第7話 スキルを使ってみよう

ある配信者が東伊豆の廃病院に無断侵入して生配信をしていたところ、何かに襲われて配信が途絶してしまったことが話題になっているようだ。

その襲われた瞬間の映像を見てみると、野犬のように見えなくもないが絶対に違うと言い切れる要素がある。

頭が3つあるのだ。

ゲームとかだとケルベロスってやつだろうか。

体躯も結構大きくて2m以上ありそうだ。


「病院にこんなの出ちゃうんですか。うちの病院大丈夫かしら。」


「うーん、多分大丈夫だと思います。さっきの仮定から外れませんから。」


「どういうことですか?」


「恐らく、この謎生物は廃病院に棲みついていた犬なんだと思います。棲みつく、つまり住人と捉えることができるんじゃないかと。そして、廃病院のため地主はいてもダンジョンマスターになれるような人物がいなかったんじゃないかと思われます。結果、ダンジョンマスターのいないダンジョンの住人は怪物化したという感じじゃないでしょうか。」


「それって、多田さんいなかったら私達もモンスターになっちゃうってことですか?怖いですね。」


「それ、やばいでしょ。確か、近所にも取り壊しが進んでいない放置されたっぽいアパートあったでしょ。」


「あー、ありましたね。浮浪者が入り込んでいたような…まずいですね。初期設定がうちと同じで自陣待機ならいいですけど、無制限だと困ったことになりそうですね。」


「様子見ニ行キマスカー?」


「見に行って襲われたら無法な配信者の二の舞ですよ。それより自衛のためにも先に戦う術を考えましょう。」


「戦う術、ですか?ダンジョン攻略するようなゲームなら剣とか魔法ですかね。」


「今のところ皆さんが持っているスキルはあまり戦闘向きじゃないみたいですが、使い方は把握しておいた方がいいと思うんです。」


「うちの「言霊」ってなーにー?」


「普通なら言葉に力を持たせていろんな現象を起こす、ってところでしょうか。」


「例えば?」


「動くな、とかで言葉を聞いたものの動きを封じるとかですね。試しにスキルを使う感覚で仰ってみてはどうでしょう。」


「ふーん。じゃあ…【笑え】。」


「アハハハハ。」

「ふふふ。」

「くっくっくっ。」


「無理して笑ってない?多田さん、笑ってないもん。」


「ハハハハハ、無理矢理笑ワサレテル感ジデスネ。ハァ、治マッタミタイデス。」


「何をさせるのですわ。」


「抗えない感じだったわ。」


「私はダンジョンマスターだから効かないんじゃないですかね。」


「【金くれ】。」


「アゲマセンヨ。」


「なんであなたにお金あげなきゃいけないんですの。」


「金の亡者みたいなこと言わないでよね。」


「スキルのレベルが低いか、複雑な要求は無理か、或いは両方ですかね。」


「【動くな】。」


「オー、ウゴケマセーン。」


「私達で遊ばないでいただきたいのですわ。」


「確かに動けないわね。」


「今の感じだと単純動作に直結しそうな言葉なら2~3秒の効果ってところでしょうか。」


「なるほどね。劇場とかで使えばスベることを怖がらずに無双できそうね。」


そんな使い方するんかーい。

まあ、不意打ちで動きを止めるとかはできそうなので使い道はあるだろう。


「それじゃあ、私の「読心」は文字通り心が読めるのでしょうか。」


「多分そうだと思います。ちょっと内輪で試すには人間関係が問題になりそうですが。」


「うーーーーーん。ダメです。さっぱり分かりません。」


「誰で試したんですか。」


「多田さんが私のことをどう思ってるかを読み取ろうとしたんですけど何も分かりませんでした。」


「はぁ、尾茂さんもでしたけど眷属がダンジョンマスターに力を向けることはできないんだと思います。特に攻撃するような力は制限されるんじゃないでしょうか。」


「なら、私の「治癒」なら多田さんに使えるんでしょうか。どこかに傷とかありませんか。」


「そういうことでしたら昼間に草むしりをしていてちょっと手首の辺りを草で切っちゃいました。」


手首の傷を樋渡さんに見せると、手を当てて念じ始めた。

すぐに温かな感覚があり、樋渡さんが手を退けるとそこに傷はもうなかった。


「すごいですね。傷跡がまったくないです。」


「これ、めっちゃ便利かも。採血した後に止血要らずじゃない。」


そんな使い方するんかーい。


「スキルのレベルが上がったらとんでもない傷とかも治せちゃったりするんですかね。医者とか看護師さんが軒並み治癒スキルを獲得していたら医療界に激震が走りそうですね。」


「奈美さん、「私はゲームで言えば回復役ってことか。つまり後方支援役。戦闘は他の人に任せるわ。」って思ってますね。」


「恵理ちゃん、なんで分かったの。(;´・ω・)」


「読心ってこんな風に使えるのね。」

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