第22話アルフォンスVSノーキン、後編
「……俺のターン、ドロー!」
気合いと共にカードを引き放つアルフォンス。
元気に見えたがダメージは深刻なようで、足元がフラついている。
「まだだ、まだ終わるわけにはいかねぇ……ここで負けたら、俺はまたバルスの足を引っ張っちまう……毎度足を引っ張っちまうなんてのは親友とは言えねぇだろ! あいつは今、ここで行われている怪しい研究を暴露する為に駆け回ってるはずなんだ。己ではなくアカデミーの、それを取り仕切る生徒会長の恋人ローズの為に! そんなバルスの時間を稼ぐ為にも俺はここで勝たなきゃいけねぇんだよ……ッ!」
何やらブツブツ呟きながら手札をじっと睨みつける。
だが現状を打破出来るカードはないようで苦悶の表情を浮かべ考え込むのみだ。しばしそうした後、
「……結界カード『白亜の城壁』をセット」
アルフォンスの自陣に城壁が迫り上がってくる。
あれは自分のコントロールするモンスターのタフネスを700上昇させるカードだ。
とはいえシルバーレイザーバックのパワー3000を防ぐには全く足りていない。『兵士』系モンスターは様々なコンバットトリックを持つ優秀なものばかりだが、どれもレベルが低い傾向にある。それを補う『結束』なのだが、それも封じられてしまった以上打つ手はあるのだろうか。
「『王国治療兵』を召喚。このカードが場に出た時、墓地から『兵士』カード一枚を手札に戻す。さっき倒された『王国兵士長』を手札に戻すぜ」
治療兵はレベル3、パワー700タフネス1200のモンスターだ。
墓地回収は強い能力だが現状ではどうしようもない感はある。
「ターンエンドだ」
「ふっ、気炎を吐いていたから何かあるのかと思ったが……拍子抜けだな。さて、モンスターを並べてもいいが『逃亡禁止』が出ている以上雑魚モンスターを並べると私のライフが削られる恐れがある。ここはシルバーレイザーバックのみで戦うべきだな。……とはいえただ攻撃するような真似はせんぞ。魔道具カード『猿の群れの雄叫び』をセット! シルバーレイザーバックのパワーとタフネスは500上昇し、加えてこのカードはあらゆる効果の対象にならない!」
シルバーレイザーバックの周りに現れる無数の猿たちが歓声を上げ始める。
これでパワー3500タフネス3000、しかもあらゆる効果の対象にならないから『跳ね返り』のような呪文カードも効かなくなる。
一体をとことん強化する。それがノーキンの戦い方か。
「決闘宣言! 対象にするのは『王国治療兵』だ。何度も復活されると鬱陶しいからな! 喰らうがいい。猿王の拳を!」
銀毛をたなびかせながら、振り下ろされる剛腕。
「ぐあっ!?」
ズドォ! と拳が治療兵を貫く。城壁によりタフネスが1900まで上がっているとはいえ相手のパワーは3500もある。
その差1600がアルフォンスのライフから差し引かれた。残りライフはたったの400だ。
衝撃で倒され、地面に転がるアルフォンス。それでもヨロヨロと立ち上がる。
「ふ、友情パワーだか根性だか知らないが、まだ何かあるなら見せてみるがいい。ターンエンドだ」
既に勝利を確信している顔だ。まぁこの状況は流石にキツい。
とはいえまだ逆転の目はなくもない……はずだ。主人公ならではのトップデッキがあれば或いは……
ここへ来る前に預けておいたあのカードを引いてくれば手札次第では可能性はなくもない気がしないでもない。
引くか、引かぬか。手に汗握り見守る中、アルフォンスは震える手でカードを引く。
「俺のターン……ドロー!」
浮かべるのは暗い表情。引かなかったか。
どうやらあのカードは引かなかったらしい。俺の渡したあのカードに加え、今手札に残った『震撃岩牙』があればワンチャンあるとか思ったんだがな。
「くそ……偉そうに宣ったが残念ながらお前の方が一枚上手だったようだ。とてもじゃないがここから逆転は出来なさそうだ。でもなぁ、俺も一人の決闘者として勝負を投げるようなことはしねぇ! 最後まで足掻かせて貰うぜ! お前のライフを削れるだけ削って終わってやらぁ!」
「その意気やよし。来い、鍛え抜かれた我が肉体で全てを受け止めてくれよう!」
「あぁそうさせて貰うぜ! 喰らいな! 『焦熱炎牙』ぁ!」
魔法カード『焦熱炎牙』は対象プレイヤーに1000ダメージを与えるという直接火力では最強クラスの威力を誇る代わりに、無造作にカードを一枚捨てねばならないというかなり重い制約がある。
アルフォンスは手札を裏にしてノーキンに差し出す。
「ランダムディスカードワン、選んでくれ」
「ではこれで」
選ばれたのは先ほど墓地から手札に戻した『王国兵士長』。
まぁここに来ては大した意味はないカードだ。良くも悪くも。
「しかし相手のライフはあと2000か……ますます惜しい。あれさえ引けていれば勝てたのになぁ」
とはいえ勝負は時の運。いかに主人公補正があるとはいえ、そうそうトップデッキが出来るわけもない。
だが俺はアルフォンスの奮闘を忘れはしない。
俺の力になりたいってあの言葉。友達のいなかった俺にはすごく嬉しかったからな。
「……中々痛かったぞ。しかし私のライフはまだ半分残っている。次は何をしてくれるのかな?」
「残念ながら俺に出来るのはこれくらいだ。最後は親友のくれたカードと心中するぜ。『王国弓騎兵』を生贄に、『王国魔鏡兵』を召喚」
「「あ」」
俺とノーキンの声が重なる。
『王国魔鏡兵』、それこそ俺があげた、現状を打破するカードである。
まさか引いてきていただなんて。しかもランダムディスカードで捨てられなかったなんて。
神引きすぎるだろ。これだから主人公補正ってやつは。全く……
俺のあげた、アルフォンスの引いた『王国魔鏡兵』はレベル5、パワー1300、タフネス1800の防御型モンスターだが、その本領は能力にある。
それは魔法カードによるダメージを相手プレイヤーへ移し替えるというものだ。
つまり、最初に撃とうとした『震撃岩牙』を魔鏡盾兵に撃てば、2000ダメージをそのまま相手に与えられ、勝利出来るのである。
アルフォンスは攻撃系の魔法カードを入れているのだが、このゲームではモンスターへの火力は無駄になりやすい。
そんな時にも有効に使えるよう、これを渡しておいたのだ。俺は使わないしな。
「やれやれ、頑張ったがこれで終わりかよ……ま、俺にしては頑張った方だよな。すまねぇバルス。お前に貰ったカード、活かせそうにねぇよ。」
なのにこいつ、勝てることに気づいてないし!
当然気づいているノーキンもソワソワしている。
あぁぁぁ! 手札をじっくり見ろ! 手札を! あるだろ勝てるカードが!
「……ん、このカードの能力、もしかして……」
そう! やっと気づいたか。
「相手が魔法カードを撃ってくれたら逆転できるんじゃね? ……あぁでも無理か。2000ものライフを削れる魔法カードなんてそうそう持ってるはずねぇし、ノーキンもバカじゃない。そんなことするはずがねぇか」
バカはお前だぁぁぁっ! あるだろ手札に2000ものライフを一気に削れるカードがっ!
絶叫に近い心の叫び。もはや勝敗云々よりもカードゲーマーとしてのもどかしさによるものだった。
将棋などで正着の手が見えているのに、悩んでいる人に対し「そこそこ!」と言いたくなるようなアレである。
「……ん? あれ? もしかしてこれで勝てるんじゃねーの……か?」
そんな俺の気持ちがようやく届いたのか、アルフォンスは恐る恐るという顔で『震撃岩牙』を出した。
同時に、ノーキンは苦笑する。
「ふっ、存外気づかぬかと期待したが、それほど脳筋ではなかったらしい。……いや、最後まで諦めなかったからだな。君の勝ちだ」
「あー、ははははは……そのーなんだ……へっ! 俺一人の力じゃねぇよ。これこそが友情パワーってやつだぜ!」
乾いた笑いを浮かべた後、得意げに答えるアルフォンス。……いや、絶対に違うと思うぞ。完全にドロー力である。
連続トップデッキに加えてランダムディスカードで捨てられないとか……主人公補正強すぎるだろ。
「決めて見せろ。それが勝者の責務というやつだ。案ずるな、我が肉体はあらゆる痛みに耐えるべく鍛えてあるからな」
「そうさせて貰うぜ! 『震撃岩牙』を『王国魔鏡兵』にキャスト! ダメージは跳ね返り相手プレイヤーを焼き尽くす!」
盾を構えた魔鏡兵に打ち出される大地の怒り。それはがきぃぃぃん! と弾くような音と共にノーキンへと降り注ぐ。
「ぐっ!? ……うおおおおおおおおっ!」
そして、ずどぉぉぉぉぉん! と激震と共にノーキンの服が破れ、顕になった裸体に無数の衝撃波が走った。
膝を降り、そのままどさりと倒れ伏す。アルフォンスの勝利だ。
……やれやれ、ようやく決着か。なんというかどっと疲れたぞ。
俺はため息を吐き、床に身体を投げ出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます