第36話 移動する固定砲台

エレベータが二階に到着すると普通にドアが開いた。

ドアの外を確認するが内廊下の先の非常階段を示す非常灯以外の明かりがないのでほぼ真っ暗だ。

だが、それでも内廊下には何も動くものがないのが容易に確認できる。

すごいな、褒めてつかわそう。


どういう状況かを説明すると、私が勇気を振り絞ってエレベータに乗ってみたわけではない。

慎重を期してゴーレムくんに実験台になってもらって共有される視界で状況を確認していたというわけだ。

駒は取り壊し中物件で追加したてのほやほやで余裕があるし、アイアンゴーレムなんてのも使えるみたいだったから検証を兼ねて、ね。

ゴーレムの視界についてはゴミ男の時は気付かなかったが、暗視的な能力も備えているみたいで大変な優れモノだというとこに気付かされた。

ゲームとかでの一般的なゴーレムは大きくて頑丈そうな印象が強いが、最初のもそうだったがこのアイアンゴーレムも1.5m程しかない。

ゴーレムをエレベータに乗せて二階のボタンを押させ、無事に二階にたどり着いて状況を確認したら一階に戻ってくるように言い含めてある。

やがて一階に何事もなくゴーレムが戻ってきたが、やはり自分が乗るのは憚られる。

そして、この物件の構造を目の当たりにしてちょっとした遊び心をくすぐられてしまった。

その感情を満たすために非常階段を使って上の階を目指し、着々と準備を進めていく。


途中、いくつかの部屋で複数体の怪物がいるところがあった。

飼っていたペットが怪物化したという感じではなく、明らかに人間が怪物化したものだった。

部屋の広さはどれも同じで普通のワンルームなので基本的には一人暮らし用の賃貸なのだろうけど、その部屋には二段ベッドが二台も押し込まれていた。

そう、民泊にでも使用していたのだろう。

全部が全部そういう部屋ではなかったので、恐らくいくつかの部屋をまともではない手段で借りて民泊に使用していたのだと思う。

シーツが大量に置かれている保管場所みたいになっている部屋もあったので間違いないだろう。


妻の生前、一緒に暮らしていたマンションにも民泊に手を出す不届きな輩がいて困ったものだ。

そのマンションでは事務所使用や不特定多数が出入りする店舗など、住宅以外の用途として使用することを管理規約で禁止していた。

当然と言えば当然だが、住民以外が我が物顔で出入りできるオートロックになんの意味があるんだってことだ。

民泊を利用する人すべてとは言わないが、短期滞在なのをいいことに周囲への迷惑を気にしない人が多いのも困りものだ。

夜遅くまで騒ぐ、暴れる、ゴミとか散らかす、部屋を間違えるなどトラブルの種が尽きない。

住んでいたマンションは管理がしっかりしていたのであっという間に民泊していると思われる部屋が見つかると、管理組合で証拠集めとかが実施されて退去してもらう方向で対策が進められた。

通告された部屋の住人は所有者が賃貸に出していた部屋の賃借人で、最初は知人を泊めていただけなどとすっ呆けていたがそんなわけはない。

数日おきにでかいスーツケースをガラガラと引きずる明らかに顔の違う複数人の旅行客を案内してくるとちょっと後にはご丁寧に裏口から自分だけ抜け出していってるところがしっかりと映像に残っているのにバレないとでも思っていたのだろうか。

所有者にも監視モニターの証拠映像を突きつけて賃借人自身の居住の実態がないことなどを示すと早々に契約の解除が進められ、問題の人物には退去してもらうことができた。


民泊が悪とは言わないが、するならするでしっかりと全てを自分の管理下で行えるようにしてほしいものだ。

分譲マンションや賃貸マンションの一室を規約とかを無視して使用するような真似はどうかと思う。

所有者として資産価値が下がるのもそうだが、居住者として治安の悪化などは本当に勘弁してもらいたいものだ。


さてさて、そんなこんなで遊び心を満たした結果がこれだ。

エレベータが次の階に到着してドアが開き始めると隙間からカピバラ獣人が近づいてくるのが見える。

ドアが十分に開くと熱光線が放たれてカピバラ獣人を一掃するとすぐにドアが閉じて次の階へ移動を開始する。

そう、固定だけどエレベータで移動する砲台を実現したのだ。

ガーゴイルはボタンを押せないので、それはゴーレムにやらせている。

エレベータのすぐ前にカピバラ獣人がいたときの対処もゴーレムの担当だ。

ポイント獲得の効率を求めるなら各階にガーゴイルを設置した方が断然いいのだが、折角使ってみたゴーレムも有効活用するためにこんな感じにしてみました。


でも、制圧しないと防衛設定を確認できないんだった。

折角構築したオモチャを壊す気にはなれないので、どこか手近で小さい物件を制圧しに行かないとな。

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