第11話vsプロのデュエリスト、中編

「デュエル!」


コイントス。

宙を舞いながら落ちてくるコインを手に取る。


「表」

「裏」


宣言と同時に手を開けると……出たのは裏、俺の勝ちだ。


「先手はくれてやろう。お手なみ拝見と行こうではないか」


腕組みをしながらカードを構えるガレット。

俺もデッキからカードを七枚引く。それをじっと見て戦略を組み立てていく。


「……悪くはないけど、これじゃワンキルは無理だな」


手札にはライフを支払って大量ドローができる『喉から出る手』はあるが、あらゆるダメージを無効化する『霧隠れ』がない。

初手から決めに行けばライフを支払った瞬間に直接火力で本体を狙われる可能性がある。

対抗手段を持っていない現段階でそれを行えば逆にワンキルされてしまう。

相手のデッキ内容も見ずにそれを行うのはあまりに危険だ。初手というのもいいことばかりではないのである。


「まずは定石通りデッキを圧縮していくか。……『物探しの導師見習い』を召喚!」


レベル1モンスター『物探しの導師見習い』はパワー500/タフネス300と貧弱なモンスターカードだが、場に出た時にデッキの上から三枚カードをめくり、その中から手札に加えて残りをデッキの底に置くという能力を持つ。

壁にもなってキーカード探しにも役立つ有用カードなのだ。……よし、いいのを引いたぞ。


「更に魔法カード『悪戯な魔手』を発動! 相手は自分の手札から選んで二枚捨てねばならない!」

「……ふむ」


しばし考え込んだ後、ガレットはカードを二枚、墓地へと捨てる。

一枚は『コメットドラゴン』、レベル5のモンスターカードだ。レベル5以上の高レベルモンスターは召喚の際に生贄を要する。今は使えないから捨てたのだろう。

そしてもう一枚は呪文カード『炎烈火球』。対象プレイヤーに500ダメージを与えるというものだ。……危なかった。やはり直接火力カードを持っていたか。

本来、プレイヤーに直接ダメージを与えるカードは大抵のカードゲームでは強くない為、あまり採用されることはないが、WDGではライフを支払う効果を持つカードが多く、カウンターとして火力カードを採用しているプレイヤーはそこそこいる。

『悪戯な魔手』は相手にカードを捨てさせるだけでなく、そこからデッキの色を推測出来るのだ。


「捨てたカードを見るに、やはりドラゴン使いってところか」


原作でも高い魔力を持つガレットはその魔力に物を言わせ、レアばかりのドラゴン系のカードでデッキを固めていた。

予想通り勝った際に貰えるレアカードにも期待できるってものである。

ふふふ、手に入れたカードでデッキを強化するのが楽しみだ。


「もう勝った気でいるのかバルスよ。戦う最中だというのに余裕ではないか」

「あーいやーそういうわけでは……」


しまったしまった。また怒らせてしまう。

だがガレットは不気味な微笑を浮かべながら言葉を続ける。


「なぁにかまわんさ。考えるだけなら自由だからな。だが獲物を前に舌舐めずりは三流の証よ。どれだけいい手札かは知らんが、覇者たる我が手は次で貴様を殺すカードを引くだろう。故にバルス、貴様に残された勝利の機会は今、この一瞬だと心得るのだな! 心して考えるがいい! フハハハハハ!」


むぅ、既に俺は『物探しの導師見習い』と『悪戯な魔手』を見せている。

その時点で魔法カードを大量に使うコンボデッキであることは向こうも理解しているはずだ。

にも関わらず『炎烈火球』を手放した理由……それは二枚目がまだ手札にあるからに他ならない。ここで焦って決めに行くのはあまりにも危険すぎる。せめて防御カードが一枚はないと撃つのは危険。


「ククッ……どうした? さぁ撃つがいい! どうせ『喉から出る手』を持っているのだろう? 幾らでもカードを引けばいいではないか。大量のライフを支払ってなぁ! さぁ! どうするのだ!?」


挑発を続けるガレット。

……と、使うのを躊躇わせるのが奴の目的か? ただのハッタリ、あるいは罠か……どっちだ。

俺はしばし逡巡した後、目を伏せて答える。


「……ターンエンドだ」


ここは退いておくべきだな。

俺の言葉にガレットはしてやったりという顔で笑う。


「フハッ! 臆したな!? 貴様の器が知れるというものだぞバルスよ! 実は俺の手札に直接火力はなかったのだ! あると思わせる為に敢えて捨ててみせたのだよ! それに見事に引っ掛かったようだな! 見たか! これが戦略というものなのだ! 誤算だったなぁバルスよ! フハハハハハ! ハーッハッハッハァ!」


大笑いするガレットに俺は、ポツリと呟いて返す。


「知ってたよ。それくらいね」

「何ぃ!?」


そう、予想通りだ。

そして誤算は誤算でも、嬉しい誤算なのだ。


「君ならそれくらいやるかもな、とは思っていたんだ。もし違ったらどうしようかと思っていたけど……期待を裏切られずに済んでよかったよ」


俺はチートデッキが好きだ。瞬殺が、ロックが、無限ドローが、相手を圧倒的な力で叩きのめすことが出来るデッキが好きなのだ。

しかし何の反応も返さない相手を一方的にボコるような勝ち方は俺の望むところではない。

何故ならそこには人の心がないから。相手の思考を読んでギリギリのせめぎ合いをしたい。圧倒的優位な状況下でそんな駆け引きを楽しみたいのだ。

それが出来る相手を探していたが……流石は主人公アルフォンス最大のライバル。俺を満足させる器はあるようだな。


「君は俺が望んだプレイヤーだ。このデュエル、俺の心ゆくまで楽しませて貰うよ」

「……ッ!?」


ガレットは顔に冷や汗を垂らし、俺を睨みつける。

先刻までの楽しそうな顔は引き攣り、笑いは苦笑に変わっていた。


「器を測っていたのは俺ではなく貴様の方だった、とでもいうのか……?」

「お互い様さ」


これこそがデュエルの醍醐味。

互いの考えを理解すべく、思考を巡らせる。

広く、深く……闇を覗く者はまた、闇にも覗かれているものだ。


「ククッ……フハハハハ! 面白い! どうやら貴様は俺が思った以上に面白い男のようだ! よかろうバルス、いつまで余裕の顔でいられるか試してやろうではないか! せいぜい吠え面かいて後悔せんことだなッ!」


吠えるガレットは、まるで剣でも抜き放つかのようにデッキからカードを引くのだった。

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