第38話 皆殺しだ

いずれにしてもこの代官山を象徴する建物はいくつかの集合住宅を含むひとつのダンジョン扱いのようだ。

敷地内を散歩するだけでも十分な広さがある上に、スーパーマーケットを含む多くの店舗があるので、例え敷地から出られなかったとしてもこの一両日不便さを感じることもそれほどはなかったことだろう。

地下には東京23区南東部に電力を供給する拠点変電所もあるので、ここが怪物の巣窟になって地上から建物が消えていたらもしかすると電力供給地域は停電していたかもしれない。

それはとても困るかも。

今のうちに不安を解消するべく、あの一団の中にいるダンジョンマスターをどうにかしてしまおうかと考えなくもなかったが思いとどまる。

今は波風立たせる必要はないだろうと判断してこの場を立ち去ろうとしたのだが思いがけず呼び止められてしまった。


「おい、お前。逃げようとしているお前だよ。無視すんな。団長、あいつ仲間じゃねえ。やっちまおうぜ。」


へぇ、仲間かそうでないか判るってすごいな。

まさか全ての住民を覚えているなんてことはないだろうから、そういうのが判るスキルでも持っているんだろうか。

しかし、私の立っているところはこのタワマンの敷地内と言えば敷地内だが、区立の公園でもあるのでダンジョン外かと思ったがそうではなかったようだ。

念のため地面に向かって最低限の出力で指鉄砲を放ってみると小さな穴が穿たれたので、やはりダンジョン内のようだ。


「なに?敵が攻めて来てるの?大変じゃない。誰かとっととやっちゃってよ。」


「ここに侵入してくるとはいい度胸だ。とっつかまえて晒し者にしてやる。」


なんか物騒な人たちだな。

口々にやっちまえとか騒ぎ立てて取り囲んで来ようとする。

変な群集心理にでも陥ったようだ。

折角、大人しく帰ろうと思ったのに絡んで来るならしょうがない。

団長って呼ばれてた人がおそらくダンジョンマスターなのだろう。

その人だけは降伏してもらうために残しておかないとね。

それ以外はひーふーみーよー…8人か。


「一応、警告しておきます。私を襲うってことは逆襲される覚悟があるということでいいんですよね。」


「オッサンが何カッコつけてんだよ。こっちには若い男が何人もいるんだぜ。敵うと思ってんのかよ。」


情報が出回り始めてダンジョン化したことを知ったばかりなのかもしれない。

非日常的な状況に興奮でもしているのだろうか。

特にスキルを使うでもなく四人ほどが襲い掛かってくるので問答無用で頭部を打ち抜く。


「ひぃっ。人殺しぃっ!」


おばさんが騒いでるが、私が抵抗しなかったらその立場になってたのは多分あなたたちの方ですよね。

それを黙って見ておいてその言い草ですか。


「皆さん、動かないでください。逃げ出すなら先程の人たちの後をすぐに追わせてあげますよ。」


「助け…」


おばさんが逃げ出そうとするのでこれまた当然のように頭を吹き飛ばす。

まだ何人かいるしわざわざ痛いのを長引かせて甚振る必要もないだろう。

即死させてお部屋にお戻りいただこうという私の優しさに感謝してほしいくらいだ。


「動くなって言いましたよ。」


「わ、分かった。どういう方法を使っているのかは分からないがそれ以上はやめてくれないか。」


「何か勘違いしていませんか。絡んできたのはあなた達です。私は降りかかる火の粉を払っただけです。そしてやるなら徹底的にやります。」


「悪かった。頼むから殺さないでくれ。どうすれば許してくれるんだ。」


「あなたがここの支配者ですか?」


「待て。俺が町会長だ。話なら俺が聞く。」


先程のやり取りからこの人はダンジョンマスターじゃないのは判っている。

まったく出しゃばりな人には困ったものだ。

状況把握もできない人は黙っててほしい。

ということで一歩踏み出してきたこともあるし、こういう手合いは相手をするのが面倒くさいので頭をふっとばしてとっととお帰りいただく。


「まったく、ここの人は死にたがりが多いんですね。そこのあなた、ステータスを確認して自分の名前以外で表示されている人の名前を教えてください。」


団長と呼ばれていた人ではない残り二人の内の一人に話しかける。

その人は団長と呼ばれてた人の顔色を伺ってから口を開く。


「おしえるか。」


「はい?本当に死にたがりが多いんですね。」


「違います違います。私の名前は押江おしえ琉果るかというんです。」


こんな時に紛らわしい名前を聞くことになるなんて、ちゃんと教えてくれたのにうっかりお帰りいただくところでした。あぶないあぶない。

それにしても私より年上に見えるのに随分しゃれた名前だな、苗字とのかみ合わせが良ければもっと良かっただろうに。

でも、どうやらここのダンジョンマスターはこの人で確定のようだ。

うっかりやってしまった時のために住んでる場所も確認しておこう。


「あなたのお部屋番号を教えてください。」


「…2×××号室です。」


ということは多分タワーにお住まいなんだね。

うっかりやってしまったら突破するのが大変なところだった。


「それでは、最終勧告です。命が惜しければ降伏してください。」


「…降伏しなかったら?」


「皆殺しです。」


おおぅ。自分で言っててゾワッてしちゃったよ。

サ○ヤ人は皆殺しだ。

ゴブリン共も皆殺しだ。


「賢明な判断をお願いします。」


「…判りました。降伏します。」


『敵陣を制圧したのでポイントを獲得しました。』


はったりが利いてよかった。

大虐殺して射撃のレベルが上がりまくるところだった。

思いがけず高いところにも行けるようになったので是非とも案内してもらうとしよう。

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