銃撃戦一瞬で隠蔽できるわ!」


 ドガンッ!!!!

 手榴弾が爆発する。

 俺の目には手榴弾がスミスのおっさんに当たったのが見えていた。


「やったか!?」


 アイリスが天窓から身を乗り出した。

 しかし、次の瞬間。

 爆炎を突き破って鉄の鎧が走ってきた。

 確かに装甲には焦げ跡がついているものの、それだけで特に大きな損害を与えた様子はない。


「流石に手榴弾ではあの装甲を突破できないか……!!」


 まだ背後から追ってきている鉄の鎧を見たアイリスは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「じゃあ撒菱を巻くでござる!! とりゃ!!」

「ニンジャ!?」

「こんな時でもブレないなおい!」

「稲葉家特製、麻痺毒つきでござるよ!!」


 助手席に乗っているイナバが後方へと撒菱を巻いた。

 そんな忍者らしいことをするイナバに目を輝かせるアイリス。


『撒菱が効くわけがないだろう!!』


 しかし案の定というべきか、鉄の鎧を纏っているおっさんには鉄の棘は刺さらない。

 難なく突破してくる。


『もうネタ切れか!! ではそろそろ本気で行かせてもらうぞ!』


 おっさんはそう言うと、鉄の鎧に電気が迸る。

 すると背中の気筒が煙を吐き、関節部分の光量が増した。

 その瞬間、鉄の鎧が爆発的に加速する。

 それを見たアイリスが叫んだ。


「勝負を決めにきたか!!」

「おい、どうするんだよ!」

「こうなったら仕方がない……! 少々このあとの不安が残るが、私の魔力を全て使う!!」


 そう言ってアイリスは右手を突き出した。

 アイリスの瞳が光る。


「私の全力、とくと受けるが良いッ!!」


 次の瞬間、空中に今まで一番巨大な魔法陣が展開された。

 加えてもう一枚同じ大きさの魔法陣が重なっていく。

 合計五枚の魔法陣は、互いに異なる方向に回転しする。

 そして、五枚の魔法陣を貫くように光の槍が現れた。


「単純な魔力砲だが、威力は絶大だ。喰らえ、ファイアー!!!」


 アイリスがおっさんへと指を差した瞬間、光の槍が飛んでいく。


『ぬっ……!?』


 流石にこれはまずいと思ったのか、おっさんは両手で光の槍をガードした。

 光の槍が直撃すると、道路に二本の線を削り取るように残しながら、おっさんは押されて後退していく。

 その様子を見てアイリスが「よし!」とガッツポーズをした。


「流石にこれは効いたみたいだな!」


 その言葉の通り、鎧は腕の部分が剥がれ、鉄の装甲が落ちている。

 光の槍の衝撃によって体全体もボロボロだ。


『ははは、そうだな。だが、まだまだ私は動けるぞ!!』


 おっさんはそう言うと、近くの車を手で掴み、扉を強引に引きちぎった。


『ちょっと車を借りるぞ。ま、返はしないが』


 そして車の中にいた女性が悲鳴をあげて逃げていく。


『ぬううううううんっ!!』


 するとおっさんはその車を叩いて壊し、スクラップにした。


『こうすると、装甲が壊れても補充することができる!!』


 おっさんは異能『磁力操作』を発動した。

 スクラップになり、粉々になった車の素材が、欠けた腕の装甲やボロボロになった部分を補修するように塞いでいく。

 たちまち鉄の鎧は新品同然になってしまった。


「なんだと!?」


 アイリスが驚愕の声を上げる。

 おっさんはまたこちらへと向かってきた。

 どうやらアイリスの光の槍でさえ、完全におっさんを止めることはできなかったらしい。


「あんなの無敵だろ!! ずるいぞ!!」


 アイリスは憤慨して、天窓から身を乗り出しそんな文句をおっさんへと投げた。


「落ち着け、お前も大概ずるかったろ!」


 ギャーギャーと騒ぐアイリスを羽交い締めにする。

 するとら運転席のシャーロットから目的地への到着告げてきた。


「お嬢様、そろそろ廃ショッピングモールへと到着いたします」


 アイリスは落ち着きを取り戻し、真剣な表情になると、設置型の爆弾を取り出した。


「よし伊織、作戦会議だ。一旦車内に戻るぞ」


 車内に戻ったアイリスと俺。

 そしてアイリスは俺達に向かって作戦を告げた。


「奴を廃ショッピングモールへと誘き寄せた後、こいつを直接食らわせるぞ。そして奴の装甲が剥がれたところで、伊織とイナバ、二人で総攻撃を仕掛けるんだ。私とシャーロットはサポートする」

「かしこまりました」

「了解」

「承知したでござる!」


 アイリスに向かって俺達は頷く。

 そして、車が廃ショッピングモールへと到着した。

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