第6話 会議は踊る、されど進まず

話し合った結果、設定は一旦次のように落ち着いた。


移動設定:侵攻制限

行動設定:みんながんばれ


移動設定はアパートから出られないと食料など生活必需品も買いに行けないということで自由度を上げた感じだ。

侵攻制限にしておけば迂闊に敵陣に踏み込まないようにできるという思惑も働いている。

行動設定についてはこのままで不都合はないだろうという判断だ。


「で、「天の声」によると敵の数は100万を超えているらしいんだが、どうしたもんかね。」


便宜上、頭の中に響く声を「天の声」と称することにした。


「なんで、多田さんだけ「天の声」が聞こえるんでしょうね。やっぱりご主人様だから?」


今のところ、私以外には「天の声」は聞こえていないようだ。

ダンジョンマスターにしか聞こえない、というのも違うような気がする。

何か条件がある気がするけど、今はそれどころじゃない気がする。

うっかり、敵陣に入ったらチラシ男の二の舞になってしまうかもしれないのだ。


「情報が少なすぎますね。病院の方では特に異常は起こっていないようです。ただ、私と同じで今日非番の寮に住んでいる子に聞いてみたらステータス見えちゃったそうです。しかも管理者は寮長だそうです。」


「そう言えば、ポンコツJDはついさっきまで普通に出かけてたよな。」


「ポンコツもJDもやめてほしいのですわ。今日は朝からずっと大学にいて、恵比寿駅に戻ってきたのが20時過ぎぐらいだったと思います。駅の所で結構な人が空を見上げていてそう言えば今日は皆既月食だったことに気がついて私もしばらく眺めてしました。白い月が見え始めた頃にアパートに向けて歩き出した感じですね。」


「で、うちが外に出られないことが判った後に試したらもう出られなくなってたんやな。」


そうなのだ。

クリスと樋渡さんに声をかけてここに集まる前に試してもらったのだが、誰も外に出ることができなかった。

私以外は。


「ダンジョンニ入ルトダンジョンノ影響ヲ受ケルトイウコトデショウカー。」


ちょっと違う気がする。

コーポ大家がダンジョンになったのが最初の「天の声」を聞いた時だとすると説明できそうな気がする。

先ず、ダンジョンにはダンジョンマスターが必要ということで私が設定されたのだとする。

その後、その時に建物内にいた白面、紋吉、百海、樋渡さん、尾茂さん、ミミが眷属として認識された。

この後、クリスが部屋に返ってきた時には侵入者として通報がなかったのに、チラシ男は侵入者として通報があった。

このことから正当にダンジョンに入る権利を有しているかどうかを「天の声」は把握できていると考えるべきだろう。

クリスが帰宅後に眷属に追加されていたことからもこの仮定に問題はないように思う。

そして現在、面近さんも眷属に追加されている。

つまり、正式に眷属として認識されるまでは設定による制限を受けないのではないだろうか。

そんな感じで説明してみると大筋納得してもらえた。


「ナルホドー。タダサン、スゴイネー。サスガマスターネ。」


「病院には異変がないけど、隣接する寮はダンジョンになったのはどういうことかしら。」


「これまでのことを合わせて考えると、住んでいる人がいるかいないか、ではないでしょうか。」


「職員や患者さんは病院に住んでいるわけじゃない、ってこと?」


「え、じゃあ勝沼の父ちゃん母ちゃんはどうなの?」


「ご実家は恐らく一軒家ですよね。同居人は他にいらっしゃいますか?」


「そうだね。かなりぼろいけど一軒家だよ。父ちゃんと母ちゃんだけだな。」


「ダンジョンマスターが必要なことと眷属の存在から、集合住宅みたいに管理者とか、大家がいるところに限られるんじゃないでしょうか。」


「だとすると高層マンションとか眷属の数凄そうだな。敵にしたくないな。」


「あとダンジョン化が始まった原因ですが、天王星食が関係していると思われます。」


「そうなんですか?」


「ダンジョン化した時にポイント貰ったみたいなんですが、天王星食が始まった直後ぐらいなんですよね。それで、天王星食が原因だとすれば、敵の数が100万を超えていることにも納得がいくかなあと。」


「つまり、天王星食が見られた地域の集合住宅が全部ダンジョン化しちゃったってことですか?それ大丈夫なんですかね。」


「ある意味ディストピアだな。」


「そろそろSNSとかでも騒ぎ出す頃じゃないですかね。」


「ナンカ、モンスターガ出タッテ騒イデマース。」


マジか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る