第4話デュエルって楽しいね。

「呪文カード、『選択』。一枚引いて一枚捨てる」


まずはデッキ圧縮用カードを使う。丁度手札に二枚来ていたので二回唱えておく。

二枚ドロー、二枚捨てる。


「ぷぷっ、んな雑魚カード入れるやついるか普通よぉ!」

「デッキ容量の無駄ですよ。無駄。強いモンスターの一体でも入れるべきでしょう」


モンスターカードは原則1ターンに一回しか召喚できないからな。

このゲームにおいてモンスターカードは非常に強力。一回の攻撃でプレイヤーのライフを削り切ることも多いが、その分制約も大きい。


「呪文カード『霧隠れ』を使用。このターン俺はあらゆるダメージを受けない」


俺の周囲を霧が包む。

つまり一ターンのみ無敵となるカードだ。

直接アドバンテージは得られないが、相手の攻撃を無効化する以外にも意外と使い道があるのだ。


「おいおい、使うタイミング間違ってねぇか? 『霧隠れ』は優秀なカードだがモンスターの攻撃を防ぐ為に使うモンだろ? お前のターンで使ってどうするよ?」

「きっと手札を整理したいんですよ。ターン終わりまでに使い切らないと捨てなければいけませんからねぇ。ククッ、十枚もカードを引くからこうなるんですよ。愚かですねぇ」


大量の手札をどんどん消費するべく、二人に構わず新たなカードを場に出す。


「呪文カード『当たりか外れか』。五枚のカードを引き、対戦相手はそれを二つに分けて選んだ方を手札に加える」


五枚のカードを引き、二人に渡す。

訝しむような顔をしながらカード束を二つに分け、俺は片方を手にし、もう片方を墓地へと送る。

キーカードを落とされる可能性はあるが、最低でも三枚はカードを手に入れられる非常に優秀なドローカードだ。


「へっ、それにしても運がねぇ奴だ。五枚も引いておきながらモンスターカードがゼロとはな。しかもクソカードしかありゃしねぇぜ」

「それに僕たちに分ける方を選ばせるなら、自分が欲しいカードを取るにはクソカードとの束を選ばなきゃダメじゃないですか。こんなクソカード入れるなんて、よほど入れるカードがないと見ましたよ」


と、思われるが『当たりか外れか』は実際使えばわかるが意外に嫌らしいカードだ。

確かに相手が選びはするが目当てのカードは手に入るし、そうでなくても大量のアドバンテージが得られる。

しかも二人はよくわからず選んだのか、キーカードが二枚とも一束にされていたのでありがたく受け取っておく。


「魔法カード『結界構築』。こいつは追加コストとして一枚カードを捨てることで発動。好きな結界カードを一枚デッキから抜いてくることが出来る」


デッキを手に取り、目当てのカードを探していく。


「おいおい、いつまでデッキをゴソゴソやってんだよ。決闘者ならさっさとかかってこいや!」

「そうですよ! どうせ負けるんですからあまり待たせないで下さい! 我々はあなたと違って忙しいのですから!」


流石に二人も苛立ち始めたようだ。

いかんいかん、この手のデッキはどうしても自分のターンが長くなるからな。

急いでいたつもりだけど、早くしないと怒らせてしまう。デッキから抜いてきたカードを、そのまま場に出す。


「結界カード『粗末者への罰』をセット! このカードが場に出ている限り、各プレイヤーは一枚カードを捨てるたびに300のダメージを受ける」


カードから出現する鉄線が俺たちの足に絡みつく。

手札を捨てることで効果が発動し、鉄線から強力な電撃が与えられるのだ。

しかし二人はそれを見て大笑いする。


「ぶはーーーっ! 馬鹿だぜこいつ! お前の手札、今十枚以上あるだろがよ! ターン終了時には七枚になるよう捨てなきゃいけねぇんだぜ!? ダメージ受けるのはお前だろうがよ!」

「しかもバルス君の現在のライフはたったの100ということをお忘れですか!? 一枚捨てただけでおしまいなのですよ!?」


放置して構わずターンを続ける。

あまり待たせすぎるのは悪いからな。


「更にもう一枚『結界構築』を発動! サーチしてきた『粗末者への罰』二枚目をセットする!」


二枚目の『粗末者への罰』で足に絡まる鉄線は二倍になる。

当然ダメージも倍だ。


「いやいや! こんなもん二枚も置いてどうするよ!? 意味ねーだろ! どうせお前は一枚でも捨てたら死んじまうんだからよぉ!」

「なるほど、盛大に自爆するつもりなんですねぇ? なるほど確かに、そうすればバルス君は僕たちには負けなかったことになりますからねぇ」

「ばーーーか! 自爆だろうがなんだろうが負けは負けだ! そんなこともわからねぇのか!?」

「ククッ、言わないであげて下さいザコル君。これが彼の知能でできる精一杯の抵抗なのですよ」


これで準備完了。あとはこれで終わりだ。

手札から選んだカードを一枚、場に出す。


「魔法カード『空想の手札』。お互いのプレイヤーはカードを七枚引き、その後カードを七枚捨てる」


場に出したカードからもうもうと煙が上がり、互いのデッキから七枚のカードが引かれ、手札に加えられる。

イメージ的には空想の手札は後で捨てねばならない、というところだろうか。


「ぷぎゃあああああ! この後に及んで俺たちの手札まで良くしてくれようってのかぁお前はよぉ!? なんか悪ぃなぁオイ!」

「なるほど、接待プレイをして我々のご機嫌を取ろうというわけですね? その考え自体は中々悪くありませんが、なんとも卑屈ですねぇバルス君は。まぁその程度で加減を期待しているのなら無駄もいいところですが!」

「まぁいい。なんにせよカードの効果で七枚引かせて貰うぜ! おっほ! 流石に十枚越えの手札はテンション上がるなぁ。次のターンはこいつとこいつを出して、一気に叩き潰してやっかよ。へへへ」

「僕もかなり充実した手札になりましたよ。これなら次のターンで撲殺することも可能ですね。さて次は……カードを七枚捨てる、でしたか」

「これだけ有用な手札だと何捨てるか困るなぁ。とりあえずこいつを……」


一枚、ザコルが手札を捨てた瞬間である。


「うぎゃああああっ!? い、いでェェェェェッ!?」


バリバリバリバリ、と電流が走る。


「だ、ダメですザコル君! 場には『粗末者への罰』が二枚も出ている! 手札を捨てたら600ダメージを受けてしまいますよ!?」

「はッ!? そうか忘れてた! じ、じゃあ七枚捨てなきゃいけねぇってことは……」

「7×600で4200ダメージ……即死です!」


二人の顔がさーっと青ざめていく。

そう、これはWDGを冬の時代に貶めた鬼畜コンボ、『空想者への罰』だ。

『粗末者への罰』と『空想の手札』、どちらかが二枚あれば即死が成立するというお手軽さから、発売してから初めて行われた公式大会で猛威を振った。

なんと大会参加者の七割がこのデッキを使用し、残り三割はそのデッキをメタった(対策した)デッキだったのである。

特に『空想の手札』はそれ自身が優秀なドローカードであり、コンボパーツを探す鍵にもなっている為、大会終了後即座に禁止カードにされた。これはカードゲームギネス最速記録であり、不名誉にもまだ破られていない。

更にキーカード以外にも大量ドローができる『喉から出る手』とエンチャントをサーチできる『結界構築』も制限カードに落とされた。

そんなチートカードたちもゲームなら使い放題。当然、各々三枚ずつ入っている。

残りは細かなドローカードやカウンター、防御、デッキ圧縮カードをお好みで少々入れれば完成である。


ちなみにこのデッキの1ターンキル率は90%。一人で1000回やった結果だ。……暗いとか言わないでくれ。頼むから。

……ま、ライフを支払った瞬間に直接火力で倒される可能性があるし、防がれたらどうしようもないから使用には細心の注意が必要なんだけどな。

速度重視のコンボデッキというのはむしろ弱点の塊なのだ。そこがまた楽しいんだけどな。


「ありえねぇッ!? 俺たちがバルスごときに……いや待て! そうだ! カードの効果でこいつも同じだけダメージを受けるはず! なら引き分けじゃねぇか! そうだろカマセラっ!?」

「……だ、ダメです! 奴は『霧隠れ』を使っている。このターンあらゆるダメージを受け付けません……!」


その通り、先刻使った『霧隠れ』により俺はこのターンあらゆるダメージを受けなくなり、手札を捨てても俺にダメージが入ることはないのである。

コンボパーツだけでなくいざという時の防御用にも使える優れ物だ。


「さて、と」


ぱさっと手札を捨てて、言う。


「効果を解決していいかな?」

「ぐ、ぐぅぅーーーっ! 何か、何か手は……」

「無理です。我々ができることはただ一つ……」


デッキの上に手を乗せ、頭を垂れる。

それは投了サレンダーの所作であった。同時に、


「うっぎゃあああああああああああああああああっ!?」


凄まじい電撃が二人に流れる。あ、投了してもダメージからは逃れられないんだ。

あ、サレンダーでも痛いものは痛いんだ。そういえばさっき二人が自爆でも負けは負けとか言ってたっけ。

めちゃくちゃ痛そうだし可哀想だけど……俺は口元に浮かぶ笑みを抑えきれずにいた。

やっぱりチートデッキを使うのは楽しすぎる。


「ありがとう。いい勝負だったよ」


俺は気を失い倒れる二人に、そう礼を言うのだった。

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