朝5時に起きて作ったお弁当はまあまあの出来栄えだった。一番シンプルな白いハンカチに包んで出勤する。


 三ノ宮さんはまだ来てない。


 だがお弁当はいつ渡すのが正解だろう。

 おはようございますと挨拶するついでに「お弁当です」と渡すのがいいか、昼休みになってから渡すのがいいか大いに悩む。


 悩んでいるうちに三ノ宮さんは出勤してきた。


「おはよう黒田」

「おはようございます」

「俺朝から外回りでさ、多分直帰になるから」


 そう言いながら資料をまとめて鞄に詰め込んでいく三ノ宮さん。


「そうなんですね。今日は忙しいんですね」

「おう。ちょっと頑張って来る」

「……いってらっしゃい」

「行ってきます!」


 部署を出て行った三ノ宮さんの背中が見えなくなった。


 お弁当渡せなかった。そう思って悲しい気持ちになっていることに気づく。

 せっかく作ったのにな。

 おはようございますって言ってすぐに渡せば良かったのに。

 そっか。今日は一日中外回りでもう会えないのか。もっとずっとしっかり顔を見ておけば良かった。


 その時、電話が鳴り思考が中断する。だが私が取る前に他の同僚が受話した。


「黒田さん、電話! 三ノ宮さんから」


 はい、と返事して電話を取ると受話器越しに低い声が耳に流れてくる。


「もしもし代わりました」

『黒田? 悪い。俺のデスクの2番目の抽斗見てくれ』

「はい、2番目ですね」


 受話器を耳と肩に挟んで三ノ宮さんのデスクを漁る。


『A社の封筒があるか?』

「はい、あります」

『あるか! 良かった。鞄に入れたつもりだったんだが。今から取りに戻るからデスクの上に置いといてくれ』

「三ノ宮さん駐車場ですか?」

『ああ』

「持って行きます」

『助かる。じゃあ頼む!』


 受話器を置いた私は、右手にA社の封筒と、左手に紙袋を持って部署を出た。

 

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