第18話二手に分かれる、そして

薄暗い中を走る。

元来た方向からは逆、奥へ奥へと進んでいく。

と、別れ道に着いた。


「チッ、外から見た時点で広いとは思ったが、迷路みてぇだな全くよ」


舌打ちをするアルフォンス。確かに広すぎる気がするな。

恐らくだが地下とかもあるのだろう。一人で探索するには広すぎるし、彼を連れて来てよかったかもしれない。


「アルフォンス、ここからは二手に分かれよう」

「うえっ!? ま、マジで言ってんのか……?」

「あぁ、これだけ広いと見て回るのに時間が掛かりそうだしな。それにどちらかが見つかってももう片方が無事なら助け出すことも出来る」

「た、確かにその通りだがよ……」


たじろぐアルフォンスの肩に手を載せ、諭すように言う。


「俺はお前のことを信じてるから」

「バルス……わかったぜ! そういうことなら任されてやらぁ!」


どんと胸を叩いて応える。……単純な奴。だが俺としては助かるからいいけどな。


「とはいえ何が起こるかわからないし、何かあったらこれで連絡するってことで」


アルフォンスに渡すのは魔道具カード『音繋ぎの連絡器』。受話器のような見た目の道具だ。

コモンカードで効果は生贄に捧げることでモンスター一体を手札に戻すというもので、具現化して使えば連絡を取り合うのに使うことが可能である。

俺が具現化したカードは他人でも使えるみたいだし、大丈夫だろ。


「あとこれらのカードも持っていくといい。何かに使えると思う」

「何から何まですまねぇな。ありがたく受け取っとくぜ」


ついでに有用そうなカードを渡しておく。アルフォンスは大雑把な性格だし、見つかる可能性も高そうだからな。


「じゃ、頼んだぞ」

「おう! バルスも気をつけろよ!」


親指を立てて俺とは反対側の道を走り行くアルフォンス。

よし、これで俺はフリーだ。自由、なんと心地よい気分なのだろうか。ヒャッホウ。

小躍りしたいのを我慢しながら、俺は小走りで奥へ駆け出すのだった。


「……ない」


が、新たな発見はなし。

ラボの中は迷路のように曲がりくねっており、そもそも通路ばかりだった。

しかも迷い迷って辿り着いたのはがらんとした倉庫らしき場所。当然俺の望む面白そうなものは何一つない。

それどころか中にいるはずの研究員たちとも出会わないとか……不運すぎる。

俺ってゲームとかでもよく迷うからなぁ。歩き疲れてへたり込む。


「クルゥ……」

「あぁ、大丈夫だ。疲れてないよ」


心配そうに俺を見てくるグリフォンの頭を撫でてやる。

とりあえず一息ついておくか。


「そういえばアルフォンスは何か面白いもの見つけてないだろうか」


連絡がないのは無事な証拠かもしれないが、調べるのに夢中になっている可能性もある。

休んでいる間に向こうの様子を見てみるとしよう。


「えーと確かこの辺に……あったあった!」


取り出すのは眼鏡。これは魔道具カード『遠見の眼鏡』から出して残ったままだったやつである。

こんなこともあろうかと予めアルフォンスをマーキングしており、その動向がわかるようになっているのだ。

視点も変更できるし、音声まで入るという優れものである。


「よしよし、映ったぞ。……む、隠れているのか?」


見える視界から察するに、どうやらアルフォンスは身を屈めて物陰に潜んでいるようである。

視線の先には様々な実験器具と、その周りに屯する研究員たちの姿が見える。

なんて羨ましい状況だ。そういう時こそ連絡してくれなきゃ困るんだけどなぁ。

悔しがっているとアルフォンスの前に人影が現れる。


「貴様、何者だ!?」


どうやらここで働いている研究者のようだ。

彼の声に反応し、どんどん人が集まってくる。


「おいっ! 侵入者だぞ!」

「全員集まれ!」

「逃げるぞ! 捕まえろ!」


まずい、このままでは捕まってしまう。


「くそっ! 見つかっちまったか! こういう時はバルスに貰った……『霧隠れ』を使うぜ!」


ぼん! と周囲に濃霧が立ち込めていく。

俺が渡したカードを使って対処したか

。意外と冷静なようで安心する。これで上手く隠れてくれれば……


「うおおおおおおおおおっ! どけどけどけどけぇぇぇっ!」


大声で怒鳴りながらドタドタ駆け回るアルフォンス。

おいおい声がデカいぞ。後ろから追っ手が大量についてきてるじゃないか。

やはり脳筋、ダメかもしれない……いや待てよ? この感じは……


「へっ」


ニヤリと笑って踵を返す。向かい合う先頭の研究員に向け、カードをかざす。


「かかったなお前ら! 結界カード『一本吊り橋』発動!」


こいつは敵モンスターは1ターンに一度しか攻撃が出来なくなるというカードだ。

リアルで使えば細い一本道が現れ、大人数の優位をなくすという効果が得られるというわけだ。

俺が渡してないカードだ。すごいぞアルフォンス。意外と機転が利くじゃないか。見直したぞ。


「『一本吊り橋』はレアリティSRのまぁまぁレアカードだ。使い捨てるのはキチィけど、これも親友であるバルスの為だ! ここで研究員たちを全員ぶっ倒して、あいつに楽させてやらなきゃな! さーて来やがれ野郎ども! 一対一なら負けやしねぇぜ!」

「くっ……!」


だが研究者たちは誰一人進もうとしない。どうやらびびっているようだ。

細い吊り橋だからなぁ。渡りたくない気持ちはわかる。


「へっ、拍子抜けだぜ! 所詮は研究者、へっぴり腰な奴の多いことよ。これでしばらく時間を稼げそうだな」


安堵の笑みを浮かべるアルフォンスだが、


「ぬぅん!」


突如、野太い声が辺りに響く。

同時に風切り音と共に何かが飛んできた。

そして、ずずぅぅぅん! と床が大きく揺れる。

ゆっくり立ち上がってくるのは白衣を纏った眼鏡の男。

が、そのアイコンとは真逆に背は高く、筋骨隆々。そこそこ背が高いアルフォンスが小さく見えるほどである。


「デケェ……っ!」

「ふん、偏見だな。研究員であれば皆が碌に鍛えてないとでも思ったか?」


ぼきぼきと拳を鳴らしながら歩み寄り、威圧感たっぷりに言う。

跳んだって……10メートル以上はあるぞ。いや、よく見れば天井がギシギシいっている。

まさか天井に這うダクトホースを掴んで移動してきたっていうのか? 木々を跳び移る猿のように……!

天井まで飛ぶ跳躍力、巨体を支える握力、これだけの距離を渡り切る体力……まさにフィジカルモンスターってやつか。


「私の名はノーキン、研究テーマは『肉体強化』だ。ってことで研究員でありながら警備員も兼ねている。貴様のような侵入者をとっ捕まえる為にな」


それただの筋トレじゃないのか。でも脅威であることに変わりはない。あんなのに捕まったらどうしようもないぞ。

だがアルフォンスも負けてはいない。一歩も引かず、ノーキンを睨み上げながら口元に笑みを浮かべている


「へっ、やれるもんならやってみやがれってんだ!」

「……面白い」


一触即発、睨み合っていた二人は申し合わせたように互いにデッキを取り出した。


「デュエル!」


そして始まるカードバトル。

殴り合いでも始めるのかとヒヤヒヤしたが、やはりお互い決闘者。決着はデュエルで着けるのが作法ってことか。

ま、大勢で囲めるならともかく、一対一の状況を作り出せるならその方がいい。

それにあんな狭い足場で殴り合いなんかしたら、落ちてしまうだろうしな。


「よし、ここは一つ観戦と行くか」


俺自身がデュエルするのもいいが、たまには他人のを見るのも刺激があっていいものだ。

それにいつかアルフォンスとは戦うかもしれないし、負けない為にはどんなデッキを使うかシミュレーションしておいた方がいいだろう。

……というのは建前で、単純に他人のデュエルを見てみたいだけだからな。俺は前世でショップを出禁にされていた時は他人のデュエルを見て自分がやっている気持ちになったものである。……我ながら飢えすぎてなんて可哀想なんだ。泣ける。


ともあれ、そうと決まれば視点を調整だ。

二人の手札が見えたらつまんないし、より迫力が出る構図はこの辺だな……うん、これでよし。

調整が終わると同時に、アルフォンスとノーキン、二人のデュエルが始まった。

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