第14話俺の目指す道は

「はー、楽しかった」


素晴らしいデュエルだった。流石は主人公のライバル、俺をここまで追い詰めるとは。

それにしても圧倒的優位な状況でもここまで戦えるプレイヤーがいるとはな。しかもこんなノリノリで戦ってくれるなんてかつてなかったことだ。

転生した時はどうしようかと思ったがこの世界、思った以上に楽しめそうである。

鼻歌を歌いたくなるような晴れやかな気分でその場を立ち去ろうとしていると、


「待て!」


後ろから声をかけられ、足を止める。

声の主はガレットだ。すごいなこいつ。ザコルとカマセラはかなり長い間気絶していたのにこんなすぐ目を覚ますとは。

感心しているとヨロヨロしながら近づき、自分のデッキを差し出してくる。


「……約束だ。好きなカードを持っていけ」


あ、そうだった。

アンティルールで勝負しようと言ったんだっけ。勝者は敗者から好きなカードを一枚貰えるのだ。

いやー、浮かれすぎて完全に忘れていたぞ。危ない危ない。


「ぐっ……! 俺の魂のカードたちよ……すまん……!」


すごい形相だ。血涙でも流さんばかりの勢いである。

無理もない、ガレットのデッキは超の付くレアカードがふんだんに入っているもんな。

その中の一番のレアといえば魂のカードと言っても差し支えないだろうし、軽々しく渡せるはずがない。

多少心が痛むし可哀想だとは思うが、残念ながらこれが真剣勝負というものである。俺もリスクを賭けて戦ったのだからこれは当然の権利だ。

彼のカードを使えば俺のデッキも超絶強化可能。そうすれば新しいチートデッキも組めるというものである。ふふふふふ。


「それじゃあありがたく……」


伸ばそうとして、手を止める。

俺の眼前、デッキを守るように巨大なスズメバチが威嚇音を鳴らしながら飛んでいた。


「わぁっ!?」


思わず振り払う。

あっぶなー。俺、子供の頃に刺されたことがあるからハチが大嫌いなんだよな。今でも突然出てこられるとパニクってしまう。

カードが地面に散らばってしまったじゃあないか。あーあ。


「馬鹿な……どういうつもりなのだ。バルス……! 俺のカードなど不要とでも言いたいのか!?」


そんな俺の態度にガレットは信じられないと言わんばかりに目を丸くした。

いや、どうもこうもハチがいたから叩き落としただけなんだが……そう言おうとした時である。


「ふっ、教えて差し上げましょうか?」


凛とした声が響く。ローズだ。

少し離れたカフェの椅子にて優雅に紅茶を啜って立ち上がる。

ってオイ。一体いつからいたんだよ。


「貴方に本気を出させる為ですよ。その為にアンティルールによるデュエルを申し込んだのです。プロである貴方がただの学生に本気を出すわけがない。しかし互いのカードを賭ければその気にならざるを得ないでしょうから。無論、見ての通りそれはただのポーズ。故にあなたがデッキを渡そうとするのを跳ね除けたのですわ」


……どうやらほぼ最初からいたようだ。

俺もグリフォンの操縦に手間取っていたから、その間に追いつかれたらしい。

それにしても普通は声をかけるだろ。ずっとカフェで見ていたとか趣味が悪いな……そんなんだから不人気になるんだぞ。

ローズの説明にガレットは顔を顰める。


「馬鹿な……俺と本気で勝負をするだと? そんな事のために己のカードを危険に晒したというのか? 意味がわからんぞ!」

「気持ちはわかりますわ。私もずっと疑問に感じておりましたもの。孤高にして陰の実力者であるバルス様が、何故最近になって他者と関わり合いを持とうとしていたのかと、ずぅっと考えていました。……ですがようやく気づいたのです。バルス様は最強のクランを作ろうとしているのですわ」

「クラン……だと?」


ローズの言葉に眉を顰めるガレット。

クランとは一言で言えば決闘者たちによる集まりだ。

メンバー一丸となって大会などに挑んだり、和気藹々と遊んだり、コレクションの為のトレードを楽しんだり、歴史やカード考察を行ったりをする、チームのようなものである……ってクランだとぉ!? 誰が何を作るって!?

思わず心の中でツッコミを入れる俺を尻目にローズは言葉を続ける。


「昨今のバルス様は強き仲間を集めていらっしゃいます。何故なら真の決闘者とは一人ではなり得ないもの。良き仲間、そして良きライバルという共に研鑽できる相手がいるからこそ、高みへと昇れるのですから。……それを証拠にほら、バルス様は最初から貴方に手を差し出しておられるでしょう?」

「……っ! 本気、だというのか……?」


いや、微塵もそんなことは考えていなかったのだが。この手は落ちたカードを拾おうとしたものだが。

しかし待てよ? クラン設立ってのは意外といいアイデアかもな。

俺がこの世界で求めるのはいい感じの対戦相手だ。クランができればその相手には事欠かない。

それにクランは強い強制力のない、言うなら部活のようなもの。所属することによるデメリットはあまりない。


……ならばいっそ、部活の掛け持ちのように沢山のクランに入るのもいいかもな。

様々なクランを渡り歩き、気が向いた時にメンバーにデュエルの相手をして貰う。

やりすぎて嫌われそうになったらしばらく距離を取り、他のクランに相手をしてもらい、ほとぼりが覚めた頃に戻ってくると。

それにアルフォンスやローズといった俺を破滅に導きそうな原作キャラたちとも、クランを言い訳に距離を調整できるし、まさに俺が求める最高の環境じゃないか。

確かにレアカードは欲しいが、カードゲームというものは対戦相手がいなければ成立しない。

だから俺は前世で対戦相手を求めてカードショップを梯子していたのだ。圧倒的な蹂躙も、些細な抵抗を摘み取るような駆け引きも、全ては対戦相手がいてこそである。

優秀な決闘者が手に入ることに比べれば、レアカードの一枚や二枚どうでもいい。……ほ、本当にどうでもいいんだからねっ! ……こほん、ともあれここはローズに全力で乗っかるとしよう。


「……ふふ、流石はローズだ。全て言われてしまったな。それで、どうだガレット、俺のクランに入らないか?」


この間わずか0.1秒。ノリと切り替えの速さは決闘者として最も重要な要素の一つである。

ガレットは俺の差し出した手を一瞥した後、


「断る」


と言って顔を背けた。

ええっ!? 早くも計画頓挫!?

動揺する俺にガレットは言葉を続ける。


「俺は他人とつるむのは好かん……貴様の思惑など知ったことか。カードがいらんというなら、いいだろう。俺のレアカードを渡さずに済んで良かったというものだ! フハハハハ!」

「あなた……!」


抗議しようとするローズに被せて、ガレットは言う。


「だがバルス、貴様の器は十分に知れた。嫌というほどな……故に、ライバルにならなってやってもいい」

「え? それって……」


ガオン! と俺の言葉を遮ってエンジンを蒸す音が高々と鳴り響く。


「この借りは必ず返す! それまで俺のいないところで雑魚に負けるなど絶対に許さんぞ! 首を洗っているがいい!」


そう叫び声を上げると、ガレットは爆音を轟かせながら走り去っていくのだった。


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 あとがき

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まずはここまでお読みくださってありがとうございます!

評価して下さった方々が良かったと思えるよう、一生懸命頑張って書いていこうと思います。

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