帰り際、水族館の紙袋を差し出される。


「弁当箱渡してもいい?」

「はい。……お弁当作ります」


 そう言って受け取ると、三ノ宮さんの電話が鳴り始めた。


 ごめん、と謝りながら電話に出た三ノ宮さんは仕事モードになる。

 トラブルでもあったのか、驚いたり謝ったりしながら最後に「では月曜にお伺いします」と言って電話は終わった。


「取引先ですか?」

「うん。北海道のね。向こうに2〜3日行かないといけなくなった。もしかしたらもう少し長く掛かるかも。そしたら1週間かな?」

「1週間……」


 それは私が出勤する日数と同じ。

 

「お土産買って来るな! だからそんな寂しそうな顔するなって」


 いけない、顔に出ていた。


「寂しくなんてないですよ」


 また可愛くない返しをしてしまう。


「えー、俺は寂しいけどな。ああ、そしたら弁当もお預けか〜」

「そうですね……」


 何だかもう三ノ宮さんの顔が見れない。

 見てしまえば目から涙が溢れそうで……。


 でももしかしたら会えるのはこれが本当に最後かもしれない。

 きちんと見上げて網膜に焼き付けなければ……。


「三ノ宮さん、お弁当箱は北海道から帰って来たら受け取ります」

「いやいいよ、持ってて。黒田が持っててくれ」


 強く言い切られれば、否とは言えなくなる。

 三ノ宮さんが北海道から2〜3日で戻れば1回くらいお弁当を作れるかもしれない。だからその時のために持って帰ればいい。仕事の早い三ノ宮さんならきっと1週間も掛からず帰って来るだろう。

 

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