第19話アルフォンスVSノーキン、前編

「よっしゃあ! コイントスは俺の勝ちだ! 先攻で行かせてもらうぜっ!」


手札から勢いよく引き抜き、叩きつけたカードから現れたのは槍を構えた兵士『王国槍騎兵』だ。

レベル3モンスターでパワー700、タフネス800と標準的なステータスを持つカードである。


「更に魔道具カード『輝く穂先の槍』をセット。こいつはテキストに『槍』の文字が書かれている場合にのみ装備出来るカードで、パワーとタフネスを1000ずつ増やせる。『王国槍騎兵』パワーアップ!」


まずはモンスターを魔道具で強化するか。

割とスタンダードな戦い方ではあるが……正直そのやり方はあまり良いプレイングとは言えないな。


「これ以上やることはねぇ……かな。てなわけでターンエンドだぜ!」

「ふっ、素人が」


アルフォンスの失敗にノーキンもすぐ気づいたようだ。

即座に手札からカードを解き放つ。


「魔法カード『奈落への生贄』! 対象のプレイヤーはモンスターを一枚生贄に捧げなければならない!」


ふむ、いい除去を使っているな。『奈落への生贄』は生贄に捧げるという効果から、どんなモンスターでも確実に倒せる一枚だ。

欠点としては複数体のモンスターが場に出ているときは対象を選べないことだが、相手がモンスターを一体しか出していなければ何の問題もない。


「げっ! せっかく強化したのに……!」


ショックを受けているがこれは明らかにアルフォンスのミスである。

魔道具など強化系のカードは必要時に行うのがセオリー。

何故なら今のように強化したところを倒され、何の意味もなくカード一枚無駄に使ってしまうからである。

限りある手札は無駄なく使わねばならないのだ。


「あれでは倒してくれと言っているようなものだ。どうせなら1ターン待ち、付けてから攻撃すべきだった。少し考えればわかると思うがな?」

「うぐっ……た、確かに……!」


口ごもるアルフォンスにノーキンが更に仕掛ける。


「お前に効率的カードの使い方というものを教えてやろう! いでよ『樹木の防壁』!」


カードから出現するのは樹木が絡み合って出来た壁だ。

レベル3、パワー0、タフネス2000。壁モンスターはその特性としてパワーが0だが、高い防御力でプレイヤーを守ることが可能なのである。


「『樹木の防壁』は場に出しているだけで、モンスターの召喚コストを1下げることが可能! 即ちレベル5モンスターはレベル4にとして召喚できる! 強きモンスターはしっかりした土台の上にのみ宿る。そう、上半身を鍛えるには下半身も鍛えねばならないのだよ!」


謎の理屈はともかくとして……あれはレベル緩和モンスターってやつだな。

しかも重ねれば効果は更に増え、三体並べればレベル7モンスターがノーコストで出せるようになる。そうなったらもうゲームにならない。

迅速に処理しなければ、終わってしまうぞ。


「そして結界カード『神秘の防護円』を展開! 俺のコントロールするモンスターはあらゆる魔法カードの影響を受けない! 病をしない健康な肉体こそ、最も大事なのである!」

「へっ、馬鹿め!」


ノーキンの行動にアルフォンスが割って入る。


「この脳筋野郎! 強化カードは攻撃時に使えってのはお前が教えてくれたことだ! 『神秘の防護円』にレスポンス! 『震撃岩牙』を発動させる! このカードはモンスター一体に2000ダメージを与えるぜ!」


得意げにカードを発動させようとするアルフォンスだが……


「ふっ、やはりど素人か……」

「何ぃ!? 何がおかしいってんだ!?」

「見るがいい。貴様のカードを」

「俺のカードが何か……って、アレェ!? 効果が発動してねぇっ!?」


本来なら大地が捲れ上がり地上モンスターに大ダメージを与える『震撃岩牙』だが、『樹木の防壁』はピンピンしている。

そう、アルフォンスが先ほど使用した『震撃岩牙』は魔法カード。自分のターンにしか使えないのだ。

相手のカードに対応するなど、いつでも使えるのは呪文カードのみである。

焦って間違えてしまったのだろう。は、恥ずかしい……


「間抜けめが。脳筋はお前のようだな。少しは冷静さと思慮深さを鍛えたまえよ。私のようにね」


ノーキンの言葉と同時に周囲から爆笑の渦が湧き上がる。

一本橋の向こうで待機していた研究者たちがわいわいと声をあげているようだ。


「ぐ、ぐぐぅ……!」

「私のターンは終了だ。……ふふっ、しかし君たちのような雑魚をラボに招くとは、教授も何を考えているのやら」

「何ぃ……?」

「我々エリートと君たち一般生徒はあまりにもレベルが違いすぎる。選ばれし存在である私たちは高価な研究機材を与えられ、素晴らしい設備の中、最高の仲間たちと学園生活を満喫している。もちろんデュエルもね。その差が出てしまうのは当然だ。故に雑魚である君たちから学ぶようなことなどありはしない。現に見ろ、折角の招待を無視され、こんなところまで入られているではないか。まるで泥棒ではないか? 君もそう思わんかね?」

「……くっ」


何も言葉を返せないアルフォンス。

俺のせいでなんかすまん。だって面白そうだったんだから仕方ないだろう。

そしてそれは彼ら的にも面白くはなかったようだ。自分たちをエリートだと認識しているが故に、教授とやらが一般生徒である俺たちを特別扱いしていることが気に入らないんだろうな。だからここまで煽ってくる、と。


「碌な施設も使えず、まともな学習環境もないのだろう? それではルールすら分からなくても無理はないさ。案ずるな。」


うんうんと頷く研究員たち。

というかこの人たち、さっきからずっといるが……暇なのか?


「ま、捕えるのに手間が掛からずに済むのは助かるがな。さて、急ごうか。さっさと君を倒してもう一人も捕まえねばならんのでね。……ま、どうせすぐに終わるだろうがな。もう一人も君と同じで雑魚だろうしねぇ! はっはっはっはっは!」

「……待てよ」


「確かに俺は転入してきたばかりで学園のことはわからねぇし、デュエルだって大して強くはねぇさ。だが親友であるバルスのことを悪く言うのは許さねぇっ!」

「親友ぅ? お前を見捨てて逃げ回っている男のことを庇うつもりか? 底抜けの阿呆だなお前は」

「バルスはそんなことしねぇよ。あいつは友達思いで彼女思いで、しかも見知らぬ婆さんを助けるような熱い男だ。特にデュエルの腕は半端じゃねぇ。お前なんかじゃ絶対に勝てやしねぇんだよ! この脳筋野郎が!」


まっすぐにノーキンを見据え、声を張るアルフォンス。

うっ、なんていい奴なんだ。ちょっと心が痛むぞ。


「ほう、それは楽しみだ。さっさと君を倒して捕獲に向かうとしようじゃないか」

「へっ、そいつは無理な相談だぜ。なんせあんたは俺が倒すんだからよ!」

「……面白い」


くっくっと笑うノーキン、アルフォンスは己を奮い立たせるように睨み返すのだった。

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