八羽 へやんぽ湯たんぽ下僕三号
なんやかんやありつつ、陽も暮れてきたところでカルナシオンは下僕たちに命じた。
「ギル。お前は夕飯をつくれ」
「仕方ありませんねぇ」
「アル。お前はうさぎさんを温めろ」
「ああ、わか──……??」
アルクァイトは悩んだ。
温めるとは、何事であるかと。
「うさぎさんは温度の変化に弱い生き物だそうだ。お前が一定の心地よい温度を保ってやれ」
「……なるほど」
『みぇ……』
竜、中でも炎を自在に操るアルクァイトは、自身の体温をも自在に操った。
「うさぎさん。アルは、顔は怖いが危害を加えることはない。安心してくれ」
「……っ」
「すごい複雑な表情ですねぇ」
アルクァイトは顔が怖いと言われ心外に思いながらも、カルナシオンからの信頼にも似た言葉に喜ぶ。ものすごく変な表情をしていた。
「少し席を外す。うさぎさんをよろしく」
『ほあ……』
そう言うとカルナシオンは別室へと向かっていった。
「じゃ、あたしも」
ギルクライスは命じられた通りにキッチンへ。
「……」
『みぇ……』
広々としたリビングに相当する部屋。
一人と一匹。一体と一羽。
互いに目を合わせようか合わせまいか悩む。
『! おそろいでし』
「?」
『おみみ、きれいでし』
すると、うさぎさんはアルクァイトの左耳に輝くものに気が付いた。
「ああ、これか」
優しく、大切なもののように触れる。
自分の一部であるというのに、変な話だ。
「我が竜麟をドワーフどもに加工させた」
まるでカルナシオンと対になるかのように耳元で輝く下僕となった証は、人間という種族への偏見を悔い改めよという自分への戒めでもあった。
カルナシオンにボコされた際に剥がれた竜麟なのである。
『きれいでし~』
すっかりアルクァイトから剣を突き付けられたことなど記憶の彼方となったうさぎさん。
興味の対象がすぐに移り替わるのは、いつものことだった。
「?」
そして耳飾りの秘密を教えてもらったうさぎさんの次なる標的は、部屋の中だった。
『へやんぽでし~』
お部屋の散歩。略してへやんぽ。
ペットショップにいた頃は一日の大半をケージ内で過ごしたものの、閉店後に店員である人間により部屋に解き放たれることもあった。
ぺったん、ぺったん。
ジャンプした時の機敏な動きとは対照的に、部屋の中にある一つ一つをゆっくりふんふんと鼻をひくつかせ確かめる。
好きな食べ物があったならいいのだが、なにぶんここは魔導師の家。
あまり興味は惹かれなかったようで、最終的に温かい場所へと落ち着いた。
「……!?!?」
『ぷぅ……』
ちょこん、とアルクァイトの足元に寄り添ううさぎさん。
時折鼻息をたてながら、うさぎさんは前足を仕舞い込み、体を丸めて休憩した。
◆
「おや」
先ほどと変わり、麻色の服を纏ったカルナシオンがリビングへと戻ると、その光景に満足した。
「いや、これはだな……」
「よかったではないか。…………私でさえ、まだ寄り添ってもらえていないのに……ッ」
「!?」
一旦満足はしたものの、やがてそれは嫉妬へと変わっていった。
『んみ?』
ゆらゆらと眠気に誘われかけていたうさぎさん。
目覚めると、主人の変化に気が付いた。
『! なんだか、ちがうでし』
カルナシオンの髪がゆるく一つに結われていたのだ。
それを見たアルクァイトもまた気付く。
「カルナ。
「ん? ああ、風呂に入ったからな。濡れるのイヤかと思って外したぞ。あとでまた付ける」
「そっ、そうか。なら、……いい」
『うれしそうでし……』
自分があげたものを大切に扱っているのだと知ったアルクァイト。
照れた様子で顔を背けると、うさぎさんは主人に訊ねた。
『げきりん、でしか?』
「私が着けていた耳飾りだ。竜が触れられたらイヤなものだと」
『ほあー』
うさぎさんは、自分にとっての足やお腹のようなものだろうかと想像した。
確かに弱点を触れられるのをイヤがるのは、生物の本能である。
「私はアルに勝ったからな。強者の証として許されたのだろう。耐火性能、便利だぞ。炎の威力も上がるし」
『ほあー、すごいでしねぇ』
うさぎさんは自分の毛にもそんな効果があればいいのに、と羨ましく思った。
「……」
「? どうした、アル」
「いや……」
カルナシオンは対人能力0である。
もちろんコミュニケーション能力という意味では、対竜能力も0だろう。
アルクァイトの真意には、この先も気付くことはないのだ。
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ギリギリうさぎ年に公開できて良かったです。
よいお年を!
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