第28話VS教授、中編
「俺のターン、ドロー!」
デッキからカードを引くが……ダメだ。今日はイマイチドロー運がない。俺がアルフォンスならもう勝負終わってたんだけどなぁ。
やっぱり大量のドローでぶっこ抜いてくるデッキの方が俺向きだよな。
今回のデッキはモンスターカードを入れなければいけない分、そこまでドローカード入れられなかったんだよな。
いやまぁ最低限は入っているが、それすら引かないのはどうよ? 待つしかないのは辛いところである。
「クク、顔色が悪いですよ? 次はどうするつもりですか?」
「『物探しの導師見習い』を生贄に捧げ、『破滅の魔導師、グレイン』を召喚。こいつは場に出た時、俺のデッキから好きな数のレベル3以下のモンスターを取り除く。そして取り除いた数につき100、パワータフネスを増強する」
レベル5、パワー1000、タフネス1000のモンスターカードで効果は説明の通り。
デッキからレベル1、2、3のモンスターを全て抜き、切り直す。数は十枚、グレインのパワータフネスは2000となる。
「おやおや、そんなものを入れている割に低レベルモンスターが少なすぎやしませんか? どうせならもっと入れておけばよかったでしょうに。デッキを削ってまで出したレベル5モンスターのパワータフネスたったの2000では割に合わないでしょう?」
「いや、違うな。むしろ多すぎだ」
本来はもっと減ってから使うカードなんだけどな。こんな序盤で出てしまうのは正直運が悪かったと言っていい。
まぁデッキの圧縮は出来たしよしとするか。疑問符を浮かべるサルタリーに構わず、決闘宣言を行おうとしたその時である。
「おおっと、宣言前に呪文カード『強者送還』をキャストします。レベル5のモンスター一体を手札に戻す!」
即座に手札に戻されるグレイン。人に汎用性を説いておいて限定的なカードを、と言いたいところだが、これは意外と使い勝手のいいカードだ。
レベル5モンスターは大抵のプレイヤーが使うので無駄カードになりにくいしな。使いづらそうには見えるが使ってみると強いのである。
「いやはや残念でしたねぇ。折角デッキを削って強化したレベル5モンスターがパァだ! くくっ、それにしてもあれだけ大見得を切っておいてこのザマとは、実は君って意外と大したことないんじゃありませんかぁ? ふふふ、はっはっはーーー!」
両手を広げ、得意げに笑うサルタリー。
よほど嬉しいのか、さっきからしてやったり感が半端ない。
どうやらこいつは人を陥れることに喜びを覚えるタイプのようだな。
「うぅ……何だか苦手なタイプです……」
「最高の褒め言葉ですよ。オルタ君。ふははははははっ!」
ま、あらゆる対人ゲームに言えることだが、こういうのは性格の悪い者ほど強い。
だが、問題はない。グレインは既に役目を果たしている。
「ターンエンドだ」
「いいのですか? そんなあっさりターンを渡してしまっても! 前のターンでは防がれましたが、次は防げる保証はありませんよ。私のターン、ドロー!」
引いたカードを見て、ニヤリと笑う。
「ふふ、だから言わんこっちゃない。引いてしまったではありませんか。このデュエルを終わらせてしまうカードを……!」
先刻引いたカードを見せびらかすように墓地に捨てる。
「『財宝ゴーレム』、このカードは手札から捨てられた際、デッキから好きな魔法カードを一枚手札に加える。抜いてくるのは……これです。『巨神砲』」
魔法カード『巨神砲』、あれは墓地にあるゴーレムカード一枚につき300のダメージを与えるというものだ。
『ゴーレムリサイクルマシーン』を出した辺りでこのカードがあるのは想定していたが、思ったより引くのが早かったな。
「現状私の墓地にあるゴーレムカードは六枚、ギリギリ君を倒すには足りませんが……『財宝ゴーレム』を捨てることで更に手札を引きます」
「ええっ!? ズルいです!」
「ズルくはない。そういう効果だからな」
リサイクルの能力とゴーレムの効果は別、特に表記がない限りは当然二つとも発動する。
「ちょ、どっちの味方なんですかバルスさんてばっ!?」
「別に誰の味方でもないんだけどなぁ……」
デュエリストたるものルールを守って楽しくプレイせねばならないだろう。
まぁ一度魔法カードを抜いてきているのに、更にドロー効果まで発揮しているのがズルいと言いたくなる気持ちもわからんでもない。だがこれがコンボというものだ。
それに『この程度』のコンボ、可愛いものである。
「ドロー! ……ふふ、どうやら勝負はついてしまったようですね。『魔導ゴーレム、マロン』を手札から捨て更にカードを一枚引きます」
「! ま、マズいですよバルスさん! 今ので墓地のゴーレムカードが……」
「そう! 七枚になりました。即ち君を一撃で倒す射程内に入ったわけです。ふふふふふ」
先刻手札に加えた『巨神砲』は墓地のゴーレムにつき300、即ち2100のダメージをプレイヤーに与えることが可能。現在の俺のライフ1900では耐えられない。
「ほう、それにしては随分涼しい顔をしていますね。何か対抗手段があるということなのでしょうか? ……くくっ、ですが甘い甘い! これを見て下さい」
ひらひらと手札から見せてくるのは呪文カード『魔力消滅』。
対象の魔法、呪文カードを打ち消すというものだ。
この手のカードは通称打ち消し呪文と呼ばれており、あらゆるカードの効果を消せることから汎用性が非常に高い。
ま、この手のコンボを通すデッキには当然入っているだろう。そしてわざわざ見せてくる辺り、恐らく二枚目を持っている……
「打ち消しを構えた今、君にこのカードを防ぐ術はない! さぁ喰らいなさい! 『巨神砲』、ギガントキャノン! 奴のライフを削り取るのです!」
カードから生まれた機械の山が砲台へと変形、その砲身にエネルギーが集まり、みるみる内に強力な光が充填していく。
光が爆ぜる。その刹那。
「……『魔力消滅』をキャスト。『巨神砲』の効果を打ち消す」
手札から切るのは虎の子の打ち消し呪文。放たれる寸前だった光を封じ込めかけるが、
「ふふふ、やはり君も持っていましたか。ですがそれも想定通り! 二枚目の『魔力消滅』を発動! 君の『魔力消滅』を打ち消させて貰うッ!」
やれやれ、さっきはわざわざ手札から見せてきたから二枚目を持っているのではとは思ったが、やっぱり持っていたか。
本当に性格が悪い。だが残念ながらこっちにもまだ切り札はあるんだよ。
「『氷結呪文』をキャストする」
「な……ッ!?」
その効果は打ち消し呪文を打ち消すというもの。そしてこのカードは呪文や効果の対象にならない為、決して打ち消されない。
つまり絶対確実な打ち消し呪文対策なのである。
「お前の『魔力消滅』をカウンターする。この呪文は打ち消されない! 消えろ、『巨神砲』」
中に浮かぶ呪文の束が凍結、崩れ落ちていく。俺の放った『魔力消滅』により、今度こそ『巨神砲』は崩れ去った。
「バカな……『氷結呪文』だと? そんな打ち消し合戦にしか使えないものを使うとは……っ! ありえません! そんなもの入れるくらいなら普通は『魔力消滅』を採用するでしょうが!」
「だから、こういう状況を見越して入れてたんだって」
俺のデッキはキーカードが非常に少なく、それを打ち消された時点で詰んでしまう。
故に打ち消し合戦で絶対に負けないように、『氷結呪文』を採用しているのである。
そして限定的な効果を持つカードは汎用カードには決して負けない。
「大体さぁ、それだけ狼狽するってことはまだ打ち消し呪文を持ってたということだろ? やっぱり入れて正解だったってことじゃないか」
「うっ! ぐぅ……ッ!?」
どうやら図星のようだ。彼の性格上、かなりの枚数の打ち消し呪文が入っているんだろうな。
これがメタゲームというやつだ。デュエルの前から勝負は始まっているのである。
「というかお前こそ打ち消し呪文多すぎるだろ。最低でも三枚以上、その様子から行って下手したら六枚以上入ってそうだよな。そんなに入れたら俺よりお前のデッキの方がよっぽど歪だと思うんだけど」
「……っ! い、言いたい放題言ってくれるではありませんか……!」
顔を真っ赤にして憤慨するサルタリーだが、やれやれ、初心者ってよくこういう勘違いをしちゃうんだよな。
打ち消し呪文は万能に見えるが、そうではない。
確かに使い所を間違えなければ強力だが、それ単体では何が出来るわけではないのだ。
一度場に出たものは除去できないし、それだけで勝利できるようなカードではない。さっき俺が使ったような対策カードも多くあるし、一枚のキラーカードに押し切られてしまうことも珍しくはない。受け身でしか使えないという最大の欠点があるのだ。
「それだけ多くの打ち消し呪文を入れているとなると勝つ手段は相当限られてくる。そのデッキ、フィニッシャーは『巨神砲』しか入ってないんじゃないか?」
「~~~ッ!?」
絶句と共に口を噤むサルタリー。どうやら図星だったようだな。
大量のゴーレムをリサイクルして『巨神砲』でトドメを指す。それを通す為に大量の打ち消しを入れると。理には叶っているが、ちと柔軟性に欠けるかな。
歯噛みをするサルタリーを前に、俺は愉悦に歪む顔をカードで隠す。
(ふふ、それにしてもいい顔だ♪)
あぁ、なんて素晴らしい反応をしてくれるんだ。思わず恍惚の笑みを浮かべてしまうじゃあないか。
確実にカウンターする術が欲しくて入れたが、予想以上にいい仕事をしてくれたな。
「バルスさん……キモいです……」
横にいたオルタからツッコミが入れられる。……折角楽しんでいたのに水を差さないでほしいなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます