第27話VS教授、前編

「デュエル!」


言葉と同時にコインを弾く。


「表」

「裏」


コインの行方は……表、サルタリーの勝ちだ。

なんか俺、こっち来てからずっとコイントス負けている気がする。やだ、俺のコイントス弱すぎ?


「ふふ、では私からいかせて貰いましょう。『家政婦型ゴーレム』を召喚します」

「ギギギ、ガガガ……!」


カードから現れたのはメイド姿をしたロボット。ゴーレムだ。

レベル2、パワー700、タフネス600。大したモンスターではないが場に出た時にゴーレムカードを一枚、デッキから手札に抜いてくる効果を持つ。


「『家政婦型ゴーレム』の効果でこの『魔導ゴーレム、コロン』を手札に加えます」


レベル5の上級モンスターか。ゴーレムデッキか。

だがゴーレムはパワータフネスは強めの傾向はあるが、その分レベルを高く設定されているものが多い。

重いカードが多く、上手く回すにはかなりのデッキ調整を必要とする為ファンデッキとしての色が強いが、そんなデッキでまともに戦えるのだろうか。

そんなことを考えていると、サルタリーがくっくっと笑う。


「君は不思議ですね。私に勝つ気でいるどころか、私の心配をしているだなんて……よほど自分の腕に自信があるようだ。怖い怖い」


そんなことは一ミリも思ってなさそうに手札をじっくり確認していく。


「ふぅむ、まぁこれ以上出せるカードもありませんし、ターンをどうぞ」


恭しく手のひらを差し出してくるサルタリー。

まだ何か出すのかと思ったがターンエンドとは、少し不気味だな。


「面白い。何か企んでいるのなら見せて貰おうじゃないか。……ドロー!」


まずは微妙なドローだな。さて、どうしたものかな。

今回の俺のデッキはまたまた即死コンボではあるものの、ややスピードは遅い。

ていうかこいつ相手に機能するかは微妙なんだよな。

とりあえず狙ってみるのは決定にしても、キーカードを引いて来ないことには何も始まらない。


「まずは『大慌ての捜索者』を召喚」


レベル2、パワー600、タフネス600のモンスターカードだ。

このカードは場に出た時、レベル2以下モンスターが出るまでデッキの上から順番にカードを見ていき、そのカードを引いた時は場に出す。めくったカードはデッキの底に好きな順番に置く、という効果を持っている。


「効果発動、デッキから一枚ずつカードをめくっていく。1、2、3、4、5……よし、『物探しの導師見習い』を場に出す」


以前使ったカードだ。レベル1、パワー500、タフネス300。そして場に出た時にデッキからカードを三枚捲り、一枚を手札に加えて残りをデッキの底に好きな順番で置くという効果を持っている。

選ぶカードは……うん、これだな。


「効果終了、さっき捲ったカードは効果によりデッキの下に好きな順番に置く」


一番底に置くのはレベル5モンスターカード『魔生物バイオクリーチャー』。パワー1800、タフネス2000と標準的ステータスに加え、場に出た時に対象のプレイヤーからライフを500吸収するという効果を持つ。加えてデッキからレベル5以下のモンスターカードが出るまでカード引き、それを場に出す。残りを好きな順にデッキの底に戻すという効果を持っている。

さっき出した『大慌ての捜索者』と似たような能力を持っているカードだ。ちなみにこの能力は公式には『捜索』と名付けられている。

WDGにはこのような説明が長い共通能力を持つものが多く存在する為、テキスト省略の為に用語が作られる場合も多い。


「さて、ゴーレムを放置して生贄により大型モンスターを召喚されたら困るしな。『大慌ての捜索者』で『家政婦型ゴーレム』に決闘を申し込む」

「ふむ、仕方ないここは相殺といきましょうか」


二体のモンスターカードが交わると同時に、消滅する。

相手の方がパワーが100上回っていた為、俺のライフが100削られた。

とはいえ現状場には俺のモンスターが一体、誤差レベルだがこちらがやや有利ってところだな。


「ターンエンドだ」

「ふふ、お互いイマイチ盛り上がりに欠ける立ち上がりですね」

「全くだ」


なんて言いながらも俺はちょっと楽しんでいたりする。

それだけ長く楽しめるということだからな。俺としてはこういう探り合いも決して嫌いではないのだ。


「な、なんか二人とも不気味です……」


オルタがドン引きしているのは放置しておくとして……サルタリーは引いたカードを見て微笑を浮かべる。


「すみません。早速いいカードを引いてしまいました。結界カード『ゴーレムリサイクルマシーン』をセット」


あのカードは手札からゴーレムと名の付くカードを捨てることでカードを一枚ドローできるという強力なデッキ圧縮マシーンである。

なるほど、ただゴーレムかき集めただけではなかろうとは思っていなかったが、こういうデッキか。


「そして二枚のゴーレムカードを手札から捨て、二枚ドローします。……おやおや、またもやいいのを引いてきました。『戦闘型ゴーレム壱式』を召喚します」


レベル4、パワー1400、タフネス1500のモンスター。

その能力はこのターン、カードを二枚以上引いていた場合、パワーとタフネスが500増強するというものだ。


「これぞ我がデッキ、ゴーレムリサイクルの力です! 使い道のないカードもリサイクルの仕方によっては本来以上の機能を発揮するのですよ。さぁカードたち、私の為に余すことなくその身を削り、働きなさい! 『戦闘用ゴーレム壱式』で決闘宣言を行います! さて、如何しますか?」

「決闘は……受けない」


場にいるのは何の能力もないタフネス300のモンスターだが、生贄には使えるからな。

大してライフへのダメージが減るわけでもなし、ここは受ける一択だ。


「結構、では……ゴーレム、巨岩拳!」

「ゴォォォォォッ!!」


振り下ろされる拳が俺に激突、大きく吹っ飛ばされる。


「ぐあっ!?」

「バルスさんっ!?」


壁に叩きつけられた俺に駆け寄ってくるオルタ。

抱き起こされるが、少し身体を動かしただけで全身に痛みが走る。

いたた……相変わらずめちゃくちゃ痛いな。


「だ、大丈夫ですか!?」

「あぁ、だがこれも必要な痛みってやつだからな」


俺の愛するチートデッキは基本的にコンボを狙うものが多い。

自然とデッキに入るモンスターは限られるし、相手モンスターからのダイレクトアタックはある程度許容せざるを得ないのだ。

言わば弾ける前にバネが縮むようなもの。そう考えると癖になってくるかもしれない。うーむ、なんだか変態っぽい。なんて現実逃避して痛みを紛らわす。

まぁまだライフは2100も残っている。勝負はここからだ。


「で、ターンは終わりか?」

「いいえ? 『ゴーレムリサイクルマシーン』の効果でカードを捨てます。『燃え滓のゴーレム』! このカードは手札から捨てられた際に対象のモンスターに1000のダメージを与える! 『物探しの導師見習い』に1000ダメージ!」


ニヤリと笑うサルタリー。……こいつ、中々性格悪いな。

わざわざ俺に聞かず、最初にそれを撃てばいいものを。俺が残したことを無駄だと言いたいのだろうが……それはまさに油断というやつだ。

降り注ぐ燃え滓が導師見習いに当たる、その直前。


「呪文カード『鏡返し』をキャスト! モンスターへ与えられた戦闘以外によるダメージを他のモンスターへ二倍にして移し替える。『戦闘用ゴーレム』に2000のダメージを与え、破壊する!」


導師見習いの周囲を覆う光の壁、それは戦闘用ゴーレムへと燃え滓を弾き返す。


「ゴォォォォ……!?」


ボロボロと崩れゆくゴーレム。

こいつはモンスターを防御しながら攻撃を行うという非常に有用性が高いカードだ。

とはいえ制限もキツく、互いにモンスターが一体ずつ場に出ている時にしか使えないのである。

今回の俺のデッキの鍵はモンスターカードだし、除去られても困るから対策していたのだ。


「やはり防御カードが入っていましたか。しかしなんとも限定的なカードを使いますね。このゲームの基本はモンスター戦、その他のダメージソースによる除去は少ない。更に一体一の状況でダメージによる除去にしか対応できないのに、そんなものを使うとは……」

「使い方の限られるものは、場所さえ与えてやれば通常より効果的だからな」


公式大会ではデッキとは別に十枚の予備カードを持ち込み、勝負の前にデッキをビルドすることが許されている。

これはサイドボードというシステムで、相性が悪すぎる……所謂『詰んだ』相手に当たった際に力を発揮するものだ。

限定的な場面でしか使えないからこそ、その効果は強力無比。

窮地に陥ったプレイヤーを救う蜘蛛の糸と言えるだろう。このカードもその一つである。


「ククッ、しかしそのようなカードは大抵誰も使わず、評価は低いもの。決闘者ならあらゆる敵に全てに応じられるべきですからねぇ。そんな限定的な場面でしか使えないものを使っている時点で二流の証ですよ。今のも運よく刺さっただけ、二度目はありません!」

「ふふ、わかってないなぁ」


嘲笑に俺は静かな笑みを返す。


「そういうカードが刺さった時こそが、カードゲームが何より楽しい時なんじゃあないか」


俺の大好きなデッキはそういうピーキーなカードの組み合わせにより成り立っている。

防御手段もまた、限定的ながら強力なものを採用しているだけなのだ。それを見た対戦相手の「まさか」という顔、これこそ対人戦の醍醐味の一つである。


「使われるはずもないカードが出てきた時のお前の顔、すごく良かったぞ。もっと、もっと見せてくれ……!」

「……やれるものならやってみなさい」


そんな俺の言葉に、サルタリーは何故か苦笑いを浮かべるのだった。

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