第34話 ダンジョンを封鎖せよ!

うーん、一体どういうことだろう。

私が見た覚えがあるこの建物の窓ガラスはあちこち割れていて、逆に言うとまともな窓があったかどうか怪しいくらいだったはずだ。

壁も結構な状態で、放置されて以降で悪ガキとかにイタズラされて穴が開いていたところもあったはずだ。

雨樋もだらしなく垂れさがったりしていて、九月に発生したスーパー台風の時にはいろいろとどこかに飛んで行ってしまうのではとご近所さんが警戒していたようだが、なんとかさらにバキバキになっただけで周りに被害を及ぼすことはなかった。

その後の台風15号による更なる局地的豪雨でバキバキさに輪がかかっていたようだが、この時も耐えて辛うじてぶら下がっていたはずだ。


そう言えば、局地的豪雨のことをいつの間にかゲリラ豪雨なんて呼び方が浸透し、2008年にはあの流行語なんたらのトップ10に選出された時には驚いたものだ。

マスコミが率先してゲリラなんて不正規戦闘を指す言葉を気象用語として用いるなんて、なんと配慮に欠けることかと憤りを感じたものだ。

戦争反対や世界平和を声高に叫ぶ同じ口でそんな言葉を日常に持ち込んでくるとは意味をちゃんと理解した上で使っているのか正気を疑われても仕方がないんじゃないだろうか。

さすがに現在の国営放送の報道や気象予報では使用を避けているようだが、民放では未だに頻繁に聞くことがあるので何も考えていない能天気な人が多いらしい。

同じような言葉に爆弾低気圧なんてのもありましたね。

言い出しっぺと広めた人の品位を疑いたくなります。


建物の周りを一回りしてみるが、どう見てもあのボロボロだった面影がどこにもない。

しかも周りに組まれていたはずの足場も一切ない。

寧ろ新築しましたと言ってくれた方が納得できるぐらいだ。

何らかの理由があって取り壊しが中断されていたんだろうけど、外から今の状態を見る限りでは取り壊しが必要だとはとても思えない。

老朽化ってほど築年数も経ってなかったようにも見えたし、そもそもの取り壊しの理由を知らないので何とも言えないか。


うーん、これってやっぱりダンジョンの自動修復なのだろうか。

でも、自動修復って軽微な損傷が対象だったはずで、重大な損傷はポイントを使うのではなかったか。

覚えている限りの外観が軽微な損傷とはとても思えない。

まさか、ガーゴイルがせっせと頑張って貯めたポイントが…使われてはいなかった。

一応、ポイント履歴を確認してみたが、この修復のためにポイントが使われた形跡はなかった。

そうなると更に分からない。

まだ、私のポイントが使われて修復されていた方が納得できたように思える。


あのボロボロだった状態が軽微な損傷扱いなら今夜になって建物が消える前に修復されていたっていいはずだ。

そうなるとこの辺りがそれほど人通りが多くないとはいえ周囲の人たちの誰も何も気づいていないということはないだろう。

ちょっと聞いてみようか。

向かいのお宅に確認してみたところ、今日の昼間にはボロボロのままだったらしい。

現状を知ると大変驚いていたので本当に今、知ったようだ。

ということはどういうことだろう。

ボロボロだった、ダンジョン化した、浮浪者と猫が怪物化した、建物が消えて地下にダンジョンができた、私がダンジョンを制圧した、広域連携を解除した、修復された建物が現れた。

時系列に並べるとこんな感じだろうか。

広域連携を解除したのが地上に建物を戻す切っ掛けになったのかは定かではないので、もう一度確かめる必要があるかもしれない。

ちなみに地下のダンジョンはなくなっていない。

地下に続く階段が消えていないのだ。

また猫とか入り込んで怪物化しても可哀そうだ。怪物化しないかもだけど。

新たな問題を発生させないためにも封鎖するなりしておくことはできないものだろうか。


『了解しました。当ダンジョンを封鎖します。』


あ、封鎖しちゃったよ。

まあ、いいか。

地権者とかも入れなくなったんだろうけど別にいいよね。

とっとと取り壊して更地にしてればボロアパートが周囲にいろいろな迷惑をかけることもなかったし、ダンジョン化することもなかったのに、放置してるからこういうことになるのだ。

私としては日本の法律ではこの土地も建物もどうこうできる立場でもないし、しばらくは異次元収納の容量として活用させてもらうことにしよう。

しかし、このダンジョン空間は何か有効活用することはできないものだろうか。

自陣内だから地上の建物も含めて転移、いや転送だっけ?それはできるみたいだから、利用法を是非とも考えたいものだ。

沖縄の怪物化したダンジョンに同じ事したらどこでも扉じゃないけどすぐに遊びに行けていいかもしれないなどと不謹慎なことを考えたのは決して水着回を意識したわけではない。

絶対にそんなことはない。


さて、地上に建物が戻る切っ掛けを確認するために、手前にあったあの怪しい入り口に入ってみるとしますか。

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