第35話 消えているものと消えていないもの

うーん、一体どういうことだろう。

何を疑問に思ってるかというと、さっき通り過ぎたぼんやりとした入り口だけがあった場所に戻って来てみたのだが、その入り口がないのだ。

入り口は消えているが、代わりに地上の建物が現れている。

なんでだろう。なんでだなんでだろう。


取り壊し中アパートを私が制圧したのが影響しているのだろうか。

さっき通った時との明確な違いであることは確かではあるが、それだけで決めつけるのは尚早な気がする。

「広域連携」しようとしていた相手がいなくなったからなのか。

だけど、他にも広域連携する相手はこの辺にはいくらでもありそうな気がする。

広域って言うぐらいだからお隣さん同士じゃなければだめということもないだろう。

実際に取り壊し中だったあそことは50mぐらいは距離がある。

更に言えば、広域っていうのは最低でも数km四方はあっていいと思う。

その範囲に連携できる相手、この場合はダンジョンだがそれがいないってのはちょっと考えにくい。

他にも確認済みの怪物化しているところは私がポイント稼ぎしている獣人賃貸とかもあるのだから。


まあ本当のことはまだ分からないし、今後断言できることは絶対にないかもしれないけど、とりあえず私が取り壊し中アパートを制圧したことをきっかけにここの広域連携がキャンセルされて建物が地上に復活したということにしておこう。

で、ここは地上と地下のどっちに怪物がいるんだろうね。

ちょっと外から見える範囲を確認してみるが、あの怪しげな入り口はやはりどこにも見当たらない。

今まで通りほぼ各部屋に怪物がいるだけなら何の問題もないとも思うのだが、一度地下に潜った後はこれまでとは現れ方が異なるかもしれない。

しかも、これまで見たことがないタイプの怪物だったらと考えると、ちょっと怖気づいてしまう。

射撃が通用しないような硬い怪物だったらどうしよう。

しかもしかも、五階建てエレベータ付き物件。

問答無用で転送みたいなトラップが発動したらどうしよう。

しかもしかもしかも、何故か建物のどこからも明かりが漏れていない。

これまでポイント稼ぎにしてきたところはほぼ煌々と照明が点いていたんですけど真っ暗ってどういうことよ。

今までにない要素が多すぎやしませんか。


とりあえず最低限の情報を得るため一階だけ様子を見ることにした。

覚悟を決めてエントランスに向かうとオートロックの自動ドアに迎えられる。

自動ドアの向こうは照明が点いていないためにほぼ真っ暗だ。

大概こういう共有部の照明ってつけっ放しが当たり前だが、消えていてどことなく嫌な雰囲気を醸し出している。。

地上から建物が消えた時に電気自体が通じなくなったのだろうか。

だとすると自動ドアも稼働しないかもしれない。

取り壊しアパートで通電するか確認してこようかと思ったが、あそこは取り壊しが一度は始まっていたので電気が撤去されている可能性が高いな。

とは言え、不思議パワーが満ち溢れているのも確かで、電気がなくても謎のダンジョンパワーでどうにかなってしまうかもしれない。


目を凝らして自動ドアの向こうの様子を探ってみると天井付けのセンサーにほんのり小さな明かりが点いていることが判った。

ということは自動ドア自体は活きているんじゃないかと思い、向こう側に適当なものを異次元収納から取り出すとあっさりと開いてくれた。

なんでドアの向こう側に物が出せるのかって?

それは異次元収納を出し入れするのにちょっと離れていることは何の問題もないからだ。

散々、獣人賃貸で出し入れを繰り返したからこれぐらいお茶の子さいさいだ。


中に入ると正面には非常用の内階段の扉、左に伸びる内廊下の両側には3つずつの部屋、突き当りにはエレベータがある。

エレベータのインジケータも点いているので恐らくは機能しているのだろう。

だけど、共用部の照明は点いていない。

まさかダンジョンがエコを意識しているはずはないと思うのだが、なぜ照明を消しているのかはちょっと気になったことではある。

さっきも言ったが、獣人賃貸とかもそうだったように共用部の照明はほとんどの場合は点けっ放しだ。

建物が地上に復活したのなら、オートロックの自動ドアやエレベータと同じで照明も活きていていいはずなのに、照明だけ消えている状態になっているのが不自然に思えたのは何の不思議もない。

停電になった後に電力供給が復帰したら電気製品ってそのまま点くじゃない。


素朴な疑問は置いておくとしても、どうみてもエレベータって罠っぽいよね。

エレベータは後回しにして、部屋の中を確認することにする。

一番手前のドアに手をかけると毎度お馴染みとなった解錠された感覚が伝わってくる。

慎重に中を確認すると窓から差し込む月明かりの中に浮かび上がるカピバラの出来損ないみたいな怪物の姿が確認できた。

私に気付いて襲い掛かろうとしてくるが大したスピードでもないので余裕で止めを刺すとあっという間に異次元収納送りにする。

一応明かりを点けて部屋の中を確認したが、特に気になるものはなかったので次の部屋に向かう。

こんな調子であっという間に一階を制圧してしまうと、後回しにしていたエレベータと向き合うことになる。

絶対乗りたくないんだけど。

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