第17話研究所でやることは一つ
「へぇ、ここが研究室か。結構本格的な感じだな」
というわけで研究所に辿り着く。
中にはでっかいフラスコやよくわからない装置、大量の液体が入ったガラス瓶に浮かぶ謎の肉塊……とにかく奇怪な者が大量に置かれている。
しかも中は薄暗く、足元は大量のコードが伸びていて気をつけねば転けてしまいそうだ。
サルタリーは慣れているようで、ひょいひょいと進んでいく。
「な、なんだよこの不気味な奴らは……」
「ここでは召喚モンスターの研究をしています。現在はカードを介して異界のモンスターを召喚していますが、どうにかそれ以外の方法がないか考えておりまして……見てください。魔力を込めた細胞をこれらの機械で培養することで、術者に縛られぬ新しいモンスターを作れないかと日々試行錯誤をしているのですよ。この子はアルファ、こっちはベータ、そしてガンマ……ふふ、どの子もいい色艶をしているでしょう?」
「うげ……マジか……」
嬉しそうにフラスコを撫でるサルタリー。
ドン引きしているアルフォンスに構わず言葉を続ける。
「ここにいる『生命の欠片』たちはそうして生み出されたものなのです。あなたのグリフォンがその参考になるかと思いまして、是非お話を伺いたくて招待したというわけです」
「新たな生命を生み出す研究ってわけか」
「正確には擬似生命体ですね。有機物に見えるかもしれませんがこれらはナノマシンとバイオチップの集合体により、肉のようなものを作り出しているのです。まぁ結局培養せねばならず、機械のように安定はしないのですが」
「細かいことはどうでもいいんだよ! ……おいバルス、こいつら怪しすぎるぜ。何考えてっかわからねぇから気ぃつけろよな!」
俺の背に張り付きながら耳打ちをしてくるアルフォンス。
そういえば原作でも独立院関係の人たちは皆、多少マッドサイエンティスト的なところがあったっけ。
研究者なんてそんなもんかとあまり気に留めなかったが、建物の中に置かれた様々な道具を見るとアルフォンスが心配する気持ちも分からんでもない。
ま、俺的にはむしろ好奇心を唆られるくらいなんだけどな。
「それにいざとなればお前もいるしな」
「クルゥ!」
頷くグリフォン。こいつのパワー、タフネスは『ミニマライズ』の効果で下がっているが、それでもそこらのモンスターよりも遥かに強い。
ボディーガード代わりにはなるはずだし、そこまで心配することはないだろう。
「とは言ってもよぉ……」
「やれやれ、失礼ですねぇ。というかそもそも君のことは呼んでないのですが……怖いなら帰ってくれて構いませんよ?」
「ばっ……! こ、怖ぇとかありえねぇから! バルスのことが心配でついてきただけだっての!」
「どうでもいいですが……そこの檻に入っている獣の幼体、あまり近づきすぎると噛みつきますよ」
「ヒッ! お、俺がついてるから安心しろよバルスっ!」
俺の服の裾を持って小刻みに震えるアルフォンス。むしろお前が大丈夫じゃなさそうである。
……別についててくれなくてもいいんだけどなぁ。というかはっきり言って邪魔……げふんげふん。
一応友人だし、放置して他の人とばかりデュエルするのは流石に気が引ける。ただでさえアルフォンスからの挑戦を拒否し続けているし。
何かいい作戦を考えなければならないだろう。
「ではここでお待ち下さい。教授を呼んで参りますので」
客室に通され、ソファに座る。
出ていくサルタリーを見送り、足音が過ぎ去るのを待ってから、俺はアルフォンスに言う。
「……アルフォンス、俺ちょっと中を探検してくる」
「ええっ!? バルスお前、勝手に歩き回るつもりなのかよ!? 招待されておきながら!?」
「あぁ、だって最初からその為に来たんだしな」
ここでは新たなモンスターを生み出す研究をしているらしい。
ということは今までになかったモンスターなどもあるかもしれないのだ。
即ち新しいカードがあるかも……そんなもの見たいに決まっているだろう。
新しいエキスパンションが出る時なんかは新たなカードを見て、妄想を膨らませたものだしな。
それに院生たちにデュエルが出来るかもしれないし。彼ら、エリートだけあってかなり強いんだよな。ふふふ、楽しみだ。
「なるほど……バルスは最初からこの研究所の闇を暴くつもりであの野郎の案内を受けたってワケか。アカデミーから独立してるこの院は常に怪しい噂の絶えない場所だ。生徒会もそれを探ってる様子があったしよ。きっと許嫁であるローズの為に動いてやってんだな。くぅっ、これこそまさに愛ってやつだぜ! それに比べて俺はビビっちまって逃げることばかり考えていた……男として情けねぇ。こんなんでビビってたんじゃバルスに追いつくことなんて永遠にできやしねぇ。気合いを入れろアルフォンス! 親友の為に力を振り絞るんだ!」
何やらブツブツ言っていたかと思うとパァンと頬を張り、
「……よっしゃ! そういうことなら俺も一緒に行くぜっ!」
「え? 来るの?」
「当たり前じゃねぇか。俺たち親友だろっ!?」
でかい声で言いながら俺の肩を組んでくるアルフォンス。
おいこら、声が大きい。バレちゃうだろうが。
それについて来られるのも困るなぁ。アルフォンスにはここでサルタリーに言い訳して貰う予定なのに。
そんなことを考える俺に、アルフォンスは白い歯を見せて笑いかけてくる。
「心配すんな。足手纏いにはならねぇからよっ!」
別になんの心配もしてないのだが。とはいえよくよく考えたら下手に断ってここに居させてもそれはそれで不安だよな。
アルフォンスはあまり交渉が上手いタイプに見えないし。
「……わかった。一緒に行こう」
「よっしゃあ!」
だから声がデカいって。
やれやれとため息を吐きながら俺は客間を出るのだった。
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