七羽 拗らせ下僕のアンダーソン
「──カルナ」
「すまないな、アル。いきなり呼び出して」
突然の召喚に動じることなく、アルクァイトはその険しい視線だけをカルナシオンへと向けた。
『ほあー』
うさぎさんは思った。
ちょっと胡散臭いギルクライス。見た目からして人間と違う
カルナシオンの下僕というのは、どれも変わった人物であった。
しかし、目の前の人物はパッと見る限りカルナシオンと同じ人間。
表情は険しいながらもギルクライスと違い真面目そう。
そう。いくら見目がカッコよく映ったとしても、ちがったとしても。
うさぎさんの中の印象は変わらない。
彼は元『ヴォルカニック・アンダーソン改』、その人なのである。
うさぎさんの中での三号の印象は、『なんか長い名前のすごそうな人』なのである。
うさぎさんは、そういう意味も込めて『カッコいい』と思った。
「……なんだ、これは?」
腕を組み、うさぎさんを睨みながらも言う。
低音で心地よいはずの男の声は、今この時に限り恐ろしいものとなった。
「うさぎさんだ」
『は、はいでしっ』
カルナシオンは、これまでの経緯を簡単に説明した。
「……」
話を静かに聞き終えると、右眉がピクリと跳ね上がる。
──納得がいかない
アルクァイトの表情は、明らかにそう物語る。
「アル、だから──」
カルナシオンが言うや否や、アルクァイトはその腰元の剣を目にもとまらぬ速さで抜いた。
『ミエーーーー!?!?』
「カルナの従者に、弱者など不要」
怒りにも似た剣。
淡々と、粛々と、まるでそうすることが当然とでも言うようにうさぎさんに向けて刀身を抜いたアルクァイト。
「あらあらぁ、主どの。どーします~?」
「はあ……」
ぎろりと睨んだアルクァイトに怯むことなく、ギルクライスは主に問いかけた。
「アル──、【待て】」
「っ!!」
途端、召喚にも動じなかったはずの男は、突然の首元の激痛に膝を折った。
「言うことが聞けぬのならば仕方あるまい。──【おしおき】、だ」
『みぇ……』
カルナシオンの雰囲気は、一変した。
ずしりとした空気。あるはずのない重さを
うさぎさんは初めて感じる彼の威圧感に、思わず鼻を動かすのも忘れていた。
生命の危機。
体のどこかで鳴り響く警戒音が、この場を離れろというのに体はまるで動かない。
カルナシオンは、この場の『恐怖』そのものだった。
「……っ」
その雰囲気がアルクァイトを飲み込もうとする。
赤い眼差しが同色の髪を捉えると同時、アルクァイトに変化が起きた。
『……?』
震えている。
それも、うさぎさんのように怯えたり、痛みに対するものではない。
「っ、素晴ら、しい……!」
『みぇっ』
からんと音を立て手から離れた剣ですら、先ほど魔法陣が現れた際のギルクライスのように、どこかアルクァイトから距離をとりたがっている。
「カルナ、いいぞ……もっとダ、……モット──!!!!」
「──はい、おしまい」
パンッとカルナシオンが手を叩くと、その重苦しい雰囲気は跡形もなく消え去った。
「!? なぜっ」
「それ以上やるとアルが竜化するだろ。まぁ、させないけど」
『……りゅうか、でしか?』
うさぎさんは知る由もないのだが、先程のカルナシオンは魔力を放出して殺気を放っていた。アルクァイトは、それを心地よいと思っていたのである。
「『
『??』
竜。生物の頂点とも言われる種族。
長い時を生き、凄まじい力を有するとも言われる彼らは、基本的に人前に姿を現すことは少ないものの、中には人間と同じく個性的な面々もいた。
アルクァイトもその一翼。
珍しく好戦的な竜で、どの時代にも強者と戦うことを生きる目的としていた。
とある魔族と激闘を繰り広げて付近のドワーフたちに迷惑を掛けていたところ、例によって偶然通りかかったカルナシオンにボコされた。
永遠にも似た生を送る長命種にとって、『死』に対する感情はうさぎさんや人間と異なる。
自分に『死』をもたらす存在に出会えるなど、一生に一度あるかないかだ。
人間でいうところの『運命の出会い』というものがあれば、まさにそれだろう。
強者を追い求める、とはいっても負けることなど想定しない炎の覇者は、カルナシオンに多大な興味を示した。
その結果、自ら下僕に志願した奇特な竜である。
「まあ、うさぎさんを手に掛けようものなら下僕解消だから」
「!?」
「うわー、それは効きますねぇ」
血の気が引くとはこのこと。真っ青になったアルクァイトの表情。
カルナシオンとの再戦……いや、全力での死闘を望むアルクァイトにとって、彼との縁が切れることは生の目的を失うことに等しい。
「そ、それはっ、……困る」
「アル、言っただろう。変わらねば再戦には応じないと」
ヴォルカニック・アンダーソン改。
カッコいいような、平凡なような。一つ一つはいい名前であるはずなのに、なぜよりにもよってそれを組み合わせた? と言いたくなる名前。
大半はカルナシオンのセンスであるものの、改とはつまり、『改心せよ』の意であった。
カルナシオンは現在、アルクァイトに命じている。
力を競うこと自体がわるいわけではなく、他を巻き込むのがいけないのだと。
それを学ぶためカルナシオンが竜化を封じて冒険者となり、か弱き者たちとの生活の中で、力を制御する術を身に着けよと。
……と、ここまでは理にかなっているのであるが。
その冒険者業で稼いだ一部をカルナシオンは上納させていた。
簡単に言うと、現在カルナシオンはアルクァイトのヒモなのである。
「この痛み……」
『み?』
「それすなわち────愛!!!!」
『ミエーーーー!?!?』
うさぎさんはまたも悟った。
この者もまた、もれなくヤバい下僕であると。
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某兄貴の曲に合わせてタイトルを読むと、しっくりくると思います。
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