第31話VS教授、後編

引き入れたこのカードの内容は既にわかっている。見ることなく場へ解き放つ。


「魔法カード『次元の呼び声』をキャスト、追加コストとして1000のライフを支払うことでゲーム外から好きなカードを一枚手札に加える」


カードから出現する時空間の歪み、そこに手を伸ばすことで俺は望みのカードを手に入れられる。

ゲーム外から好きなカードを取り出すことで、あらゆる状況に対処出来るようにしていたのだ。

こんなこともあろうかと仕込んでおいたのである。


「ほうほうなるほど、ゲーム外から持ってきたカードで『不壊の肉体』を破壊するつもりなのですね。くくっ、ですがそういった除去カードが対象に取れるのはあくまでゲーム内のカードのみ、ゲーム外にて私自身に付与された『不壊の肉体』を破壊するのは不可能です!」


その通り、除去カードで奴を不死たらしめている『不壊の肉体』を破壊するのは不可能。

他の手段としては『条件を満たせばゲームに勝利できる』などのカードもあるが、この手のカードは当然制限が凄まじく強い。

多くの下準備が必要な為、取り出してさっと使えるようなものではなく大抵は専用のデッキが必要となってくる。

例として手札に特定カード五枚揃えるとか、五つの別の種族カードを場に並べる、など……ま、わざわざそれを狙うくらいなら普通のデッキを作った方が勝率が高い場合が多いのだ。

しかし構わず俺はカードを探していく。あれっ、おかしいな。確かこの辺にあったはずだが……


「……ふっ、まぁいいでしょう。納得いくまで探せばよろしい。私を倒す方法があるなら、是非ともその方法を見せて貰おうではありませんか。クックック」


気分よさげに笑うサルタリーを放置し探していると……あった。これこれ。

目当てのカードを掴み、引き出していく。

空間の切れ目、暗闇から伸びるのは一条の光。

眩い銀を無数に放ちながらも、強烈な光を放つそれはまるで夜空に瞬く流星のような……


「え……? こ、この感じはまさか……?」


オルタが思わずといった風に声を漏らす。

取り出したるそのカードに描かれているのは、白い魔女衣装の美女。

美しく靡く金色の髪、スラリとしたプロポーション、それに反比例するような豊かな胸、切れ長の目は神秘的な色を湛えている。

そう、彼女は『星屑の魔女、レジーナ=ベルベット』だ。少し前に手に入れはしたものの、デッキに入れられないことからバインダーに仕舞っていたのである。


「レベル7カードだとぉ!? そんなものを出して一体何が……い、いや確か『星屑の魔女、レジーナ=ベルベット』は特殊召喚可能なモンスターカード! その召喚方法は……」

「その通り。『星屑の魔女、レジーナ=ベルベット』は手札に加えた瞬間、デッキの上から三枚のカードを言い当てることで生贄を必要とせずその場に出しても良いという能力を持っている」


このカードはデッキ操作と併用すれば即座に召喚できるのだ。

既に捜索によりデッキへの積み込みは完成している。カードを上から当てることなど造作もない。


「上から『鏡返し』『氷結呪文』『地の底からの呼び声』、言い当てることに成功したので、『星屑の魔女、レジーナ=ベルベット』を特殊召喚する!」


眩く輝くカードの中から美女、レジーナが顕現する。

イラスト以上に実物は美しい。息を飲む程とはこのことか。

オルタなどは感動で足が小鹿のように震えている。


「お、お……お師匠様ぁーーーっ!」


オルタの声にレジーナはウインクで応える。


「あぁ……やっぱり私を助けてくれたのはお師匠様だったんですね! ありがとうございますっ!」


そういえば閉じ込められていたオルタが謎の力であの分厚いガラスの檻から出て来られたと言ってたっけ。

弟子の危機にレジーナが力を貸したのかもしれない。タイミングよく逃げ出してきたのは、カードを持った俺が近くに来たからか?

しかしカードの中から助けるなんて、次元を超越する力を持つ魔女ならではと言ったところか。


「くっ……だがそれがどうしたというのです? レベル7とはいえパワー3200タフネス3000の貧弱モンスターだ! 我が魔虎龍を倒せるわけがないッ!」

「あぁ、無理だな。だがレジーナには手札を一枚捨てることで発動する三つの能力がある」


一つ目は攻撃能力、対象のモンスター一体をゲームから取り除くというもの。

二つ目はドロー力、好きなカード一枚をデッキから持ってくるというもの。

三つ目は防御能力、対象のプレイヤーを呪文や能力の対象から防ぐもの。

いずれも超強力な能力であり、これによりレジーナは圧倒的な対応力を誇るのだ。


「それは私も知っていますよ。しかし魔虎龍は呪文や能力の対象にならないし、カードを抜いて来ようにももはや君のデッキは空だ。そして私は君を魔法カードで攻撃する気は一切ない! 決闘宣言を仕掛ければいいだけの話なのですからねぇ! 如何なる能力も今この状況では無意味に等しいのです!」

「……おいおい、何を勘違いしてるんだ?」

「は?」


きょとんと目を丸くするサルタリー。

やれやれ、まだ気づいていないのか。

俺がいつ、自分を対象に能力を使うと言った? 何かを対象とする能力は敵味方どっちに使っても良いのだ。


「レジーナの持つ第三の能力、起動」


カードを一枚捨て、能力を起動させる。

同時にサルタリーが持っていた『不壊の肉体』に亀裂が生まれた。


「な……っ!? 一体何をどうして……!?」

「確かにゲーム外にある『不壊の肉体』は対象に取ることはできない。だがプレイヤー自身はどうかな?」


途端、サルタリーの顔色が変わる。

どうやらようやく俺の狙いに気づいたようだな。


「……ハッ!? そ、そうか! 三つ目の能力は自分に使うのではなく私を対象に……!」

「その通り。お前自身を呪文や能力の対象にならなくした。すなわち装備している魔道具カードの対象から外れ、対象を失った『不壊の肉体』は破壊される」


ピシ、ピシピシとカードにヒビが入っていき、そして……割れた。同時に、


「ぐあああああああああっ!?」


ライフがゼロになった際に生まれる衝撃、それを防いでいた『不壊の肉体』が消滅した以上、もはや電撃を防ぐ術はない。

凄まじい電撃音と悲鳴が入り混じることしばし。


「か……は……っ!」


黒煙を口から吐きながら、どさりとサルタリーは倒れ伏す。

完全に気を失ったようだな。やはり簡単に耐えられるようなものではないようだ。それにしても……


「うーん、気持ちいい」


なんという気分の良さだろうか。

勝ちを確信した相手を倒すこの高揚感、やっぱりデュエルは対人に限るなぁ。

満足感を噛み締めながら、俺は大きく伸びをするのだった。

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