第29話VS教授、中々編

「ふ、ふん。随分といい気になっているようですが、動きから見て君も似たようなデッキなのでしょう?」

「……まぁね」


その通り。俺のデッキもまた一枚のキーカードをどうにか通すデッキである。

しかも打ち消し呪文の数は遠く及ばない。


「やはり! 言っておきますが私のデッキには『巨神砲』があと二枚入っている! そして私の手札には打ち消し呪文が大量に入れられているのです。都合よく通せるとは思わないことですねぇ! はっはっは!」


調子を取り戻したのかサルタリーは大笑いしている。


「ともあれ……俺のターン、ドロー!」


引いたカードは……ふむ、ようやく来たか。

手札に加えず、即座に切る。


「呪文カード『当たりか外れか』をキャスト。……打ち消すか?」

「……そんなものに貴重な打ち消し呪文を使えませんね。通します」

「では」


デッキの上から五枚のカードをめくり、それをサルタリーに見せる。

対戦相手にそれを二つに分けさせ、俺がどちらかを手札に加えるというドローカードだ。


「くっ……!」


一瞬、難しい顔をした後にサルタリーはカードを分けた。

左は『魔力消滅』と『当たりか外れか』。

右は『氷結魔術』『鏡返し』『後回しの予言』だ。


「では左の方を手札に加え、更に『当たりか外れか』を使用する。打ち消すか?」

「……スルー」


これが打ち消し呪文の欠点その一。致命的な一撃さえ打ち消せばいいと考えてしまい、それを運んでくるドローカードを通してしまいがちなことだ。

俺のデッキを自分と同じと考えているなら尚更そうだろう。

そうして放置しているうち、俺はデッキを掘り進められるということを知らずにな。

三枚の手札を加えた俺は潤沢となった手札から、更にカードを繰り出す。


「さっき引いた『後回しの予言』を発動。カードを三枚引き、その中から二枚をデッキの底に好きな順番に置く。通すか否か」

「……好きにしなさい」


ではそうさせて貰うとするか。

引いたカードをデッキの底に戻しておく。


「続いて『血の捜索』を発動! こいつは俺の場にモンスターがいない場合のみ使用可能な魔法カードだ。1000のライフを支払い、レベル5のモンスター一体をデッキから抜き出し場に出す!」

「くっ! このカードから感じるプレッシャー……通すのはマズい気がする! 『呪力の蝕み』でカウンター!」


呪文カード『呪力の蝕み』か。打ち消し呪文の効果に加え、使用の際にライフを500支払うことでモンスター一体を除去することが可能である。

と言っても俺の場にモンスターはいない為、ライフは支払わず普通に打ち消すだけで終わらせた。


「ではもう一度『当たりか外れか』を使う。どうする?」

「……流石に打ち消す。『呪力の蝕み』」


ついにドローカードを消さざるを得なくなったか。

品切れは近いな。そう思いながら更なるカードを繰り出す。


「魔法カード『喉から出る手』をキャスト。通るなら支払うライフ200につきカードを一枚引かせて貰うが……?」

「ぐっ……さ、流石にそれは……『呪力の蝕み』を……」

「はい、『魔力消失』」


弱点その二、物量で攻められると対処しきれない。

今まで運悪く引かなかったが、俺のデッキにはキーカードを引く為のドローカードが多く入っている。

数で攻められるとどれかを通さざるを得なくなる。打ち消し呪文というのは物量攻撃にとにかく弱いのだ。


「ライフを1800支払い九枚ドロー。お、来たきた。『地の底からの呼び声』を発動。デッキの底にあるカードがモンスターカードである場合、それを場に出す」


カードから生まれた漆黒の腕が俺のデッキの底へと伸びていく。

これまた使い勝手の難しいカードだが、デッキの底へ送るカードと組み合わせれば高レベルモンスターもいきなり召喚することが可能だ。

まぁプチコンボってところだな。


「いや、プチどころか相当えげつないコンボですよ! バルスさん、デッキ操作をかなり入れてますよね? それ使えば簡単にデッキ底にモンスターを送り込めるじゃないですか!」

「まぁな」


見せただけでも『大慌ての捜索者』『物探しの導師見習い』『魔生物バイオクリーチャー』『後回しの予言』……これらデッキの底に好きなように置くカードは『地の底からの呼び声』とのコンボで使える。


「ていうかデッキってのはそういう風に組むものだぞ」


一枚一枚のカードがどういう働きをするか、よりシナジーを生み出せる組み合わせはないか、膨大なカードプールからこれぞというカードを見つけて

最低四十枚という限られた容量に精査しながら詰め込んでいく……限られたお小遣いで遠足のお菓子を買うのに似ているよな。

そしてさっきの物量攻撃で本当に通したかったのは『後回しの予言』だ。

弱点その三は、相手のデッキの狙いを見極めねばならないといったところだな。

というわけで、予めデッキの底に送っておいたキーカードを『地の底からの呼び声』にて呼び起こす。


「効果により場に出すのは……こいつだ。『魔生物バイオクリーチャー』」

「オオオオオオ……!」


悍ましい声と共に現れるのは巨大な粘菌を思わせる歪なモンスター。

さて、改めてこのカードの効果を説明しよう。

レベル五、パワー1800タフネス2000。このカードが場に出た時、対戦相手から500のライフを吸収する。

加えてデッキからレベル5以下のモンスターカードが出るまでカードをめくり、それを場に出す。残りを好きな順にデッキの底に戻す。……というものだ。


「さて、それではコンボ開始と行こうか。『魔生物バイオクリーチャー』の効果によりプレイヤーのライフを吸収する!」

「……ふん、たかが500程度」


鼻を鳴らすサルタリーに更に続ける。


「そして第二の効果、デッキの上からカードをめくり、レベル5以下のモンスター一体を場に出す。1、2、3……出たカードは『魔生物バイオクリーチャー』! ライフを吸い取り、更に能力を起動する。デッキの上からカードをめくっていく」

「何ぃっ!? ず、随分と運がいいようですね……だが三度は続来ませんよ……!」


狼狽するサルタリーを前に、俺はカードをめくる手を止めカードを見せる。


「更に『魔生物バイオクリーチャー』を場に出し、お前のライフ吸収をする」

「馬鹿なぁっ!? ど、どういう偶然ですか!?」

「偶然ではない。この為に『破滅の魔導師、グレイン』でデッキから低レベルモンスターを全て取り除いたんだよ」


低レベルモンスターはキーカードを引いてくる為、引いた以上用済みなのでグレインで抹消したのだ。

故に、現在このデッキには魔法カードなどを除けばレベル5モンスターしか入ってはいない。


「……くくっ、なるほど。役目を終えたというのはコンボの下準備を終えたという意味でしたか。あながち強がりでもなかったわけですね。……しかし! これを見るがいい!」


サルタリーが手札から見せてきたのは呪文カード『虚空』。追加コストとして手札を二枚捨てることで全てのモンスターをゲームから取り除く、というものだ。

自分の場も一掃されてしまうが的確に使えば効果は抜群、一気に勝負を終わらせられる最強クラスのカードだ。


「如何に高レベルモンスターを召喚しようと、これで消して仕舞えばなんの問題もありませんからねぇ! さぁ好きなだけ並べてくださいな! あなたのデッキにあるモンスター全て、これで虚空の彼方へと消し飛ばしてあげますよ! はーっはっはっはっはぁ!」

「能力を起動、デッキの上からカードをめくる」

「はっ! 無駄だというのがわからないのですか! 何を出そうと無駄無駄無駄……」


言いかけて、サルタリーは口を噤む。

俺がデッキの上からめくって見せたのは、『不定形型の幻影師』。

レベル5、パワー0タフネス0のモンスターカードで、このカードが場に出るに際し、あなたのコントロールするモンスター一体を選ぶ。『不定形型の幻影師』はそのモンスターのコピーとなる。というものだ。


「対象に取るのは『魔生物バイオクリーチャー』、『不定形型の幻影師』は『魔生物バイオクリーチャー』のコピーとなる」

「オオオオオ……!」


呻き声と共にバイオクリーチャーへと変貌していく幻影師。

そして、能力が起動される。


「お前のライフを500吸収した後、再度デッキの上からレベル5以下のモンスターが出るまでめくっていく」

「……ッ!? ま、まさか……!」


ようやく気づいたサルタリーの顔面が蒼白に染まる。

バイオクリーチャーの捜索により、自身とそのコピーを作り出し相手のライフを削り取る。


「『大喰らいの幻惑獣』を場に出す。このカードが場に出る際、場にあるモンスター一体を破壊する。このカードはそのモンスター一体のコピーとして場に出る」


これは敵を対象に取れるコピーモンスターだ。まぁ普通に自分のモンスターを対象にするんだけどな。

場にいるバイオクリーチャー一体を墓地に置き、その代わりとして場に出す。ライフを吸収、そしてまた捜索が発動される。


「き、貴様ぁ……ッ!」

「打ち消し呪文最後の弱点、それは一度場に出たモノに対処する手段がないことだ」


除去のように致命的なモンスターを処理できる訳ではなく、モンスターカードのように幅広い運用ができるわけでもない。

汎用性があるように見えるが、カードアドバンテージを得られない以上使い所は難しい。それが打ち消し呪文なのだ。

尤も、既に弾は尽きているのだろうが。

俺のデッキに入っているのはバイオクリーチャーが三枚、幻影師が三枚、幻影獣が三枚、即ちこの九枚が最終的に場に並び、その効果で4500ライフを吸収……つまり即死させる。


「ぐあああああああああっ」


ライフを削られ苦悶の声を上げるサルタリー。

これぞ倍々バイオコンボ。お茶目な名前とは裏腹に下処理が終わった状態ならたった一枚場に出た瞬間成立してしまうという恐ろしいコンボである。

発売当初は大して見向きもされなかったバイオクリーチャーだが、ある日ネットにデッキレシピが公開されたことでその存在がプレイヤーたちに知れ渡り、カードショップからあっという間に在庫が消滅したのだ。

当初300円だったレアカードがたった一ヶ月で6000円にまで上昇、いち早く情報をゲットした者たちがカードショップを梯子して回るという珍事が起こったのである。

ちなみに俺も手に入れようとしたけど、そもそもショップに出禁にされていたから買うことすらできなかったっけ。いやはや、懐かしくも悲しい記憶だ。

デッキの幅が大きく制限されることから禁止カードにまではされなかったが一枚制限になってしまったが、それでも代用品が使われ新たに作られた倍々バイオコンボはトーナメントで優勝。改めて禁止カードに名を連ねることになったのである。

まぁよく考えたら即死までいかずとも何体もレベル5モンスターが並ぶだけで十分エグいしな。WDGにおいて二枚など少ない枚数で即死させるようなコンボパーツは大抵禁止されてきたが、このカードはたった一枚でそれを為すのだ。そりゃ禁止されるのも当然である。

クソレアと思われたものが一気に頂点に上り詰め、そして禁止される……これもまた新しいエキスパンションが出た時の風物詩ってやつだなぁ。うんうん。


「おっと、しみじみしている場合じゃないな。カードをめくってめくって……と。はい、幻影獣によりライフを吸収、お前のライフはゼロとなる」

「が、は……っ!」


膝から崩れ落ちるサルタリー。そこへ更に決着による凄まじい電撃が彼を襲うのだった。

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