第17話 お前の力を見せてみろ

ゴーレムの投擲で人間の頭が簡単に潰れるぐらいなので、「天の声」が強力って言うぐらいだから結構な熱光線なのだろうとは思うが見てみるまでは何とも言えません。

ということで、内廊下突き当りの壁際にガーゴイルを設置してみる。

へー、結構趣のある造りしてるじゃないか。

ゲームによく出てくるような翼を持った魔物の形状をした石像だった。

どこから熱光線が出るんだろう。やっぱりゲームとかみたいに目から出るのがお約束なのかな。

まあ、一回見ればわかるか。


取り敢えず、一匹誘き出してくるから的確に頭を打ち抜くようにするんだぞ。

強力な攻撃は兎角連続には使用できないのが普通だ。

一撃必殺できないような威力ならガーゴイルを回収して今日のところは一旦撤収だな。

それと間違っても私に当てないように気をつけろと念押しして最初に開いていた部屋に向かうと動けなくなっていた獣人に止めを刺す。


『敵性勢力の眷属を撃破したのでポイントを獲得しました。』


間もなくリスポーンした獣人に存在を知らせるように部屋の外から音を出して挑発する。

特に警戒することもなくこちらに向かってきたので、慌ててガーゴイルの方に戻ると熱光線で仕留めそこなった時のために備える。

ほら、出てきたぞ。お前の力を見せてくれ。

次の瞬間、若干口が開いて何かが集約したかと思った時には結構な熱光線が放たれて獣人の頭が吹き飛んでいた。

思わず「薙ぎ払え!」と言いたくなるような情景がそこにはあった。


『敵性勢力の眷属を撃破したのでポイントを獲得しました。』


凄いぞ、ガーゴイル。

この共用通路の幅なら三体同時に襲われてもまとめて撃破できそうだ。

問題は絶妙の時間差で襲われた時だな。

だけど、ただの駒にそこまで期待するのは土台無理な話か。


『駒は経験を積むことで学習します。的確な指示を与えることも学習を促します。』


AIかよ。

でも「天の声」自体がそれに近いようなもんか。


その後ガーゴイルに細かく指示を与え、三部屋の扉を開けっ放しにし、別の個体の撃破の音を聞かせることで外に誘き出すようにし、リスポーンのタイミングをずらすことで無限ループになるようにしてみた。

しばらく動きがなくなった時には壁に向かって攻撃することで音を発生させて誘き出すことも指示しておいた。


さて、朝までにどれ程のポイントが溜まっているかと期待して階段を降りて建物を出ようとしたところでちょうど人が入ってこようとしていた。

こんな時間まで働いてたのかな、大変だなと思ってしまったが、いやいやそうじゃない。

ここの住人なら、このまま建物に入ってしまっては恐らく獣人化してしまうことだろう。

まだ人間のままでいられているのに、このまま見す見すダンジョンに取り込ませてしまっては人としてどうなんだって話だ。


「すいません、ここの住人の方ですか?」


慌てて、敷地に入る前に呼び止める。


「はい、そうですが。何か御用ですか?」


じろじろと私の顔を見て警戒しているようだ。当り前だな。

いや、違う?なんか嬉しそうに見えなくもない。

そんなことより、どう説明したものか。

中に入って現実を見せつけるのが一番早いのだが、そうすると多分この人は獣人化まっしぐらだ。

違う方法を考えないといけない。


「202の知人のところに来てみたんですけど、事件があったみたいで頭を何かで吹き飛ばされていたんですよ。」


誰がやったとは言っていないだけで嘘ではない。


「本当ですか!?私、201なんですけど、どうしよう…。」


おー、二階の残り一つの部屋の住人だったとはなんと奇遇な。

この人を獣人化させなければ二階のポイント稼ぎループがしばらく安泰かもしれない。

ちなみにあの階のポイント獲得については継続的に通知されるとうるさいので「天の声」にお願いして通知しないようにしてもらった。


「なんか変な唸り声が聞こえたので逃げてきたんですけど、もしかしたら他の部屋の人も犠牲になっていたかもしれません。」


「えー、怖いんですけど。警察には連絡したんですか?」


「それが、しばらく見てるうちに死体が消えちゃって、通報しても信じてもらえないかなあとか考えてたら別の部屋から唸り声がしてきたんで逃げてきたところなんです。」


これも丸っきりの嘘ではない。

だけどこの人を敷地内に入れないとしてその後どうしたものか。


「えー、困ったなあ。今日は友達の部屋に泊めてもらおうかなあ…って言ってもこんな時間だし迷惑かけるのもなあ。」


「それだったら、実は私はこの裏手のコーポ大家の大家なんですけど、入居者のいない空き部屋が一つあるので今晩のところはそこでお休みになって様子を見られてはいかがでしょうか。」


「えっ、いいんですか。とてもありがたいんですけど。」


「私は全然構いませんよ。一階の部屋で女性にとってはちょっと不安かもしれませんが、それで良ければどうぞお使いください。」


ということで何とかこの女性を獣人賃貸の敷地内に入れることなく、言い包めることに成功した。

朝になったらまた状況が変わってるかもしれないし、別の説得ができるかもしれない。

二か月ぐらい前まで私が使っていた102号室の鍵を開けて中の状態を確認する。

一週間に一度は軽く清掃しているのでそれほど汚れてはいない。

私の予備の布団を運んできて女性に渡し、エアコンも使ってくれて構わないと言い残して部屋を出た。

女性は恐縮していたが、お互いの利害が一致した結果だ。何の問題もない。

どちらかというと私の方が二階の無限ループを壊されたくないという思惑が強いのだ。


さて、私もそろそろ寝るとしよう。

朝になってポイントたくさん溜まっているといいな。

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