第20話アルフォンスVSノーキン、中編

「思いっきり啖呵を切ったはいいが……とはいえ手があるわけじゃねぇんだよなぁ……」


手札を睨みながらむむむと唸るアルフォンス。

相手の場にはタフネス2000を誇る『樹林の防壁』、更に魔法カードを無効化する『神秘の防護円』まで張られている。

こちらにモンスターがいればまだしも、一体もいない状況では生贄召喚で高レベルモンスターを出すのも無理だぞ。どうするアルフォンス。


「考えろ。考えろ……バルスならどうする? さっきみたいなミスは犯せねぇし……くっ、頭がフットーしてきやがったぜ」


何やらブツブツ呟きながら考え込むことしばし、アルフォンスは覚悟を決めたように手札からカードを出す。


「……俺はこいつを召喚するぜ。『王国弓騎兵』!」


カードから現れるのは弓を構えた兵士。

レベル3、パワー1000、タフネス700、こいつは場に出た時に敵プレイヤーにダメージを与える効果を持っている。


「放て連撃弓! プレイヤーに500ダメージだ!」

「ぐっ……!」


弓騎兵の放った矢がノーキンを貫き、ダメージを与える。

とはいえたったの500、今の状況でははっきり言って大した意味はない。


「ふっ、蚊に刺された程度のダメージだな。で? そこからどうするね?」

「……これ以上できることはねぇよ。ターンエンドだ」


どうやら打つ手はないようで、アルフォンスは顔を伏せて相手にターンを渡す。

それを見てノーキンは吹き出した。


「ぶはっはっはァ! 打つ手なしというわけか! 案ずるな、効率を重視する私には対戦相手をいたぶって喜ぶような趣味はないからな! 圧倒的パワーですぐ楽にしてやるから安心するがいいさ! いでよ『森の賢人マッスルゴリラ』!」


カードから現れたのは黒毛を逆立てたゴリラ。

筋骨隆々のその巨体は弓騎兵の数倍はあるだろうか。


「こいつはパワー2400タフネス2100の大型モンスターだ! 本来はレベル5モンスターなので生贄が必要だが『樹林の防壁』の効果でノーコスト召喚が可能となる!」


パワー2400はレベル5としても破格の数値だ。特殊能力こそないが、ステータスは最強クラスである。

なるほど。大型モンスターを高速で並べる脳筋デッキというやつか。シンプルゆえに対処は困難だ。


「『森の賢人マッスルゴリラ』で『王国弓騎兵』に決闘宣言! さぁどうする!?」

「……受けるぜ」


目を伏せたままアルフォンスは答える。

2400の攻撃を本体で受けたらライフは半分以下だ。決闘を受ければ1700までダメージを減らせるが……


「失策だな。ここは敢えて本体で受けるべきだぞ? モンスターが場に一体残っていれば次のターンで高レベルモンスターを呼べたかもしれないのにな。まぁ貴様程度のプレイング技術では気づかんのも無理はないか。加えて言えば、決闘中に使えるカードの存在も頭に入っておらんのだろうな。俺が何かカードを使ったらどうなるかな?」

「あ! そうか! ……くそぉ……このままじゃヤバいぜ……パワーアップカードを使われたら終わっちまうっ!」

「ふっ、後悔しても無駄だ。何故ならお前はここで終わるのだからな!」


頭を抱えるアルフォンスを見下ろし、勝ち誇るノーキンが手札からカードを重ねる。


「トドメだ! 呪文カード『高揚のドラミング』! 決闘中の『類人猿』カード一体のパワーを二倍にする! 『森の賢人マッスルゴリラ』のパワーが4800にアップ!」


ウホウホと吠え声を上げながら胸を叩くゴリラ。

呪文カード『高揚のドラミング』は決闘中のみ使用可能、更に類人猿カードにしか使えないというキツい縛りはあるが、発動してしまえばパワー二倍という破格の能力。

決まればどんな敵でも一撃で葬り去れるのだ。

そして決闘によりモンスターに与えられたダメージがタフネス値を超えた場合、超過分を相手プレイヤーに与えることが可能。

パワーアップしたゴリラのパワーは4800、弓騎兵のタフネス700で受けた場合、アルフォンスのライフに4100ダメージが直撃する。即ち即死だ。


「くはははは! 決闘を受けなければもう1ターンは生きていられたのになぁ! ま、1ターンも2ターンも大差ないか!? さぁ行け『森の賢人マッスルゴリラ』、ジーニアス・ナックル!」


繰り出されるゴリラの拳が弓騎兵の眼前に迫ったその時、アルフォンスはニヤリと笑った。


「……かかりやがったな!? 呪文カード『跳ね返り』発動! 決闘中のモンスターを互いの手札に戻すぜ!」


発動と同時に二体はゴム鞠のように大きく弾け飛んだ。

そのままモンスターはカードに変わり、お互いの手札に戻ってしまう。


「な、なにぃぃぃぃぃぃっ!?」


驚愕するノーキンを見てアルフォンスは得意げに笑う。


「へへへーん、俺はただ決闘ダメージを無効化するつもりで使っていたが、無駄にカードを使っちまったなぁー!?」

「ば、バカな……こんな脳筋男にしてやられただと……!」


なるほど。戦闘時に『跳ね返り』を使うことで戦闘ダメージを与え合う前に手札に戻したのか。

いつでも使える呪文カードは後から効果が解決される為、後出しが圧倒的に有利。今回の場合、『跳ね返り』がまず発動してモンスターが手札に戻る。その後『高揚のドラミング』が発動するわけだが、既に対象となるモンスターは手札に消えているので効果は立ち消えとなるのだ。

しかも弓騎兵は手札からもう一度出すことでプレイヤーにダメージを与える効果を持っている。

上手くカードを使ったじゃないか。やるなアルフォンス。


「俺の演技に騙されちまったのか? いやー名演技すぎたみてぇだな。今度演劇部にでも入ってみるかぁ? オスカー賞確実とかな! だっはっはー!」


……ちょっと調子乗りすぎだぞ。まだ勝負は終わってないんだからな。


「さーて、反撃開始と行くぜ!」


とはいえ完全に流れを掴んだようだ。

アルフォンスはノリノリでターンを開始するのだった。

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