第13話vsプロのデュエリスト、後編

「俺をこのターンで倒す、だと……?」


信じられないといった顔のガレットだったが、しばし沈黙した後、その口元を緩める。


「フハハッ! 冗談もほどほどにするのだな! こちらにはレベル7モンスターが降臨し、手札も潤沢にある。対して貴様の場は壊滅、呪文、魔法カードは封じられ、しかも手札はたったの二枚! レベル7、しかも仮に『魔封じの子竜』を倒したとしてもディークロウは呪文や能力の対象にならないから倒すことは不可能だ! そんな状況で一体何をするつもりなのだ!? ククッ、無駄な強がりは見苦しいぞ?」

「それはどうかな?」

「……なんだと?」


答える代わりに俺は手札に持っていたカードを場に出す。


「結界カード『冥府との取引』を設置。これが場にある限り己の墓地にあるカードを手札にあるかのように使うことが出来る! ただし、俺はターン終了時にゲームに敗北するけどな」


発動と同時にカードから黒い手が伸び、俺の心臓を掴む。

背筋がゾワっとする感覚と共に、墓地のカードが俺の前にずらっと並ぶ。


「『冥府との取引』だと……? そうか貴様、手札を捨てて俺のモンスターの攻撃を封じていたのは……」

「その通り、墓地を肥やす為さ」


『呪いの祭壇』が制限カードに加えられた最大の理由は、手札を捨てるという本来はデメリットである能力のせいだ。

この能力はやろうと思えば1ターンに何度でも起動出来る為、手札を墓地に送るのがあまりに容易なのである。

発売当初はそこまで注目されてなかったが、新しいエキスパンションが生まれ墓地利用カードが増えるたびに強化されていき、やがて殆どのデッキに使われるようになってしまったのだ。

カースド◯◯(◯◯には好きなデッキスタイルを入れる)などあらゆるデッキの頭に付けられる程となり、ついには制限カードとなったのである。

特にこの『冥府との取引』とのコンボは強烈で、こちらは同時期に禁止カードに加えられたことを追記しておく。


「さて本番だ。まずは『魔封じの子竜』を倒させて貰おう。墓地から『暴発する見習い術師』を召喚」


カードから現れるのは今にも爆発しそうな魔力球を抱えた魔術師だ。


「くっ、墓地漁りでデッキから直に落としたカードか……!」


然り。こいつはパワー1500タフネス1200のレベル4カードで、場に出た時に魔術を発動させるが、失敗し、暴発させてしまう。

その衝撃で場にいるモンスターにダメージを与えるのだ。

魔力球はどんどん輝きを増していき、周囲を光が包み込んでいく。

そして……ずどぉぉぉぉぉぉん! と大爆発が巻き起こった。


「未熟なる暴発により場にいる全てのモンスターは1500のダメージを受ける。『魔封じの子竜』撃破! 同時に『暴発する見習い術師』のタフネスからもダメージ分が差し引かれ、俺のライフは残り100となる」


当然『魔封じの子竜』などへの対策は怠っていない。

さて、これで改めて呪文、魔法カードが解禁されたというわけだ。


「『冥府との取引』の発動中、カードは墓地へ送られる代わりにゲームから取り除かれる」


『暴発する見習い術師』を裏返して墓地の横へ置く。

この文面がなければ墓地から無限にカードを使えるからな。当然の効果だ。


「次に墓地から使用するのは魔法カード『空想の手札』。各プレイヤーはカードを七枚引いて七枚捨てる」


デッキからカードを引き、手札を捨てる……ではなくゲームから取り除く。

そう、『捨てる』が『取り除く』に変更される為、このデッキの即死コンボである『空想者への罰』(『空想の手札』で引いたカードを捨てさせ『粗末者への罰』でカードを捨てるたびにダメージを与える)は使えないのだ。

だが問題はない。当然他のフィニッシャーも用意してある。今はそれをデッキから探しているのだ。


「更に『空想の手札』を発動! 互いのプレイヤーは七枚引いて七枚捨てる!」


んー、またも引いてこなかったか。どうやら目当てのカードはデッキの底に眠っているらしい。

というかデッキを落としすぎてあと三枚しかないぞ。ドローが出来なくなったら俺の負けだが、あのカードを使えば問題は……墓地に手を伸ばそうとした、その時である。


「ククク……愚かなりバルス!」


手札と睨み合っていたガレットが不意に笑った。


「何かしらのフィニッシャーを探しているのだろうが、コンボを決めて勝ったつもりとは浅はかにも程があるわ! 魔法カードを解禁されたのは俺も同じ! これだけカードを引かされれば、貴様を倒すカードの一枚や二枚、手に入るというものだ! 『炎烈火球』発動! 焼き尽くせ紅蓮の炎よ!」


放たれた炎が俺を包み込む。轟々と燃え上がる。

俺を焼き尽くそうとする業火はしかし、


「な、なに……!?」


俺までは届かない。

眼前に展開された霧の壁に阻まれ、消えていく。

カウンターで発動させたのは『霧隠れ』。俺はこのターン、あらゆるダメージを受けない。


「『霧隠れ』だと……!? そ、そうか……何故あの時わざわざ手札を一枚残したのかとは思ったが、俺が『炎烈火球』などを持っている可能性を考えてギリギリで受けていたのか……!」

「その通り。前の前のターンに『呪いの祭壇』を起動せずに敢えて攻撃を受けたのは、『霧隠れ』と『冥界との取引』を残す為。これだけカードを引かせるのだ。対策くらいするのは当然だろう?」


どこかで火力カードを引かれた時点で終わりだからな。運ゲーは極力避けるのが神のデュエリストというものだ。

ていうか俺もいっぱい引いたから、なんなら手札にもう一枚カウンターカードを持ってるぞ。


「さて改めて、墓地から『物探しの導師見習い』を召喚。デッキの上から三枚見て一枚手札に加える」


デッキは三枚、必然的に俺は目当てのカードを手に入れられる。

それを俺はガレットに向け、かざした。


「場に出た『物探しの導師見習い』を生贄に捧げ、『不完全な擬似生命体タルタロス』を召喚!」

「オオオオオオオ……!」


不気味な声と共に現れたのは黒い泥を思わせる不定形生命体だ。

レベル5モンスターだがこいつのパワーとタフネスはたったの100。

しかし場に出た時に墓地にあるカードをゲームから取り除くたび、そのパワーとタフネスが300上昇するという能力を持っている。


「俺の墓地に置かれているカード十七枚を全てゲームから取り除くことで、『不完全な擬似生命体タルタロス』のパワー、タフネスは5200まで上昇する!」

「グシシシシ! グシシ!」


笑い声を上げながら、黒い泥は墓地のカードを喰らい巨大化していく。

あっという間にディークロウを遥かに凌ぐ大きさとなったタルタロスを見上げ、ガレットは驚愕の声を漏らす。


「馬鹿な……こんな、こんなことが……! だ、だが決闘で敗北しようとまだ勝負は……」

「更に! このカードは速攻を持ち、決闘宣言を行わずプレイヤーに直接攻撃をすることができる。行けタルタロス! 這い寄る混沌の一撃!」

「シャアアアアアアア!」


影となり地面に溶けたタルタロスは身構えるディークロウの足元を這い潜り、ガレットへと向かっていく。そして、


「ぐっ……! くそぉォォォォォォ!」


咆哮と共に、ぐしゃりとガレットを飲み込んだ。ガレットのライフは0。俺の勝ちだ。


「……ふぅ、ギリギリだったな」


流石は主人公最強のライバル、楽しませてくれるじゃないか。

膝から崩れ落ちるガレットを前に、俺は満足感と高揚感に包まれるのだった。

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