第37話 高いところが好き

伴さんの働いてるお店を出て来てからそろそろ二時間近く経とうとしている。

とっととどこかを制圧して情報を持ち帰るとしよう。

この辺の地図を思い出して該当しそうな物件に向かってみる。


カピバラ賃貸とはちょっとだけ方角が異なるが、取り壊し物件から100mも離れていない小さな二階建てアパートの前まで来た。

カピバラ賃貸と同じでここも点いていていい明かりが何も点いていない。

ということはここも一度地上から建物が消えたということだろうか。

両脇の賃貸と思われる建物も同様の状態でどこからも明かりが漏れていない。

店から獣人賃貸の途中には建物が消えているようなところはなかったはずなのに、ここら辺は一度消えている建物の方が目立つようだ。

ここに来るまでも周りの様子を見ていて気のせいかなと思わなくもなかったが、明かりの消えている建物はコーポ大家から離れる側にあるようだ。

高い位置から確かめたわけではないので正確なところは判らないが、何となく境界線みたいなものがあるような気がするのだ。

どこか高い建物の上から確認できるといいのだけれど。


ということで、とっととこの小さいアパートを制圧してしまおう。

間口が狭く奥行きの方が長い土地に一階と二階に二部屋ずつあるので、一階の通りに近い方の部屋に近づいてみる。

通路に電灯はあるが、ひとつも点いていない。

こういう建物の外にある電灯は周囲が暗くなると自動的に点くタイプだと思うのだけど、点いていないのはどうしてだろう。

カピバラ賃貸も部屋の中の照明はスイッチを操作すると点いたので、スイッチを探してみるが目につくところには見当たらないようだ。

まあ街灯も月明かりもあるし、真っ暗という訳ではないので暗さが問題になることはない。

カピバラ賃貸の中の方が暗かったが、怪物が「いる」ことさえ判れば射撃スキルを当てることは容易だ。

ドアに手をかけ解錠の感覚が伝わると、慎重になり過ぎることなくドアを開けて中の様子を伺う。

程なくして闇の中をこちらに向かってくる存在を確認すると、見えないけど足元を狙って動きを止める。

近所の人からしたら完全に通報案件だが射撃スキルは発砲音がしないのが幸いしている。

速やかに部屋に入り込んで部屋の照明を点けると怪物に止めを刺して異次元収納送りにする。

うん、特に何の問題もない。

残りの三部屋の怪物もあっという間に異次元収納送りにして制圧を完了する。


『敵陣を制圧したのでポイントを獲得しました。』


これで拠点数が5になったので何かが起こるかと期待してみたが「天の声」が何かを知らせてくれることはなかった。

とても残念だ。

小アパートの設定を確認してみるが、そこでも予想していなかったことがあった。

防衛設定が「広域連携」ではなく「専守防衛」だったのだ。

うーん、これはどういうことだろう。

取り壊し物件だけが「広域連携」だったというのはあり得ないと思う。

連携というぐらいだから相手があって然るべきだ。

地下二階の壁があちこちに凹んでいたのも連携相手の方に向かっていたことを裏付けていたと思う。

もう数箇所拠点を制圧すれば何か分かるかもしれないが、今は一旦みんなの所に戻るとしよう。


あ、そうそう。

明かりの消えている状況を確かめておきたかったのだけれど、獣人賃貸もカピバラ賃貸も5階建てなので辺りを見渡すにはちょっと高さが足りない。

ここらで高い建物と言えば抜きんでてひとつ高いところはあるが、当然私にとっては敵陣となるのでちょっとお邪魔しますというわけにもいかないだろう。

その建物は2000年に話題になったCAが玉の輿目指して奮闘するドラマの撮影地にもなったアレだ。

このまま進むとちょうどその横を通ることになる。

あそこは500戸ぐらいあるはずなので、制圧目的で一人で乗り込んだ日には袋叩きにされるのがオチだろう。

玉砕覚悟で踏み込むなんて真似はしないが、情報が拡散されていればそろそろ人が出歩けるようになっている頃なので様子は見ておこうと思う。

件の建物が見えてくるとちらほらと外を歩いている人も見えるが、なんかもめてる一団がいる。


「俺が町会長なんだ。なんで俺がトップじゃないんだ。」


「そんなこと言われても知らないよ。自分だってなりたくてなったわけじゃない。」


「どうでもいいけど婦人部としてはちゃんと安全面に配慮してほしいわ。」


どうやらダンジョンマスターの人選に不満を持ったり、自分の意見を通そうと直談判しているようだ。

50m近く離れてるのに割とはっきり聞き取れるなんて、どれだけ声を張り上げてるんだか。

他にも騒いでいる人が何人もいるがはっきり言って聞くに堪えない。


後で調べて分かったのだが、象徴的なザ・タワーの他に四棟の集合住宅が建設されているのだが、全部をまとめて町内会があり、その中に管理組合や婦人部、老人会なども含まれるらしい。

組織があれば当然その長となる人がそれぞれいるわけで語弊があるかもしれないがお前の好きにはさせないぞ的な問題が発生しているようだ。

私のこれまでの経験上言えるのは、人の上に立ちたがる奴に碌な奴はいないということだ。

そういう人に限って、少しも責任は取らないくせに無駄に権利を主張したり威張り散らすことだけは決して忘れない。

前出のクソ課長もクソ課長2号もあいつもこいつもそいつも本当に碌な奴じゃなかった。

今、頭に浮かんだ奴らは今後会ったら悪即斬することを改めて心に誓ったのだった。

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