『狐』と銃撃戦カーチェイス
「ははは、サプライズだ村雨少年。驚いたか? そう、私が君達が追っている婆娑羅会のボスなのだ」
「嘘だろ……っ!?」
心はおっさんの言葉を否定したかった。
しかし、目の前の現実が、おっさんの言葉が真実であると示している。
「おいおい村雨少年、信じてくれないのか。まあ仕方がないかもしれんな。少年を撃ったときは、変身していたのだし──ほら、こんなふうに」
「っ!!」
するとスミスのおっさんの姿が、狐面を被ったスーツの男へと変化する。
「馬鹿な……!? まさか異能を複数持っているのか!!」
隣のアイリスが驚愕の声を上げる。
それを見た、元の姿に戻ったスミスのおっさんが、アイリスへとニヤリと笑みを向けた。
「異能の複数持ちが自分だけの特権だと?」
「っ!!」
いきなり、アイリスは即座に指を鳴らし、スミスのおっさんへ向けて魔術を放った。
「効かん!!」
しかしおっさんの瞳が光ると、火球や電撃は直撃する直前で打ち消された。
「なんどやっても同じことだ。全ての異能は私の【異能無効】によって打ち消される」
アイリスが唇を噛み締める。
「やはり効かないか……! 全員、撤退だ!!」
「逃げるのか!」
俺はアイリスに問いかける。
「当たり前だ! いいか、恐らく私達は誘き出されたんだ! 罠に嵌められたんだ! この場から逃げるのが最優先だ!」
アイリスの言葉にスミスのおっさんが代わりに返答を返してくる。
「ご名答、その通りだ。君達は私に誘い出されたのだよ、まんまとな。……だが、逃がすとでも?」
走り出す俺達を見て、スミスのおっさんは追うのでは無く、両手を広げた。
「教えておこう。私の異能は四つ、『変身B』、『身体強化A』、『異能無効S』、そして『磁力操作B』だ」
おっさんの身体から電気が迸った。
「そして、磁力を操作できるこの異能は、こんな使い方ができる!!」
するとおっさんの足元、鉄くずの山が浮かびあがり、おっさんの身体へと纏わりついていく。
そしてその鉄くずは徐々に姿を変え、ある形をとった。
鉄の鎧。
表現するなら、その言葉がピッタリだった。
ただ、ロボットにも見える。
鉄の鎧は磁力で動かされているためか、電気を帯び、関節部分と目に当たる部分が帯電し、発光している。
背中についたバイクの気筒と思われるところが、煙を吐いた。
「何だあれ!!」
俺達は車へと乗り込む。
「皆様、シートベルトをお締めください。──少々揺れますので」
「運転できるのか!?」
「メイドの嗜みでございます」
シャーロットが車を急発進させた。
揺れる車内。忠告を聞かずにろくにシートベルト締めてなかったせいで、もみくちゃになる後部座席の俺とアイリス。
「キキ、キミ!! どこを触ってるんだ!!」
「違うって!! 不可抗力で……!!」
「お二人とも、仲良くされるのは結構ですが、後ろをご覧ください」
俺とアイリスが言い合っていると、シャーロットがそう言ってきた。
なので俺達は後ろを見る。
すると背後では、鉄の鎧を纏ったスミスのおっさんが陸上選手のような姿勢を取っていた。
徐々に鉄の鎧が徐々に光を強めていく。
そしてその光が最高潮に達したところで──鉄の鎧が発進した。
大地を揺るがすような振動と音と共に、鉄の鎧が走ってくる。
どう見ても鈍重そうな見た目なのに、速い。
車と同程度か、それ以上の速さだ。
「なんだよあれ! なんであんなに速いんだよ!」
「おそらく磁力操作と身体強化を併用してるんだろう。まさかあんな使い方があるとはな……!!」
背後から迫ってきているスミスのおっさんを見て、アイリスは歯噛みをすると後頭部座席に置いてあったカバンを漁り始めた。
「何してるんだ!」
「もちろん迎撃するんだ。このままでは追いつかれるからな」
そう言ってアイリスが取り出したのは、銃だった。
鞄の中を見てみれば、ぎっしりと銃や手榴弾が詰められている。
どうやら鞄の中身は物騒な武器だったらしい。
「本当はアジトを潰すときのための火力を補うものだったんだが……伊織も奴に向かって銃を撃て!!」
「ああ!」
勢いよく俺は制服下のホルスターから拳銃を取り出す。
そしてガバメントを一目見て、アイリスの名前を呼んだ。
「アイリス!!」
「どうした」
「使い方がわからない」
ぶんっ! とアイリスが俺の手からからガバメントを奪い取る。
「撃つときはこう! リロードするときはこうだ!」
手本を見せてくれるアイリス。
それから俺は拳銃を受け取ると、車の開閉可能な天井の天窓を開け、そこから顔を出し、おっさんに向けて撃った。
アイリスも並んで拳銃を撃ち、そこへ幾つかの魔術を混ぜて放つ。
「ははは!! 効かん!!!」
しかし銃弾も魔術も、おっさんの鎧に弾かれた。
「弾いた!?」
「魔術もだと!? どれだけ硬いんだあの鎧は!」
「そんな豆鉄砲では私の鎧は貫通しないぞ!!!」
銃弾を弾かれた俺たちが驚愕に目を見開いていると、おっさんがそう叫んでくる。
「クソッ!! こんなことなら所詮半グレだと侮らず、ランチャーでも持ってくるんだったな! 伊織、これを使え!」
車の中に戻ったアイリスが俺にあるものを渡してきた。
それは俺でも知っているアサルトライフル、AKだった。
「これをやつに向けて撃て!!」
「でも銃は効かないんだろ!?」
「撃ち続けることに意味はある! ほら撃て!」
アイリスに言われた通り、俺はおっさんに向かって撃ちまくる。
しかしあまり銃弾当たらず、その上当たっても弾かれる。
俺は隣のアイリスに大声で尋ねる。
「どうする!? このままじゃ道路に出るぞ!」
そう、このままでは人の目がある道路へと出ることになる。
このどこからどう見ても超常現象のロボットもどきとドンパチやっているところを、一般人に目撃されるのだ。
「構わん! あとで映画の撮影だったと情報を流すからな! ただ、これからどうするかだが……!」
「じゃ、じゃあイナバが助けてもらった廃ショッピングモールに行くのはどうでごさるか! あそこなら人目もありませんし、四人で向かい打てるでござる!」
アイリスが歯噛みをすると、イナバがそう提案をしてきた。
「採用だ! シャーロット、目的地をハイショッピングモールに! 奴をそこへとおびき出し、決着をつけるぞ!」
そして車が公道へと合流した。
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