⑲
帰り際、水族館の紙袋を差し出される。
「弁当箱渡してもいい?」
「はい。……お弁当作ります」
そう言って受け取ると、三ノ宮さんの電話が鳴り始めた。
ごめん、と謝りながら電話に出た三ノ宮さんは仕事モードになる。
トラブルでもあったのか、驚いたり謝ったりしながら最後に「では月曜にお伺いします」と言って電話は終わった。
「取引先ですか?」
「うん。北海道のね。向こうに2〜3日行かないといけなくなった。もしかしたらもう少し長く掛かるかも。そしたら1週間かな?」
「1週間……」
それは私が出勤する日数と同じ。
「お土産買って来るな! だからそんな寂しそうな顔するなって」
いけない、顔に出ていた。
「寂しくなんてないですよ」
また可愛くない返しをしてしまう。
「えー、俺は寂しいけどな。ああ、そしたら弁当もお預けか〜」
「そうですね……」
何だかもう三ノ宮さんの顔が見れない。
見てしまえば目から涙が溢れそうで……。
でももしかしたら会えるのはこれが本当に最後かもしれない。
きちんと見上げて網膜に焼き付けなければ……。
「三ノ宮さん、お弁当箱は北海道から帰って来たら受け取ります」
「いやいいよ、持ってて。黒田が持っててくれ」
強く言い切られれば、否とは言えなくなる。
三ノ宮さんが北海道から2〜3日で戻れば1回くらいお弁当を作れるかもしれない。だからその時のために持って帰ればいい。仕事の早い三ノ宮さんならきっと1週間も掛からず帰って来るだろう。
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