第16話怪しいお誘い
「ふわぁぁ……ねむっ」
大欠伸をしながらトボトボと登校する。
先日は新しいデッキを組んでいてつい夜更かししてしまったのだ。
チートデッキは結構な数が存在するからな。新しくカードが手に入ったことで早速新しいデッキを組んでみたのである。
俺としてもたまには違うデッキも使わないとマンネリ化するもんな。
「クルルゥ!」
そんなことを考えていると、俺の頭上で鳴き声が聞こえる。
先日召喚したグリフォンだ。悠々と空を飛び、登校中の俺についてきている。
なんとこいつ、まだ消えていないのだ。すぐに消えるという話だったから特に対応もしなかったが、一晩経っても消えないじゃあないか。
一体いつ消えるのだろう。こんなの連れていたら目立って仕方ないんだが。
「よーバルス、おっすおっす!」
「アルフォンス。……もう退院して大丈夫なのか?」
「全然ヨユーだぜ! 身体の頑丈さだけは自信があるからよ!」
袖を捲り上げて力こぶを見せてくるアルフォンス。いや、心配してるのは頭なんだけどな。
まぁいいか。ここは現実世界じゃないんだし、アルフォンスみたいにやたら頑丈なのがいてもおかしくあるまい。
グリフォンを出しっぱなしにしててもそこまで目立ちはしないはずだ。
「……へへっ、周りの奴らバルスのことをすげー見てやがるぜ。ま、とーぜんだな。SSRモンスターのグリフォンを連れ歩いてるんだからよ。しかし一晩経っても還らねぇとは今でも信じられねぇぜ。召喚したモンスターの現界時間は術者の魔力量に比例する。それを常時展開するだなんて人智を超えてやがるな。バルス、お前と友達になれて心の底から誇らしいぜ」
アルフォンスが何やら呟いているが、一体どうしたのだろう。
一人芝居が目立っているのか、周囲から視線を向けられているぞ。恥ずかしいからやめて欲しいんだけどな。
ま、俺もちょっと変わったところはあるのは自覚しているし、ここは目立つ彼に隠れ蓑になって貰ってると思おうじゃないか。
「とはいえあまりに目立ちすぎるのもよくないよな。せめて小さく出来れば……そうだ! こういう時こそカードを使えばいいんじゃないか!」
なんで気づかなかったのだろう。早速バインダーからカードを取り出す。
「何してるんだバルス?」
「あぁ、グリフォンのサイズを……うわっ!」
振り向いたアルフォンスとぶつかってカードを落としてしまう。
「わりーわりー。お、こいつは『ミニマライズ』のカードじゃねーの。パワーとタフネスを500下げるが、リアルで使えば対象を小さくすることができる。なるほど、これでグリフォンのサイズを小さくしようってわけだな!」
「うん、流石にこのままだと目立つからね……って、ええええええっ!?」
思わず声を上げる。さっきまでライオン並みにデカかったグリフォンが手乗りサイズになったからだ。
だが驚いたのはそこではない。俺が出したカードをアルフォンスが発動させたからである。
「……今、俺がバルスのカードを発動させた?」
「そう見えた。カードってのは生成した本人しか発動できないはず、だよな……?」
こくこくと頷くアルフォンス。
一体何が起きたのだろうか。こんなこと本来なら起こらないはずなのに……何かのエラー? バグ? あるいは他の何か……?
疑問に首を捻る俺に、アルフォンスは嬉しそうに声を上げる。
「やっぱりバルスはすげぇぜっ!」
……雑ぅー。それで済ませていいのだろうか。
まぁそもそも俺自身が異世界転生者という特異な存在だし、それくらいできても不思議ではない、のかもしれない。
バルスに転生した時も俺が所持していたカードがバインダーに入っていたくらいだしな。
「クルルゥ♪」
ともあれ、グリフォンが目立たなくなったしこれでいいか。
これならぬいぐるみで誤魔化せるかもしれない。……無理がある? まぁあまり難しく考えるのはやめておこうじゃないか。
元々この状況自体が異常なのだ。それが多少増したところで大したことはあるまい。
◇
そして授業が終わって放課後、帰ろうとすると教室にアルフォンスが現れる。
「おーすバルス、一緒に帰ろうぜー……ってあれ? 今日はローズいねーのか?」
「あぁ、学校の用事があるんだってさ」
生徒会の会長をしているローズは地味に忙しいようで、休み時間などによく他の生徒たちが来ては色々と指示を仰がれていた。
大変そうだなぁ。なんて思いつつも、その間は距離を詰められることはないので安堵していたりしたのだが。
「じゃ、一緒に帰ってデュエルしよーぜっ! 昨日貰ったパックでデッキ強化したんだよ!」
「ま、まだ君とは勝負にならないかなー。はははははー……」
気持ちはとても嬉しいし今すぐやりたいのは山々だがアルフォンスとのデュエルは破滅ルートへ向かう可能性があるので危険なんだよなぁ。
だが気になる。どんなデッキを組んでいるのだろうか。勝負を受けられないこの身が憎い。
「へへっ、わかってるって。俺のこと気遣ってくれてんだろ? ……田舎者の俺があまりボコボコに負けるとイジメられちまうからな。その為にわざとキツい言い方をして……ったく、優しい奴だぜ」
不気味に笑いながら頷くアルフォンス。さっきから独り言が多いぞ。
「でもカードショップは行ってみたいかな。お婆さんのこと、ちょっと心配だしね」
「おー、じゃあ一緒に行くか!」
あわよくばあの老婆にまたサービスして貰えるかもしれないしな。
というわけで今日もまたショップに赴こうとした俺たちの前に、一人の男が現れる。
「君、ちょっといいかな?」
真っ白な服を着た研究員っぽい青年だ。
俺たちより少し年上だろうか。一体なんの用だ? 疑問に思っているとアルフォンスが前に出る。
「んだよオッサン。俺らは友情を深めに行くところなんだぜ? 邪魔すんじゃねーよ。しっしっ」
だが青年は構わず言葉を続ける。
「僕の名前はサルタリー=ボーゲン。アカデミー独立院で院生をしている者だ」
「なっ……!? それって超優秀な学院生しか行けねぇ、エリート集団の巣窟じゃねーか!」
独立院とはアカデミーの教授たちが各々研究に使うラボだ。
カードの実体化、プレイヤーへのダメージ反映、カードの所有権などなど……白地のカードも過去に彼らが作り出したらしい。
基本的にアカデミーからは独立しており、教授たちは優秀な生徒をスカウトし助手にして研究を行なっている。
原作でもそんな院生たちとデュエルを行うことはあるが、他の生徒たちに比べて一段強い者が殆どだった。
……だが彼らが出てくるのは原作では中盤以降だったはず。こんな早くに接触してくるなんて、何か変なフラグでも踏んでしまったのだろうか。
警戒する俺にサルタリーは言う。
「バルス君、だっけ。そのグリフォンについて尋ねたいことがあるんだ」
……はい、原因俺でした。
いや、まだ誤魔化せる可能性は残っている。
「いやー、実はこれこれはぬいぐるみで……」
「『矮小化』の効果だね。それ」
くっ、ダメか。
クラスメイトとかはぬいぐるみで誤魔化せたのに、流石はエリート。賢いようだな。
「バルスは目立ってるからな。目をつけられても仕方ねぇよ」
むぅ、やっぱり俺って目立っていたのか。
よくラノベとかでゲームの中に入る系の作品はあるが、その主人公たちがやたらと目立たないようにしていたのはこういう想定外の状況を避ける為なんだな。
実際に起きてみると確かに、これは厄介だ。
まぁでも俺、原作ストーリーあまり読み込んでないからなぁ。それにバルスなんて端役の行動パターンなんか覚えてないし知りようもないし、陰湿なバルスと適当な俺の性格は真逆と言っていい。ストーリー通りに動くのは土台無理な話なのである。それに……
考え込む俺にサルタリーは言う。
「あれは君が召喚したモンスターだよね? 本来なら召喚モンスターはすぐに消えてしまうはずなのに、一日中現界したままだ。しかもまるで生きているかのような振る舞いまでしているなんて、一体どういう理屈なのかとても驚異深いよ。ウチの教授も君にすごく興味を持っていてね。ぜひ会いたいと言ってるんだ。よかったら今から来てくれないだろうか?」
彼の誘いに俺は、
「わかった。行こう」
即答する。それに、俺は自分の好奇心に逆らうのは好きじゃない。
魔力とカードの関連性、そんな楽しそうなものをスルーできるはずがないではないか。
何より新しく組んだデッキを試したい。ストーリー上何の接点もない彼らなら幾らボコっても問題ないしな。
「あ! おいバルス! どこ行くんだよ!? おーーーいっ!」
アルフォンスが止める声を背中で聞きながら、俺はサルタリーについて行くのだった。
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