第10話vsプロのデュエリスト、前編
轟々と風を浴びながら空を往く。
ひえー、とんでもない速さだな。雲がどんどん流れていくぞ。
しかもこのグリフォン、まだまだ余力を残している感じだ。流石はUSRってところか。
「おっと、盗人たちを見つけないとな」
そうは言ってもこの速さ、この高さでは難しいんだよな。
街を見下ろすと道ゆく人たち人間も豆粒サイズにしか見えないし、バイクに乗った犯人を見つけるのは至難の業だ。
双眼鏡か何かがあればいいのだが。
「そうだ、こいつが使えるかも……!」
バインダーから取り出したのは魔道具カード、『遠見の双眼鏡』。
モンスターに装備することで相手の手札が覗けるというカードだ。モンスターを破壊されたら手札も見れなくなるし、手札を覗くだけなのでカードアドバンテージも得られないという微妙なカードだが、これならターゲットを探せるはず。
覗き込むと……いた。先刻走り去ったグレーのバイク。
ご丁寧にマーキングまでしてくれている。カードの力、すごいな。
「……ん? でも変だな。逃げていったのは三人乗りのバイク一台だったはずだけど……」
道路を爆走しているのは二台のバイクだ。グレーと銀黒と《メタルブラック》の派手なやつ。
乗り換えでもしたのだろうか。犯人は追跡を逃れる為に車を替えるというし。
「ていうか行き過ぎた! 戻れ戻れ!」
「クルルォォォゥ!」
俺の指示でターンするグリフォン。あまりに飛ぶのが速すぎて追い越してしまったのだ。
……しかし止める方法はやっぱデュエルなのかな。ゲームでもこの手のイベント戦闘はいつもデュエルで解決してたし。まぁそれはそれで大歓迎だ。
授業中に更なるチューニングを施したデッキを試すいい機会である。盗人相手なら遠慮は不要だからな。ふふふ、昂ってきたぞ。
はやる気持ちを抑えながら、俺は盗人たちの元へ急降下するのだった。
◇
「俺のターンだ! 『黒き風竜、ディークロウ』を召喚! 破滅を呼ぶ
「ぐああああああっ!?」
凄まじい風が吹き荒れる。衝撃をモロに受け、俺の眼前で盗人が倒れ伏す。
周りには他の二人が転がっている。どうやら全員倒された後のようだ。向かい合っていたのは漆黒のコートを纏った男。
ロックバンドよろしくジャラジャラとメタリック・アクセサリーをぶら下げ、赤と黒、二色の髪を靡かせていた。
銀黒のバイクに跨りながらデッキをホルスターに収め、ゴミでも見るかのような冷たい目を倒れ伏す男たちに向けている。
「うぅ……俺の……カードが……!」
地面に散らばったカードを求め伸ばす手を、男はグシャリと踏みつけた。
「俺のカード、だとぉ……? 穢らわしい手で触るな下郎共! 貴様らのような雑魚が誇り高き決闘者たちのカードに触れ、あまつさえ所有権を主張するなど、烏滸がましいにも程があるわ!」
「ぐああああああああああッ!?」
「フハハハハ! 喚け喚け! 持ち主の元から連れ去られたカードたちの痛みを少しでも思いしるがいい!」
叫び声を上げる盗人たちを足蹴にしながら、男は高笑いしている。
この強烈なキャラは間違いない。ガレット=エクサイズだ。魔術師の名門エクサイズ家、その歴史の中でも特に優秀とされる男だ。
強大な魔力に勝負強さ、加えてその能力は性格にも強く影響し、恐ろしい程の俺様キャラに仕上がっている。
個人の能力のみならず凄まじい資産家でもあり、大量の超レアカードを用いたパワーデッキで原作でも幾度となくアルフォンスとぶつかり合ってきた、まさにライバル的存在なのだ。
……そして俺、バルスたちが取り巻いていたボスでもある。
「ぁ……ぁ……」
「ふん、下劣な盗人を鳴かせるのも飽きたわ」
つまらなそうに吐き捨てると、カードから出現させた鉄の鎖を盗人たちに巻き付けていく。
UC《アンコモン》の魔道具カード『鉄鎖の輪』だ。モンスターカードに取り付けることで攻撃にも防御にも参加できなくなる。
確か設定では彼は学生ながらプロデュエリストとして仕事もしていたはず。プロはその高い魔力とカード能力を活かすべく、企業や国に雇われている者も多い。
ガレットは確か警察組織に協力しているんだっけ。ここにいるのも通報を受けて駆けつけたのだろう。
そんなことを考えていた俺とガレットの目が合う。
「……なんだ貴様は? 見せ物ではないぞ。さっさと消えろ……ん?」
俺を追い払おうとするガレットだったが、不意にその言葉を止める。
視線は俺の後ろ、グリフォンへと向けられていた。
「クルルゥ?」
「ほう……! それはUSRカード『陽光の翼、グリフォン=シン』……! 貴様、中々いいカードを持っているではないか」
グリフォンを値踏みするように見るガレット。
辺りをしばらく観察した後、ポツリと呟く。
「大気中に残った魔力の残滓からして被害にあったショップから追ってきたようだな。アカデミーの生徒のようだが、所持しているカードの格のみならず、それを惜しげなく使う気概。その上、この俺を前にして全く怯まんとは……決闘者としてまぁまぁの器を持ち合わせているようだ。……よかろう、名乗るがいい。俺の頭の片隅に記憶する栄誉をやろう」
うわっ、めちゃめちゃ偉そう。絶対友達いないわこいつ。
……じゃなくてアレ? バルスってこいつの取り巻きのはずだろ? だったら知り合いじゃないのだろうか。
「えーと……俺のことご存知ない?」
「知らんから聞いているのだ。さっさと答えるがいい。俺の時間を無駄に使うのは許さんぞ」
苛立ち混じりに声を荒らげるガレット。どうやらマジで知らないようである。
こいつ、取り巻きの名前なんていちいち覚えてないんだな。
……そういえば原作でバルスたちはガレット様ガレット様と崇めていたが、ガレット自体はバルスたちと目すら合わせてなかった気がする。……な、なんか悲しくなってきたぞ。
「……バルス=イゴマールだ。よく覚えておいてくれ」
「バルスか。アカデミーの生徒ならわざわざ名乗る必要はあるまい? 当然知っているだろうからな」
ふふん、と得意げに笑うガレット。
いや知ってるけどさ……一体どこから来るんだその自信は。
「ふむ、警官たちが来るまでまだ時間がある、か……おいバルス、俺がデュエルしてやろう」
「……へ?」
「なぁに単なる暇潰しだ。俺の貴重な時間を使って貴様の器を測ってやろうと言うのだ。こんな機会はそうないぞ? 光栄に思うがいい! フハハハハ!」
……案外悪くない提案かもな。
ローズやアルフォンスは直接破滅フラグに繋がっているが、ガレットとのストーリー上の絡みは殆どなかったはず。
つまりガレットとならいくら勝負しても問題にはならないのだ。
強者とのデュエルは俺もまた望むところである。それに……
「いいよ。やろう。……でもただ戦うのは面白くないな」
「……ほう?」
「アンティルールでやろう」
アンティルールとはデッキ内のカードを賭けてデュエルを行うこと。
勝者は敗者のデッキから好きなカードを一枚、奪うことができるというものだ。
リアルでやればトラブルが勃発しそうな鬼畜ルールだが、このゲームでは裏闘技場などで用いられている。
まぁ公式では使われないヤクザ的なものだな。あまり推奨はされないが、互いが合意すれば問題はない。
しかもこのルールで手に入れたカードは所有権が移り、自分で作ったカードでなくとも使用可能となるのだ。
「……その言葉、俺をプロのデュエリスト、しかも警察組織と関係があると知ってのことか?」
「あんたはプロである前に一人の決闘者だ。そうだろ? ガレット=エクサイズ」
一瞬目を丸くした後、ガレットはニヤリと笑った。
「ククッ……フハハハハ! 面白い! この俺にそこまで自信満々にデュエルを挑んだ奴は初めてよ! バルス! どこまでも面白い奴だ! ……いいだろう! その心意気に応じ、完膚なきまでに叩きのめしてやろうではないか!」
計画通り、ちょっと挑発しただけで乗ってきたな。
ガレットのデッキは高額レアで固められている。つまりは宝箱のようなもの。
デッキ強化にこれほどいい相手もいない。
盗人相手に使おうと思ったデッキだが……ふふ、相手に取手不足なしというやつである。
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