第5話主人公出現!?
◇
「やばっ、もうすぐ授業が始まるじゃないか」
二人を倒した俺は教室へと急ごうとするが……流石に放っておくわけにはいかないか。
「むぐぅぅ……重い……!」
仕方ないので二人を背負って歩く。
が、大して鍛えてもないバルスの身体では二人を背負うのは厳しい。
くぅ、このままでは授業に間に合わないかも……諦めかけたその時である。
「手を貸すぜ」
不意に身体が軽くなる。
隣にいたのは黒髪ツンツン頭の爽やかな好青年だ。
彼が担いでいた一人を俺の代わりに背負ってくれたのである。
「見事なデュエルだったぜ! いいもん見せて貰ったよ。その礼と言っちゃなんだが手伝わせてくれねぇか!?」
「君は……?」
「俺の名はアルフォンス=ベニーニ。よろしくなっ!」
ニコッと爽やかに笑うアルフォンス。
名乗られてようやく思い出す。彼はこのゲームの主人公じゃあないか。
決闘者の王を目指すべく田舎から出てきた魔術師の卵。貴族ばかりのこのアカデミー唯一の庶民ということで馬鹿にされるのだが、持ち前の明るい性格とデュエルの強さで仲間を増やし、ライバルたちを倒して最後は決闘者の頂点へと昇り詰めるのである。
同じ学園に通っているんだからそのうち会うとは思っていたが、こんなに早く会うことになるとは。
「なーにハトが豆鉄砲食ったような顔してんだよ。ほら、行こうぜ! 遅刻しちまう!」
「あ、あぁ……」
言われるがまま、ザコルとカマセラを保健室に連れて行く。
用が終わって教室へ向かう道中、アルフォンスは安堵の息を吐きながら言う。
「ふぅー、あいつらを保健室に運んだってことで俺たち遅刻扱いにはならないらしいぜ。初日から遅刻かと思ってたけど、デュエル関連ならマジ許されるのな。アカデミー様々だぜ!」
この学園ではデュエルの強さが全てにおいて優先される。
即ち、授業を受けることよりもデュエルの方が大事なのだ。おかげで俺たちは遅刻を免れた。
「なぁ、よかったらお前の名前を教えてくれよ」
人懐っこい笑みを浮かべ問いかけてくるアルフォンス。
俺は少し考え込んだ後、答える。
「……バルスだ」
「バルスか。良い名だな! それにしてもさっきのデュエル、見事の一言だったぜ。あんなカードの使い道があるなんて驚いた。俺も毎日カードと睨めっこしてるけど初めて知ったぜ!」
「いやいや、偶然だよ。はははー」
「いやいやいや、偶然でそんなんなったら怖っつーの! ははははは!」
取り止めのない会話をしながら俺は今の状況に思考を巡らせる。
ようやく気づいた。恐らくこれは最初のイベントが変化した形だ。
本来の流れはザコル、カマセラにけしかけられたバルス《俺》がアルフォンスに挑んで敗北。残った二人が負けたバルス《俺》を抱えて去っていく……というものだ。
しかし俺が二人を倒してしまったから、こんな感じに変わってしまったんだろうな。
ゲーム内でバルスはアルフォンスに難癖を付けてはデュエルを挑み、その都度自爆して最後は没落の運命を辿る。
破滅の運命を覆すべく(そこ、自分の欲望の為にとか言わない)チートデッキを使うことにした俺だが、よくよく考えたらアルフォンスとあまり仲良くなるのは危険かもしれない。
何せこいつはこのゲームの『主人公』なのだ。
コンテニューやら様々なスキル(このゲーム、隠し要素だが各キャラごとにドロー力などが異なっており、主人公アルフォンスは成長すれば最強クラスになるのだ)などの主人公補正がいつ発揮されるやらわかったものではない。もちろんこの状況でそんなものが使えるのかどうかは不明だが、なんにせよ俺のチートデッキすら通用しない可能性がある相手だ。
そうなるとせっかく回避しているはずの破滅ルートに向かう可能性もゼロではない。……彼に関わるのは危険だ。
警戒する俺にアルフォンスは笑顔と共に手を差し出してくる。
「なんかよぉ、お前とは良いライバルになれそうだぜ。なぁバルス、よかったら放課後俺と
アルフォンスの提案に俺はしばし悩んだ後、首を横に振って答える。
「いや、やめておくよ」
「なんでだよ? なんか用でもあんのか?」
「……ふっ」
首を傾げるアルフォンスの方をまっすぐに向いて、俺は笑う。
「ふはっはっはー! それは君があまりに弱いからさ! アルフォンス=ベニーニ、君のような雑魚が俺に挑もうなんて百年早いんだよ! もっと修行して出直してきな! 尤も? たかが平民ごときが何年修行しても俺には勝てはしないだろうけどなぁ! はーっはっはっは!」
高笑いしながら俺は踵を返す。
……これでいい。これだけ言えばアルフォンスも俺に嫌われていると悟って二度と話しかけてはこないだろう。
俺だって本音で言えば彼とデュエルしたい。だがそうすると変なフラグが立ってしまう恐れがある。
本来なら俺は破滅ルート一直線のかませ悪役、バルスなのだ。バッドエンドを防ぐにはアルフォンスとの関わりは極力絶っていた方がいいだろう。
思ってもいないことを言うのはとても心が痛むがこれも仕方ないことなのだ。
悔やみながらも足早に去っていく俺の背に、熱い視線が感じられる。
「あいつのデュエル、俺には理解できねぇ凄まじさだった……見たこともねぇカードの使い方に誰もやったことがねぇコンボ! 伝説の大魔術師と謳われた賢王ウィジャヤをも超えてるかもしれねぇ。……へっ、そんなバルスと今の俺じゃあまともなデュエルになるはずがねぇ。このアカデミーでは敗者はどうしたって軽く扱われちまう。いじめられる事なんてしょっちゅうって話だぜ。バルスは転校してきたばかりの俺にそんな辛い目をさせないよう、わざと嫌われるようなことを言って戦いを回避してくれたんだ。強く賢いだけでなく、優しさまで持ち合わせてるなんてよ……戦う前から勝負はついてたってワケか。だが俺も決闘者としてこのままでいるつもりはねぇぜ! いつかはバルスに俺のことを認めさせ、向こうの方から勝負したいと言わせてやるからよ!」
……なんだか背後からものすごく熱い視線を感じるが、多分気のせいだろう。
俺は背筋が冷たくなるのを感じながら、教室へ急ぐのだった。
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