第5話 眷属会議
敷地の外に出ようとしていた尾茂さんはそこから一歩も進めない。
まるで見えない何かが彼女を縛り付けているようだ。
「なんでー?」
これはもしや移動設定にあった自陣待機のせいだろうか。
「そう言えば、ちょっと前に変な声とか聞こえたりしませんでした?」
「んー?さっきまで寝てたからよく分かんないかも。なんか呼んでた?」
「いえいえ、全然声をかけたりはしてないんですけどね。」
どうしよう。
眷属として名前があるから間違いなく当事者だし、ダンジョンのこと話した方がいいよね。
「ちょっと試しに「ステータスオープン」なんて言ってみちゃったりしてほしいんだけど。」
「はぁ?何それ。何かの罰ゲーム?」
「ステータスオープン?きゃっ、何ですか、これ??」
面近さんは見えてしまったようだ。
やっぱりこれは紛うことなき現実で起こっていることなんだ。
「令子さんも言ってみてください。」
「分かったよ。ステータスオープン。おわっ。なんじゃこりゃ。」
ちょっとの間、ステータスを見ていた二人は私の方を見て言った。
「いつの間に多田さんが私のご主人様になったんですか。」
「なんでうちが多田さんの弟子みたいになってんの。」
受け取り方はいろいろらしい。
簡単にさっきまでに起こったことを説明してみる。
「マジか。そんなことになってんのか。」
「ご主人様って響きがいいですね。きゃっ。」
「なに浮かれていやがる。ポンコツJD。」
「ひどいですわ。WGP準決どまりの方にポンコツ呼ばわりされるなんて心外ですわ。」
「まあまあ、二人とも。それでこれからどうすべきか相談したいんですけどどうでしょうか。」
放っておくと話が進まないので無理やり割って入って話を進めようとする。
話し合いするのは当然だと思ってくれたようで、ついでに部屋にいたクリスと樋渡さんにも声をかけて私の部屋に集まってもらった。
「実家の方に連絡してみましたけど特に変わったことは起きていないようでした。」
「うちも普通に話せたぜ。さすがに「ステータスオープン」って言ってみてとは言えなかったけどね。」
面近さんは栃木の那須の方、尾茂さんは山梨の勝沼辺りに親御さんがいらっしゃる。
「病院の方は大丈夫かしら。入院している患者さんたちに何事もなければいいけど。」
「ワーオ、ダンジョンニ住メルナンテサイコーデース。」
「さっきも言いましたが、既に死人が出ています。そんな楽観的な状況ではないんですけどね。」
「ゴメンナサーイ。デモ、「ダンモチ」トカ大好キナノデ興奮ガ抑エラレマセーン。」
改めてステータスを確認してもらうと表示内容は大体同じような感じだったが表記については少しずつ違うようだ。
どうやら人によって一番理解し易いように最適化されているっぽい。
同じなのは私が眷属詳細で見た数値で、皆にはダンジョンマスターが私であるという情報が追加されているみたいだけど、それが人によってちょっとずつ名称が違うようだ。
例えば、面近さんは「ご主人様」。尾茂さんは「師匠」。樋渡さんは「管理者」。クリスは「master」といった具合だ。
そして、それぞれ持っているスキルも違う。
面近さんは「読心」。尾茂さんは「言霊」。樋渡さんは「治癒」。クリスは「騎乗」。
こうして見ると職業柄や趣味、特技などが反映されているように思える。
取り敢えず、自身のステータスは把握してもらえたので設定について協議していく。
現在の移動設定は自陣待機。自分なりに解釈すると自陣とはコーポ大家であって、そこに待機する、つまり出られないということなんだと思う。
とすると、自陣があるということは敵陣があるということ。
敵陣に乗り込んでしまうとチラシ配りの男のように撃退されて敵の駒となってしまうのではないだろうか。
ちなみに移動設定で他に設定できるものとしては、無制限、侵攻制限、自領制限、自陣待機、階層待機、待機がある。
無制限があるのだから先に挙げたほど自由で、後に挙げたほど制限が多いのだろう。
とすると、待機は自分の部屋から出られないのかもしれない。
階層待機は拠点の階層が2だったことからも自分の部屋の階は移動ができるのだと思われる。
自領待機がいまいち不明瞭だな。敷地内か?
『敵陣を制圧すると自領に加えることもできます。この場合、自陣への侵入者を自領内へ転送することができるようになり、自陣をより安全に防衛できるようになります。』
なんてこったい。
敵がいるってことは攻められることもあるわけだ。
一体誰と陣取りみたいなことをやらないといけないんだ。
『敵の数は膨大です。その数は既に100万を優に超えています。』
「はい?」
まさか、1対100万超ってことはないよな。
それって、どんな無双ゲームだよ。
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