第3話これがデュエル…悪くない!
「な……ふ、二人まとめてかかってこい、だとぉー!? ふざけやがって! 何様のつもりだ!?」
「ふふふ、冗談が上手くなったじゃないですかバルス君。ですが決闘者というのは嘘をついてはならないんですよ。デュエルに関しては特にねぇ……!」
全身を震わせながら二人は俺を睨みつけてくる。
……ちょっと言いすぎたかな。決闘者は何よりも誇りを重んじる。
格下相手に二人がかりで来いなんて言われたらブチ切れてもおかしくはないだろう。
さっきまでの舐め切った表情はどこへやら、二人は俺を殺意に満ちた目で睨みつけてくる。
でもすまない。お前らかませが相手じゃ、二人同時でも足りないくらいなんだ。
「嘘でも冗談でもない。それとも俺相手にビビってないよな?」
その言葉が引き金だったようで、二人は俺に向かい立つ。
「ククッ……いいだろう。上下関係というものを嫌というほど叩き込んでやろうじゃねぇか!」
「このカマセラとザコル君のコンビプレイ、味わって貰いましょうか! 君のその身体を持ってねぇ!」
手にはバインダーから取り出したデッキを。俺もまた同じくデッキを手にする。
「デュエル!」
俺たちの声が示し合わせたかのように重なった。
◇
WDGルール説明!
お互いのライフは4000からスタート。
四十枚のデッキを用意し、コイントスで先攻後攻を決めるのだ。
そこから引いた七枚を初期手札とし、ターン毎にカードを一枚引いていく。(先攻は公平性を期す為、ドローなし)
様々な魔法カードを使って相手のライフをゼロにすれば勝利である。
デッキには同じカードは三枚しか入れることが出来ず、使用、あるいは倒されたモンスターカードは墓地へと送られる。
モンスターの召喚は1ターンに一回のみ。
手札が七枚を超えた場合はターン終了時に七枚になるよう捨てねばならない。
これらの魔法カードを上手く活用して最強のデッキを作り、対戦相手に勝利するのだ!
※なお本作ではストーリーモードに関しては公式ルールは使用しておらず、禁止、制限カードなどは存在しない。
◇
「今回は二体一の特殊デュエルの為、バルスのライフは倍の8000としてやろう」
「それだけじゃありません。通常一枚のところ、二枚のドローを許可してあげようじゃありませんか」
いわゆるハウスルールというやつだ。
この手の非公式カジュアルプレイでは適当なルールを付けて、公平性を得る場合がある。
わかりやすく言えばハンデ戦とかだな。
ライフが倍、ドローも倍なら毎ターンなら公平だろうと言う事だろうが、手札が何枚あってもマナがなければ魔法カードは使えないので大きく不利なのは変わらない。もちろんないよりは全然マシではあるのだが……
「不要だ。普通の条件で相手させて貰うよ」
「チィ……どこまでもバカにしやがって……!」
「まぁいいではありませんか。後悔して貰いましょう。せいぜいねぇ?」
ザコルが親指でコインを弾く。空中で舞うコインが落ちてくるその前に、
「表」
「裏」
互いに言い終えると同時にコインがザコルの手に落ちた。
開いたそこにあったのはコインの表。
「ふむ、どうやら我々が先攻のようですね」
ザコルが七枚カードを引く。
引いたカードを一瞥し、その中から一枚を選び取って場に出す。
「『悪食ゴブリン』を召喚です!」
カードを場に出すと同時に立体映像が眼前に浮かぶ。
腐った肉を食べるゴブリンだ。
VR技術の進歩により、昨今のカードゲームでは立体映像となって現れるものは意外と多いが、ゲームの中だけあって圧巻だな。
「『悪食ゴブリン』のレベルは2、パワー1100/タフネス800となんの能力もないモンスターカードですが、君相手ならこれで十分でしょう。呼び出したターンは召喚酔いにより攻撃出来ません。ターンエンドです」
「続いて俺のターンだぜ!」
即座にザコルのターンが始まる。
「『黒鉄の剣士バルトロ』召喚!」
出現したのは黒光する鎧を着込んだ剣士。
レベル4、パワー1500/タフネス1200と先刻のゴブリンと比べてややレベルの高いモンスターだ。
とはいえこっちもなんの変哲もないモンスターカード。まぁこの二人ならこんなものだろうが……と考えていると、ザコルはニヤリと笑う。
「加えてこいつを使うぜ! 『燃える鉄の具足』をセット! こいつはレベル4以下の戦士系モンスターにしか装備できねぇが、パワーとタフネスを400ずつ増やし、更に速攻を得る事が可能! 速攻を得たモンスターは召喚酔いに影響されず即座に攻撃が可能! よってバルス、場にモンスターのいねぇ無防備なテメェに直接攻撃を仕掛けるぜ! 行きやがれ! 『黒鉄の剣士バルトロ』!」
「ウオオオオオオッ!」
咆哮と共に繰り出される斬撃が俺の胴体を袈裟懸けに切り裂く。
瞬間、本当に斬られたかのように錯覚する程の衝撃が突き抜けた。
「ぐあああああああっ!?」
思わず胸元を押さえる。
斬れては……いない。だが痛みは本物だ。
膝を突く俺を見下ろし、二人は嗤う。
「ククッ、ようやく笑みが消えたな。そうとも、デッキに使われるカードには己の魂が宿っている。故にライフを削られればその痛みが魂をも削り、まるで本当に攻撃を受けたような感覚がプレイヤーを襲う! よもや忘れたわけではあるまい?」
そういえばこのゲームでは、ダメージを受けた際にキャラたちが呻き声を上げるんだった。
あれは本当にダメージが入ってたのか。対戦が終わったらヨロヨロしてたしな。
……ま、死ななきゃ安いって言葉もある。
俺のライフは2100、一気に半分か。このゲームはモンスター同士のバトルがメインになるよう設計されているから直接攻撃を受けると死ぬほど痛い。
「さぁお前のターンだぜ!」
なんとか立ち上がりながら、デッキからカードを一枚引く。
引いたカードと手札をじっくり眺め、考える。
「おいおい、1ターン目から長考かぁ!?」
「うふふふ、ビビっているんですよ。可愛いじゃないですか。僕たちの下僕だった時のことを思い出しているのかな?」
なんか言っているが考え中なので耳に届いても頭から即座に抜けていく。手札を見て計算しているのだ。これでワンキルいけるのかを。
んー、コンボパーツは揃ってると思うが、初手で1900ダメージも喰らって、俺のライフは2100しかないんだよな。
余裕かましてしまったが結構ギリかもしれない。……ま、多分いけるだろ。
「魔法カード、『喉から出る手』を発動」
まず使うのはこのカード。
出現した伸びる手が、不気味にケタケタ笑っている。
こいつはライフ200を支払う度に一枚カードを引くことができるというものだ。
「十枚ドローする。その代わりにライフ2000を支払う」
カードから伸びる手がデッキから抜いた十枚のカードを俺に渡してくる。
その瞬間、バリバリバリバリ、と電撃が俺を貫く。
「ぐっ……!」
「ぶはははっ! おいおい『喉から出る手』は優秀なドローカードだが、後半どうしようもなくなった時に使うカードだろ! 初手で使ってどうすんだよ!」
「しかも一気に十枚ですと!? 手札はターン終了時に七枚を超えたら捨てなきゃいけないのですよ!? それに君のライフはあとたったの100! そんな状態で一体何ができるって言うんですかぁ!?」
二人が大笑いしているが、痛みで全く聞こえない。
……いやはや、こいつはかなりのもんだな。
だが、これから一方的にボコリ倒すんだから、このくらいのダメージは受けておいた方が俺の精神衛生上、良いってものだ。
「じゃ、いくぞ」
そう呟いて俺は、デッキとほぼ同じ枚数となった手札から、カードをピックするのだった。
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