⑱
お土産物屋さんに入るがとくに欲しいと思うものもなく店内をうろうろとさまよう。
三ノ宮さんは何か欲しいものあったのかな、と近寄れば三ノ宮さんはお弁当箱を凝視していた。
「お弁当箱ですか?」
「うん。マンボウの弁当箱。可愛くない?」
「確かに可愛いけど……」
大人用ではなく、子ども用じゃないですか、というツッコミは控える。だって三ノ宮さんの目が真剣なんだもの。
「これにさ、黒田の卵焼き入れたら完璧じゃないかな?」
「ん?」
それは私にまたお弁当を作って欲しいということでしょうか?
「黒田は買いたいものなかったの?」
「はい」
「え……、このマンボウのスプーンとか可愛いよ? マンボウのフォークもあるし、どう?」
「マンボウが好きなんですか?」
私がそう聞くと三ノ宮さんは照れたように笑う。今さら照れなくてももうバレバレですけどね。
結局お弁当箱を買うことにした三ノ宮さんはレジに向かい、私はお土産物屋さんの外に出た。
お土産物屋さんの向かいには休憩処があり、コーヒーの匂いが微かにする。
他にもジュースやアイス、軽食が販売されているようでテーブル席も半分ほど埋まっていた。
「お待たせ」
三ノ宮さんの手には水族館の紙袋。三ノ宮さんが先程までの私の視線を追って休憩処に目をやった。
「疲れた? ……休憩しようか」
三ノ宮さんの提案は正直嬉しい。それにこのまま帰るのは惜しい。少しでも長く三ノ宮さんと居られるならここでずっと休憩していたいなと馬鹿なことを考えながら、はい、と返事をした。
「何にする?」
何にしよう。
三ノ宮さんがコーヒーを頼むなら同じでもいい。ああでも、バニラアイスの乗ったコーヒーフロートもいいなとメニューの上で視線がさまよう。
「ソフトクリームにする?」
「え?」
「いや、疲れたから甘いものがいいかなと思ってさ」
「三ノ宮さんは決まりました?」
「まだ悩んでる。アイスコーヒーにするか、もしくは黒田と同じものにしようかなって」
「私と同じもの?」
なぜ?
「黒田が頼むもの、はずれないから」
「でもキャラメルマキアートのときは甘過ぎませんでした?」
「ああ甘かったね。でも良い経験できたしさ。今日もまた新たな経験が出来るかな?」
いたずらっ子のような表情に心臓が跳ねる。
「じゃあ……」
「うん」
「コーヒーフロートというのはどうでしょう?」
「いいね! そうしよう」
破顔した三ノ宮さんはその笑顔を店員さんにも振りまきながらコーヒーフロートを2つ注文してくれた。
私はその隣で彼の横顔を見つめる。
今ここで私にだけ向けてくれる優しさが甘くて胸が苦しくなる。そんな三ノ宮さんが可愛くて格好よくて、何だか私は泣きそうになってしまい、必死に瞬きをするしかなかった。
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