第21話 多田引越センター

ポイント交換を確認してみると確かに異次元収納があった。

必要ポイントは10,000。

他にも気になるものとしてスキルガチャなんてのもあった。

スキルガチャの必要ポイントは1,000。

うーむ、まずは異次元収納は交換するべきだろうな。

容量がどれぐらいかはともかくとして、これが使えないはずはない。

お約束としては生きているものが入れられないとか、時間経過するしないのタイプは別れるところだが、そんなものは問題にならないくらい役に立つことは間違いない。


「多田さん、どうしたんです。行かないんですか?」


「あぁ、すいません。もしかしたら一気に運べちゃうかもしれないのでちょっと待ってもらえますか。」


「そうなんですね。じゃあ他に持っていけそうなもの見繕っておきますね。」


樋渡さんに追加で持っていく物の候補を見てもらっている手前、容量が少なすぎて何も持っていけませんってのは勘弁してほしいなと思いつつ、ポイント交換で異次元収納を入手する。

特に何かが変わった感覚はないけど、ステータスを確認してみると私のスキル欄に異次元収納が確かに追加されている。

使い方の説明書があるわけではないけど、射撃の時と同じように感覚で使ってみれば大丈夫だろう。

ということで、樋渡さんが詰めてくれたバッグに手を伸ばし、「入れ」みたいな感じで念じるとバッグは目の前から消え去った。

瞬間、脳裏に異次元収納の中に何が収まったかの一覧が作成されたようで、収容物の全てを把握することができた。

下着類が多いな。そりゃそうだ。

当面の着替えということで取りに来ているんだからな。コホン。


試しに一度取り出してみる。

無事に手元に元のバッグに全部詰まったままの状態で取り出すことができた。

うん、大丈夫そうだね。

今一度、収納して今度は中の物を個別に出してみる。

あ、失敗した。


「ふーん、黒が好きなんですね。」


こちらを見ている樋渡さんの目がどこか蔑みを含んでいるような気がして逡巡してしまう。

いや、違うんだ。

これは、別の物を取り出そうとしてたはずなのに、さっきの樋渡さんの状況が脳裏を過ぎってしまい反射的に出てきてしまっただけなんだ。


「そういうことにしておきましょう。」


慌てず騒がず出したものを収納しなおす。

感覚的にはこの部屋にあるものを全部収納できそうなので、樋渡さんにそう告げるとクローゼットから衣服を全部取り出してきた。

次々、収納していくが思った通り容量の上限には達しそうにないので、備え付けではなさそうな家具も残らず収納してしまう。


「すごいですね。引っ越し業者泣かせな能力です。新しく仕事が始められそうですね。」


「引っ越し元と先がダンジョンに限定されそうですけどね。」


おそらく異次元収納もスキルである以上はダンジョン内でしか機能しないと思われる。

さすがにダンジョン外に出たからといって強制的に収納物が排出されることはない、と思いたい。

もしかして早まってしまったかな。

まあ、排出された時は仕方ない。


「それじゃあ、一旦戻りましょうか。」


「一旦、ですか。他に持っていく物なさそうですけど?」


「検証です。」


説明は後回しにして、伴さんの部屋に戻って収納してきたものをすべて渡す。

獣人賃貸を出たところで収納から物が排出されなかったのは幸甚だった。


「すごいです。全部持ってきてくださったんですね。貼ってあったポスターまで。でも、これはもう要らないかもですね。ふふ。」


だから何でそんな目で私を見るんでしょう。


「「息吹」については何か分かりましたか。」


「私、子供の時に空手やらされてたんです。小学校の低学年の時にはやめちゃいましたけどね。練習に入る前とかにやってた呼吸法がそんな名前だったような気がして思い出してやってみたんです。」


お父さんが空手家だったりするのかな。


「それで、どうだったの?」


「うーん、特に何も変わりませんでした。」


あらら、思わずずっこけそうになってしまいました。


「スキルを使うようなイメージはしてましたか。」


「それが、よく分からないんですよねぇ。多田さんが手取り足取り教えてくださるなら分かるかもです。」


「多田さん、さっき言ってた検証って私も必要なの?じゃないなら、この子は私が見てるので行ってきていいですよ。」


樋渡さんが必要な検証もあるけど、いなくてもできる検証はあるので今はお任せすることにしよう。


「樋渡さん、それじゃあお願いします。」


「あなた意地悪なのね。」


「いやあ、それほどでも。」


「誉めてないわよ。」


とっとと逃げ出すことにした。

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