第12話vsプロのデュエリスト、中々編

「俺のターン、ドロー!」


引いたカードを見て、ガレットはニヤリと笑う。


「……ククッ、我ながらいい引きだ。おいバルス、早速先刻の言葉を後悔することになりそうだぞ? いでよ! 『竜骨の角笛』! その音色を奏でるがいい!」


手にしたカードを叩きつけると同時に角笛が出現、不気味な音色を奏で始めた。

結界カード『竜骨の角笛』は場に出し生贄に捧げることでデッキからレベル3以下のドラゴンカードを一枚馬に出すことが出来るというものだ。

そして抜いてくるのは俺が出されて最も困るあのカードであろう。


「青ざめたな? あぁそうだ。貴様の予想通りだとも! 我が求めに応じ現れしは『魔封じの子竜』だ!」

「クルル……」


可愛らしい鳴き声と共に現れたのは純白の鱗を持つ子供の竜。

……ま、当然そうだよな。


「『魔封じの子竜』はパワー300タフネス300のレベル1モンスターカードだが、非常に強力な特殊能力を持っている。それは場に出ている限りあらゆる呪文カード、魔法カードが使えなくなるというものだ。先刻のやり取りで貴様のデッキはそのほぼ全てが、呪文、魔法カードで構成されているのは明らか! 脆弱な小竜とて倒すのは難しかろう! フハハハハハ!」


勝利を確信したかのようにガレットは笑う。

その通り、このゲームには多くのモンスター除去カードがあるが、その八割は呪文カードと魔法カードであり、俺のようなコンボデッキは特にそうせざるを得ない。俺にとって『魔封じの小竜』はまさにキラーカードなのである。

非常に強力なカード故にそのレアリティはPRR《パラレルレジェンドレア》。

当然、俺のみならず様々なデッキへのキラーカードを状況に応じて『竜骨の角笛』でサーチしてくるつもりなのだろう。単純だがかなり効果的なコンボだ。


「青ざめているなバルスよ! だがまだ俺のターンは終わってはいないぞ! 魔道具カード『竜装の爪』を『魔封じの小竜』に装着! 『竜装の爪』はレベル2以下のドラゴン系カードのパワー、タフネスを1000アップさせる効果を持つ!」


低レベルモンスターへの強化アーティファクトか。

あくまでもドラゴン系モンスターを生かすカードで構成されているらしい。


「そして『物探しの導師見習い』に対し決闘宣言を行う!」


決闘宣言とはモンスター同士が一対一で戦闘を行うフェイズである。

仕掛ける側が宣言すると防御側はそれを受けるかどうかを選び、受けた場合は戦闘が行われるのだ。

互いのパワーでタフネスを削り合い、生き残れば何も起こらないが倒された場合は超過分のダメージがプレイヤーのライフから差し引かれる。

ちなみに決闘を拒否する場合には、プレイヤー本体が受けることになる。モンスターを生かしたい場合はそれも一つの手ではあるが……


「……受けよう」


今はライフの方が重要だ。

というか『物探しの導師見習い』は能力が本体だからな。場に出てしまえば用無しである。

多少でもライフは残しておいた方がいい。


「では決闘開始!」


二体のモンスターが向かい合い、戦闘が始まる。


「『魔封じの小竜』よ! 強化されたその爪にて『物探しの見習い導師』を切り裂くのだ!」

「シャアアアアア!」


勝負は一瞬、パワータフネス両方に勝る『魔封じの子竜』がその鋭い爪で『物探しの見習い導師』を切り裂き、消滅させた。

『魔封じの子竜』のパワー1300から『物探しの見習い同士』のタフネス300が差し引かれ、俺のライフから1000が失われる。

同時に、痺れるようなダメージが俺の全身を貫いた。


「ぐうっ!?」


……相変わらずめちゃめちゃ痛いな。

こればっかりは慣れそうにない。片膝を突く俺を見下ろし、ガレットは笑う。


「決闘決着! そしてターンエンドだ。ククッ、尤も? 貴様が出来ることはもはや何もありはしないだろうがな」


今回ばかりは強がりでもハッタリでもない。

俺のデッキはガレットが察する通り、殆ど呪文カードと魔法カードで占められており、モンスターカードも殆ど入っていない。


「とはいえ、勝ち誇るのは少し早いんじゃないか? 勝負はまだ終わってないぞ」

「フハハハハハ! 良いぞバルス! ここまで追い詰められた状況でも強気に笑えるとは! それでこそ俺が見込んだ男よ!」


俺の言葉は苦し紛れに聞こえたようで、ガレットはただ上機嫌に笑うのみだ。

ま、現状不利なのが俺なことに何の疑問はないのだが……まだ俺のデッキには覆すカードは眠っている。


「俺のターンだ」


引いたカードを見て俺は、手札から一枚のカードを場に出す。


「結界カード『呪いの祭壇』を設置。こいつは手札を一枚捨てるたびに対象のレベル4以下のモンスターカードのアタックを封じる効果を持つ」


カードから出現するのは巨大な祭壇。その中心からは不気味なオーラが漂っている。

『呪いの祭壇』は非常に高いモンスターコントロール能力を持ち、様々なトッププレイヤーが公式大会で採用した程だ。

手札を捨てねばならないという重いコストから最初の評価はそこまで高くはなかったが、後々に評価を上げ最後は制限カードにされてしまった程の強力カードである。


「手札を一枚捨て、『魔封じの小竜』の次のターンのアタックを封印する。ターンエンドだ」

「チッ……だがそんなものでは僅かな間、命を繋いだに過ぎんぞ。ドロー!」


舌打ちをしながら、ガレットはカードを引く。

ニヤリと笑うと手にしたカードを叩きつけた。


「出でよ! 『双頭のツインタニア』召喚!」


カードから二頭の竜が姿を現し、咆哮を上げる。

レベル4のアタック1400、タフネス1500のモンスターだが、こいつは一体にも関わらず二体のモンスターとして扱われる。即ち……


「こいつは1ターンに二回の攻撃することが可能というわけだ。ククク……どこまで耐えられるか見せて貰おうではないか。ターンエンドだ!」


『呪いの祭壇』の正式なテキストは、『カードを一枚捨てる。対象のモンスターの上に枷カウンターを置く。それが置かれている場合、モンスターはプレイヤーにダメージを与えられない。攻撃終了時、枷カウンターを取り除く。この能力はあなたのメインフェイズにのみ使用できる』というものだ。

つまり1ターンに二回攻撃できる『双頭のツインタニア』を封じるには俺は二枚のカードを捨てねばならない。


「俺のターン。……引いたカードを加えた二枚を捨て、『双頭のツインタニア』に二個の枷カウンターを置き、ターンエンドだ」

「グガルルルゥゥゥ!」


二重の枷を嵌められながらも、俺に飛びかかろうとする『双頭のツインタニア』。

これ以上手札は減らせない。まだライフには余裕があるし、一体の攻撃は甘んじて受けるべきだな。


「フハハハハハ! 哀れだなバルス! もはや攻撃を防ぐだけで精一杯か!? しかも貴様の手札はゴリゴリ削られている! カードを封じられ、モンスターも碌に入ってないデッキでいつまで耐えられるかな!?」


引いたカードを手札に加えると、即座に攻撃に移る。


「『魔封じの子竜』で本体を直接攻撃! 我が敵を切り刻め、白竜の子よ!」

「シャアアアアアッ!」

「ぐわあああっ!?」


ざぐっ! と胸元が切り裂かれると共に衝撃が走る。

いったたた……何度も食らうもんじゃないな。俺のライフは1700、耐えられるのはあと一回か。


「そして『双頭のツインタニア』を二回攻撃宣言し、枷を破壊する!」

「ギャオオオオオオ!」


枷を噛み砕き、咆哮を上げるツインタニア。攻撃準備は万端といった様相だ。


「更に絶望するがいい! 加えて『針竜ヘッジホッグ』を召喚する!」


現れたのは全身に針の鎧を纏った小型の竜。『針竜ヘッジホッグ』はパワー1000、タフネス1200のレベル3モンスターで、その能力は戦闘中にこいつが受けたダメージを敵プレイヤーにも与えるという能力を持つ。

戦闘させれば強制的に敵プレイヤーにダメージを与えられるという、超攻撃的なモンスターである。


「ククッ、とはいえ貴様の場にモンスターがいないこの状況では、ただの殴り役にしかならんがな。ターンエンドだ」


三体の竜が俺を威嚇すべく金切り声を上げている。


「俺のターン、『墓地漁りの魔術狂』を召喚! このカードが場に出た時、デッキから五枚カードを墓地に送るたびにカードを一枚引く。デッキを十枚捨て、二枚ドロー」

「フハハハハ! 雑魚モンスターでデッキを削り、なおも命を繋ごうとするか! 哀れよなバルス! 滑稽もそこまで続けば見苦しいぞ!」


スコップを手に懸命に墓を荒らす魔術師を見て大笑いするガレット。

こいつのレベルは2で、パワーとタフネスもたったの400。しかもヘッジホッグがいるこの状況では壁にもならない。


「引いたカードを加えた四枚の手札を捨て、お前のモンスター全てに枷カウンターを置く。ターンエンドだ」

「これでついに手札はたった二枚か。放っておいても次のターンは耐えられんだろうが……ダメ押しだ! 『双頭のツインタニア』と『針竜ヘッジホッグ』を生贄に捧げる!」

「ッ!?」


しまった。高レベルモンスターか。

レベル5以上のモンスターを召喚するには生贄が必要となり、レベル5で一体、6で二体、最高レベルの7は三体が必要となる。

ツインタニアは二体として扱われる為、生贄要因としても強力なのだ。様々なシナジーを組み込んである。流石は主人公のライバルになる男だ。

そしてレベル7モンスターは最高レベルだけあり、一体で戦況を変えるような強力モンスターばかり。ものによっては即死もありうる……!

思わず目を瞑る俺の前で、ガレットは高らかに宣言する。


「呼び出すは『黒き風竜、ディークロウ』! パワー4000、タフネス3500の圧倒的ステータス! レアリティはSSUR《スペシャルシークレットアルティメットレア》の激レアカードだ! そしてディークロウは場に出た時に敵のコントロールする全てのモンスターを破壊する! 黒き旋風よ、荒れ狂い雑魚どもを消し飛ばせ!」

「ウワァァァァッ!」


突風が吹き荒れ、『墓地漁りの魔術狂』が悲鳴と共に消滅する。


「加えて『魔封じの子竜』で本体を攻撃!」

「ぐはっ!」


全身を刻まれるような激痛に思わず呻き声が出る。

残りライフは400……なんとか耐えたか。


「ふっ、召喚されたばかりの『黒き風竜、ディークロウ』はこのターンは攻撃できん。次が貴様の最後のターンだ」


ターンエンドを宣言するガレット。

満足げに俺を見下ろす彼を前に、俺は安堵の息を吐く。


「ふう、助かった……」

「助かった、だと……?」


歪んだ表情で睨みつけてくるガレットに言葉を返す。


「あぁ、レベル7モンスターカードには速攻を持つものや直接火力を叩き込むものが多い。それこそ一撃でゲームを終わらせるようなのもね。そうされていたら負けていた」

「ふざけるな! ディークロウもまた最強の一角! 貴様にはこのモンスターを倒すことなど出来はしないだろうが!」

「その通りだ。そのカードは『呪いの祭壇』の効果も受け付けないし、あらゆる呪文や能力の対象にならないからモンスター同士で倒すしか手はないが、タフネス3500を削れるモンスターなどそうはいない。しかも場に出た時にこちらの場を吹き飛ばんだから生贄召喚も不可能。というわけで今の俺にディークロウを倒すことは不可能だ。ターンを渡せば間違いなく負けるだろう」

「だったら何故……!」

「このゲームの勝利条件はプレイヤーのライフをゼロにすること。このターンでお前を倒してしまえば何の問題もないからな」


驚愕に目を丸くするガレットを前に、俺はカードを引くのだった。

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