第21話アルフォンスVSノーキン、中々編

「俺のターン、ドロー!」


デッキから抜いたカードを一瞥し、ニヤリと笑う。


「さぁどんどん出していくぜ! 『王国兵士長』召喚! こいつの能力で手札の自分よりレベルが低い『兵士』カード一体を場に出す。『王国弓騎兵』を召喚だ! 弓騎兵の能力でプレイヤーに500ダメージ!」

「ぐぅ……!」


これでノーキンのライフは3000。塵も積もればなんとやら、か?

ちなみに『王国兵士長』はパワー1000タフネス1000のレベル4モンスター。レベルの割にステータスが低めなのは場に出た時の能力が破格だからである。

アルフォンスの兵士を集めたデッキは種族デッキの中でも展開力とコンバットトリックに優れている。

とはいえ相手のデッキは巨大モンスターで勝負するタイプ、相性はあまり良くないから速攻で決めるべきだぞ。


「更に『兵士』カードの特殊能力、『結束』を発動させるぜ! 『王国兵士長』と『王国弓騎兵』で決闘宣言!」


兵士カードはそれぞれ『結束』を持っており、チームを組むことで一体のモンスターとして扱うことができる。

即ち、『王国兵士長』と『王国弓騎兵』のパワー、タフネスが足されてパワー2000、タフネス1700のモンスターとして扱うことが可能ということだ。


「加えて結界カード『逃走禁止』を展開! お前は決闘宣言を必ず受けねばならない! 二体で『樹林防壁』に決闘を宣言するぜ!」


その名の通り、決闘を強要するカードだ。

相手のレベル緩和モンスターなど、厄介な能力を持つモンスターを倒すのに非常に有効である。


「くっ……受けよう」

「おりゃあ! 剣戟乱雨!」


剣が、矢が降り注ぎ、樹林はズタズタに刻まれ消滅する。

これで相手の高レベルモンスターは封じた。ゴリラも出ては来れないだろう。

流れに乗った見事なターンだったな。やるじゃないかアルフォンス。流石は主人公、ピンチをチャンスに変える神ドローだ。


「へっ、どうよ。これが友情パワーってやつだぜ。そしてターンエンドだ」


見事な連携だ。相手の場はゴリラを倒し、場に二体のモンスターを残すとは大したものである。

圧倒的劣勢に立たされながらも、ノーキンは静かに言う。


「……見事だ。君の名を聞かせてくれないか」

「アルフォンス=ベニーニ」

「なるほど。大したものだよアルフォンス君、先刻の非礼を詫びよう。許してくれ」


突然の変わりようにアルフォンスは顔を顰める。


「何だぁいきなり? 気味が悪ぃな……」

「そう不気味がるな。素直な感想だよ。……君は強い。そして友人のことも悪く言ってすまなかった。エリート意識から君たちを見下していたのは事実だ。間違いは即座に改める。それこそが最も効率的だからな」

「なんだよ。随分素直になったじゃねぇか」

「非効率な行為が嫌いなだけだ。知識も筋肉も鍛えるには効率を極めるしかないものでね。しかし私を応援してくれている友たちの為に負けるわけにはいかない。ここからは本気で行かせて貰おうか」


心配そうな研究者たちにウインクを返し、向き直る。

ようやく真意を悟ったアルフォンスは快活な笑みを浮かべた。


「へっ、最初からそうすりゃいいのさ! 負けてからじゃつまらねー言い訳もできねーからなぁ!」

「その必要はない。何故なら私が本気を出した以上、君はここで負けるからだ。私のターン、ドロー!」


ノーキンのやつ、やたら強気だな。

側から見ていると相当追い込まれているように見えるが、何か手が残っているのだろうか。

引いたカードを手札に仕舞い、解き放つのは……


「魔道具カード『死体操作機』! 墓地にある『樹林の防壁』に取り付けることで強制復活させる! ただしそれ故に大幅弱体化するがな」


繰り出されたムカデとミミズを合わせたような機械が『樹林の防壁』に取り付き、潜り込み、強制的に動かしていく。

ボロボロの身体を蘇らせることで元とは変わり果てた姿で場に戻った。


「ォォォォォォ……!」

「げっ! せっかく倒したのに!」


魔道具カード『死体操作機』は墓地にあるモンスターカードを対象とし、タフネスを1500マイナスさせて場に戻す効果を持つ。

タフネスが0となったモンスターは復活させられないというリスクがあるので雑魚モンスターには使えないが、能力だけは問題なく使用可能だ。

そしてその用途として最もありふれたものが、生贄である。


「『樹林の防壁』は本来の能力に合わせ、生贄に捧げることでレベル6モンスターまで召喚可能となる! いでよ『猿王シルバーレイザーバック』!」

「ウオオオオオオオッ!」


咆哮と共にカードから現れるのはドラミングを行う銀毛のゴリラ。

全身を輝く銀の毛に覆われたその様相は神々しさすら感じられる。

レベル6、パワー3000、タフネス2500の超大型モンスターで、しかもこいつはアルフォンスにとってかなり厄介な能力を持っているのだ。


「このカードが場にある限り敵プレイヤーのコントロールするモンスターの持つ『結束』は無効化される! 群れの長は孤高にして最強たる存在! それを打ち倒す者は同じく一人でなければならないッ!」

「ゲェッ! マジか!」


まさに死刑宣告に等しい。後ずさるアルフォンスに容赦なく拳が振りかぶられる。


「そしてシルバーレイザーバックで『王国兵士長』に決闘宣言を行う! アルフォンス、君が先程展開した『逃亡禁止』があるから拒否はできんぞ」

「ぐっ……!」


アルフォンスが出した『逃亡禁止』は両プレイヤーに適応される。

まさか『結束』を封印されたことで仇になるとは。やるなノーキン。


「喰らうがいい。ビックバン・クラッシャー!」


振り下ろされた拳が兵士長を捉え、一撃の元に粉砕する。

勢いは衰えずアルフォンスへと届いた。

ドゴォォォォォォン! と轟音が鳴り響く。


「ぐはぁぁぁぁっ!?」


絶叫を上げながら吹っ飛び、壁に激突するアルフォンス。そのライフは一気に2000まで減らされた。

うわっ、これは痛いぞ。デュエルは一度に受けるダメージが大きい程、フィードバックされる痛みは増す。

俺も2000以上も喰らった時は気を失うかと思ったくらいだしな。大丈夫だろうか。

倒れて動けないアルフォンスを見て、うおおおおおおお! と研究者たちから大歓声が上がる。


「ふっ、これが群れをまとめるリーダーの力だ。先刻君は友情パワーとか言っていたな。だが非力な者たちの結束など無意味。鍛え上げた最強の個こそが仲間を率いるのに必要なのだよ。君の仲間を思う気持ち自体は素晴らしいが、弱く、愚かな者たちには何も出来はしないのだ。理解したかな?」

「俺は……弱い……」

「そうだ。君程度では友の力になることなど不可能。諦めて縛に就くのだな」


一歩、前に歩み寄る。追い詰めるように。

伏していたアルフォンスはしかし、勢いよく立ち上がる。


「うおおおおおおおおおおおおおっ!」


咆哮、そして痛みなどないと言わんばかりに仁王立ちになる。

その様相にその場の全員が息を呑んだ。


「しゃらくせぇぜッ! 親友の力になりてぇことに理屈なんかいらねぇ! 弱い? 愚か? だからなんだってんだ! 俺はバルスの力になる為にここまで来たんだよ! テメェらが何を言おうが知ったこっちゃねぇ!」

「なんと……あの一撃を受け、まだそんな元気があるというのか……信じられん……!」

「あったり前よ! 庶民の雑草根性を舐めんじゃねぇ! 大体テメェ、まだ勝ってもねぇのに偉そうにほざくじゃねぇかよ? そういう勝ち誇ったセリフはせめて俺を倒してから言うんだな! 俺の、俺たちの友情パワーを舐めてたら痛い目に遭うことを教えてやるぜ!」


目を丸くするノーキンだったが、呆れたように苦笑する。


「……ふっ、その通りだ。私の言葉は勝利で以て振り払うといい。出来るものならな」

「あぁそうさせて貰おうか! 言っておくが俺は追い詰められてからが本番だからよ。覚悟するんだな!」

「……よかろう。見せてもらおう。君の本領、そして友情パワーとやらをね」

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