第15話見舞いと報酬

「プロデュエリストのガレット=エクサイズがいたぁ!? しかもバルスとデュエルしただってぇ!?」


でかい声を上げるのはベッドに横たわりながらも頭に包帯を巻いたアルフォンス。

元気だ。怪我人とは思えない声のデカさである。


「くそぉーーー! 俺も一緒に行けてたらなぁ! なんで救急車なんて呼んだんだよ。ローズ」

「……まさかそこまで頑強な頭をしていたとは思いもよりませんでしたので。失礼ですがその頭の中にちゃんと中身は詰まっていますか? ほぼ頭蓋骨で構成されていませんこと?」

「まじで失礼だなオイっ!」


ローズの抉るような嫌味にツッコミを入れるアルフォンス。

喧嘩するほど仲が良い……とはならないだろうか。ならないだろうなぁ。男女の関係ってのは中々難しいもんだ。

前世では童貞だった俺にはこの二人の仲を取り持つのは難しいか。

とはいえ俺の破滅ルートへの入り口であるアルフォンスとローズから距離を取るには、二人をカップルにするのが一番手っ取り早い。

そうなれば俺に構ってくることはほぼなくなるだろうしな。


「ところでよぉ、お前のそのグリフォン、いつまで出してんだ?」


アルフォンスの視線の先、窓の外では俺がカードから召喚したグリフォンが翼を休めていた。


「いや、仕舞い方がわかんなくてさ」

「普通は勝手に消滅するものですわ……」

「バルスの魔力はとてつもねぇからな」


そういうもんなのか。そういえば一緒に出した『遠見の眼鏡』もまだ消えてないんだよな。

うーむ、そのうち消えるにしても、自由に消したり出したり出来ないのはかなり不便である。


「強きデュエリストは強い魔力を身体に宿す。君はそれだけの器を有しておるのかものう。ヒッヒッヒ」


不気味に笑いながら出てきたのはカードショップの老婆だ。

びっくりしたなぁもう。アルフォンスなんか布団を被ってしまっている。


「そう驚かんでもええわい。見舞いに来たんじゃよ。お礼も兼ねてのう」


老婆が懐から取り出したのはカードの束だ。

うおっ、百枚パック以上はありそうだ。しかもそれらは全て魔力を込めることでカードが浮き出る、白地のものである。


「ほれ、これを買おうとしておったんじゃろう? カードを取り返してくれたお礼じゃ。受け取ってくれ」

「うおおおっ! こ、こんなにくれるのか?」

「い、幾らなんでも多すぎではありませんこと?」


驚愕する二人。声には出さないが俺も驚きだ。

白地のカードの値段は一パック十枚で3000ジュエル、俺の一ヶ月の小遣い分である。

アルフォンスとローズにとっても高額で、そう何パックもは買えないのだ。

小さい頃に知らない人から高額な物を貰うなと教育されてきた俺としては、流石に受け取り辛いものがある。


「お婆様、気持ちは嬉しいですが……」

「そうだぜ! 受け取れねぇよ!」

「ワシの魂のカードたちを取り返してくれた礼としては足りないくらいじゃよ。ヒッヒッヒ」

「ですがこれは流石に……」


押し付けようとする老婆に、ローズとアルフォンスは抗議指定る。

お礼とはいえ確かにあまりに多すぎるからな。だが俺の考えは違う。


「ありがたく頂戴致します」


間に入ってカードを受け取る。

ここは遠慮なく貰っておいた方がいい。折角向こうが持ってきてくれたのだ。そのまま持って帰らせるのは悪いだろう。

……というのは建前で本音は喉から手が出るほど欲しいからなんだけどね。

決闘者にとってパックは血液みたいなものである。学生時代はよく金欠になりながらもパックを買い漁ったものだ。


「お、おいバルス……」

「よろしいのですか?」

「おうおう、遠慮なく受け取っておくれ。これだけ持ってくるだけで精一杯じゃったからのう。重くて持って帰れんのじゃよ」

「本当にありがとうございます! 何より嬉しいです」


深々と礼をしてカードを受け取る。


「おおー、150パックもあるじゃないか! 三人で分けたら一人50パックになるな」


これだけあれば俺のデッキに有用なカードも沢山手に入るに違いない。

分け前を渡そうとするが、二人は遠慮がちに首を横に振って返す。


「俺は遠慮するぜ。何もしてねぇしよ」

「私もですわ。バルス様がそれらは全て貰うべきです」


しかし受け取りを拒否されてしまった。

二人の言う通り、俺が独り占めしたいのは山々ではあるが……


「そう言わず受け取ってくれ。大体そんなこと言い出したら捕まえたのはガレットだ。俺は何もしてないに等しいんだから貰う権利はないはずだよ」

「んなわけねぇだろ! そりゃ結果的にバルスは何もしなかったかもしれねぇけど、礼を言われて当然のことはしたはずだぜ!」

「アルフォンス君の言う通りですわ! そもそもこのお婆さんはバルス様の心意気に打たれて礼を持ってきたのですから!」

「その通りさ。だから二人とも貰う権利がある」

「あ……!」


俺の言葉に顔を見合わせる二人。老婆はそれを見て嬉しそうに何度も頷く。


「うむうむ、三人で仲良く分けておくれ。ワシとしてもそれが一番嬉しいんじゃ。ヒッヒッヒ」

「……そういうことなら、よ」

「……ありがたく受け取っておきますわ」


渋々といった顔でパックを受け取る二人。ふぅ、これで一安心。

決闘者にとってカードが大事なのはさっきも言った通り。そしてカードの恨みというのは恐ろしいものなのだ。

大昔、友人たちが軒並み爆死する中で俺一人だけレアカードを当てた時の冷たい視線……あれは今でも記憶に残っている。

ここで俺が独り占めしてしまったら、今は良くともいつか必ず恨みが顔を出すだろう。

そうなれば俺への好感度がダダ下がりし、そのまま破滅ルートに突入してしまう可能性もありうる。ここは禍根を残さないよう、しっかり三等分しておくべきだ。


「ちくしょう……なんて優しい奴だよ。あわよくば分け前が欲しかったという俺の本音をあっさり見透かされてたってことか……へへっ、その洞察眼はデュエルだけでなく人間観察にも使われてるってことか。敵わねぇな。全くよ」

「バルス様の狙いはそれだけではないですわ。恐らくクランメンバーである私たちの強化する為でしょう。今の我々ではバルス様の相手をするには役不足ですから。遥か先を見据えているのですね。流石でございますわ」


二人は何やらぶつぶつ呟きながら俺に熱っぽい視線を向けてくる。

うーむ、俺が本当はパックを分け合いたくなかったことがバレたわけじゃない、よな?

……ま、あまり気にしないようにしよう。うんうん。

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